20 エリアドルの魔法みたいなこと
「目を覚ました、って」
大きなため息を吐いて安心したビタを、つぶらな瞳が見ている。
「素直なおひとや~。心配してくれてありがとうな」
「そう言えば、君は名前なんて言うの?」
「マサユメ」
「眉毛、独特ね」
「そうなの、麿眉なの」
「ぬいぐるみ、ってはじめてみた」
「会話できるやつ?」
「ううん、ぬいぐるみ自体」
「ほ~・・・エリアドルはお前さんを気に入ったのかもしれないことを言っておこう」
「・・・ん?」
「知らないふりを・・・しておるのかの?」
数秒して、ビタが両手に抱えた蝶々花を示します。
「これ、煎じて飲むといいから。お届け物係として、彼のところ、持っていくわ」
「うんうん、僕もそうする」
苺沢には休むにはちょうどいい大きな岩があって、
エリアドルはそこに腰かけ、自前の弦楽器を爪弾いて歌いだした。
歌の途中、伏し目だった彼がビタに気づき、そして目を合わせたまま詩を続けた。
『 そちらには、魔女の住む城があるとか
善き者か、あしき者かは、まだ分かない
清き聖霊が祝詞を踊っても
可愛い妖精が、花の周りを飛ぼうとも
夢に見た、彼女の笑顔は
まるで木漏れ日みたいで美しい
四季の移り変わりはあるけど
きっと、私の想いは変わらない
展開も、進展も認めようじゃないか
彼女のことをもっと知りたい
あの雲を摘んで、甘くして
海は高揚にピンクに染まる日もある
それは夢の中で終わる、幻か
はたまた、私の昔話 』
ぱらぱらと、周りにいた妖精たちから拍手が起こる。
エリアドルは口元を少し上げた。
何故か少し嬉し気に、ビタを見てエリアドルは言った。
「・・・『 幻想の待ち人 』っていう曲なんだ」
「・・ああ、そうっ」
ビタが近くにいた医務係妖精に、蝶々花を押し付け渡します。
なんだか顔が真っ赤になっていく自分に気づいて、焦りだすビタ。
急いできびすを返してその場を離れます。
荷物から組み立てたテントの中から、アリアスが出てきて近くの妖精に言います。
「他にピンクの赤い髪っていないのかい?」
「いないと、思う・・・この里にはビタひとりだけだよ。多分」
「ふんふん」
妖精図書館にいるルーアンとフセンに会いに行き、ビタは泣き出します。
「どーしたっ?」
「ルーアン、なんだか最近、なまりがとれてきてなぁいっ?」
「俺様フセンの意向だか、何かそれが泣いてる原因かっ?」
「違うっ」
「「じゃあ、なにっ?」」
「あいつ、なにーーーーーーーーーーーーーっ?」
他の客たちが、ざわざわとしています。
書蟲が、どん、と三人を妖精図書館から追い出しました。
フセンの荷物ごと、です。
妖精図書館のすぐ側に蝶々花畑があって、そこに美少年エリアドルがいます。
球を思わす両手の中に息を吹き込んで、蝶を飛ばすと風が花を揺らしました。
ビタに気づき、嬉し気にして、彼は「ビタ」と美しい声でビタを呼びました。
「な、なに?」
「君の名前、ビタって言うんだよね?」
「そうよ」
「いつか、君と結婚したい」
怒髪天にも似た勢いで真っ赤な顔をしたビタは、気絶しました。
そして目が覚めた頃、ビタの目の前にエリアドルのキス顔。
「ちゅー・・・」
すぱーん、と平手打ちをしたビタが、「勝手にするな」と大声で言います。
エリアドルが「身体の大きさが違いすぎる気がする」とぼやきます。
気づけばそこはテントの中で、座っていたアリアスが言います。
「あの曲はね、我々の里で恋をした男しか歌えないものなんだ」
「そんなことってあるの?」
「まるで魔法みたいだろ?」
「え・・・うん、うん・・・え?うん」
「まるでエリアドルの魔法みたいなことだ・・・」
「なんで自分で言ったんだろう?」
アリアスは小さくかぶりを振ります。
「よく、分からない」




