10 空想屋係フセンのとんでもないお願い 後編
「なるほど」
「あ」
勝手にスケッチブックを見たビタは、そこにルーアンの似顔絵を見つけます。
「ふんふん、書蟲さん、これ、見て?」
「ああ、ええ、愛の匂いがします。大丈夫、このひとルーアン本当に好きだよ」
「なるほど、だったら親友として気持ちを届けるわ」
何が好きなのかなぁ、と空想をはじめるフセン。
だから、お花はけっこ好きだって言ってるじゃなないの、とビタ。
惚れ薬入りのクッキー、とぼやくフセン。
なんて?とビタ。
ビタが書蟲を見ると、書蟲がかぶりを振ります。
本の山を見てみると、お菓子作りの本を発見。
顔をしかめるビタ。
ビタが書蟲を見て、書蟲はかぶりを振ります。
「そう言えば、髪の毛短いひとが好きだって言ってましたよ」と書蟲。
ルーアンが?とビタとフセン。
「ええ、昔ですけど」
フセンは茶色い束ねてある長髪を、持っていたナイフを取り出し、切り落としました。
何やってるのよ、とビタ。
「しょうがない、髪の毛、整えてあげますから」と書蟲。
出来栄えに鏡を見たフセン。
そこに、ルーアンが妖精図書館にやって来ます。
鏡チェックに夢中で、ルーアンに気づかないフセン。
ビタがルーアンに挨拶をすると、ルーアンがフセンに気づきます。
「髪の毛・・・切ったんけ?」
「想い人が髪の短いひとが好きだって。それを聞いてね・・・」
「そうなんけ・・・もう、帰ぇる」
いきなり涙を流しながら飛び去って行くルーアンに、ビタは呆然。
「どういうこと・・・?」
ちょっとそこのお嬢さん、と書蟲が声をかける。
「ルーアンは昔、フセンの髪が短かったから、
『髪の毛短いひとが好きだ』って言ったんですよ。
ルーアンはフセンの好きな喋り方どんななのかとか悩んで本を読みに来ます。
彼女、みんなからお花をもらって嬉しそうにしているのを
フセンがよく思わなかったような気がして、お花もらうのやめたんです」
偶然聞こえていたフセンが、驚きすぎて鏡を落とす。
割れた音がしましたが、誰も気にいしていない様子。
「話を続けますが、あなたはルーアンに誤解をさせてしまいましたよ。
ルーアンはフセンが好きなんであって、髪の毛の長さじゃないです」
「それがなに?」
「フセンが髪の毛を自分のために切ったこと、気づいてませんよ」
「大変だぁーーーーっ、お届けいたすーーっ。フセン、参ろうぞーっ」
ビタが叫ぶと、さすがに図書館内にいた妖精たちが、しーと言います。
書蟲が、切った髪の毛と割れた鏡の掃除をフセンがしてからです、と言う。
早くお届けしたいから、お掃除手伝うよ、とビタ。
「やばい、やばい、先輩が来た。匂いがする。先輩の匂いがする」
フセンは高速で掃除をして、やって来た豊満な体つきの熟女妖精に挨拶をする。
「ぼうや、恋をしたね。物書きとして毒になるか薬なるか楽しみだえ。
さてさて、昔のことを調べに行くところだった。ごきげんうるわしゅう」
扇子で自分をあおいでいて、香水の残り香を残して、その作家妖精は奥に姿を消した。
「匂いを追って、彼女を見つけられるんじゃないの?」
「彼女はすごい物書きで、作家妖精なんだ。
ペンネームのままビックリ・マザーと呼ばれているよ」
ビタが書蟲に聞く。
「ビックリ、って驚きって意味の?」
「そう」
「だからフセンって、ビックリするとおかしくなるの?」
「いいえ、彼の場合、生まれつきです」
「そうなの」
そうだ、と声を上げたフセンに、図書館にいる者たちがしーと言う。
夜、料理番だからきっとそこにいるはずだと、夕飯前。
ビタが呼び出しをかけ、ルーアンが仕事を抜けてやって来ました。
「仕事中に、どしたぁ?」
「フセンが、渡したい物と、言いたいことがあるって」
「どこにおるったい?」
物陰に隠れてなかなか出てこないフセンを引っ張り出そうとするビタ。
とりあえず折りたたんである扇子を頼まれ、ルーアンに届ける。
ルーアンは扇子を広げ、ビタが覗き込みます。
「何柄?」
「文字が、書いてある。【 ルーアン、君にホレた。友達になって 】」
それを読み上げると、その扇子が手の中で豊満な花に変わり、
自動的に弾け花弁と香りを飛ばし、空中に溶けて消えていました。
ルーアンはぱちくりとしたあと、物陰に飛び行き、フセンに抱きつきました。
「こんな、嬉しいこと、なかなかねぇっ。友達からだぁ」
フセンが叫びます。
「ビタ、ありがとーっ」
ビタは達成感に、よし、とこぶしを握りました。




