9. 改めて正式に参加ですが、本当に男とばれないよね
若葉に改めて聞かれる。
「千草姉ちゃん、確認だけど、WBSYでやってくれるよね」
残りの3人が、ちょっと意外な風にこちらを見ている。なんで改めてそんなことを聞くの、って感じ。やっぱり若葉はなんにも話してないんだね。
でも、こういう風にグッドフィーリングな演奏ができるのだったら、女装がどうとかカツ丼がどうとか若葉にだまされたとか、ぐだぐだと言うもんじゃないよな。
「なに言ってんだよ、若葉。俺は最初からWBSYとやるために来たんだぜ」
精一杯の笑顔で見得を切ると、4人が笑顔で突っ込んできた。
「先輩。俺禁止(笑)」
「男になってます(笑)」
「私たちとやるため・・・?(笑)」
「・・・やるって演奏だよね、演奏・・・(笑)」
「でも、まだ問題がある」
俺は言った。
「こんな風に外見は女子に見えるのだけれども、町の中とか会場とかいろいろな場所で、完璧に女子として過ごす自信はないぞ。女子としての振る舞いとか、どうすればいいかわからないし、本当に大丈夫なのかね。すぐばれそうだ」
若葉が俺に聞く。
「大学の学園祭の時はどうしてたの?」
「大尉だし、ライフル持ってたし・・・・・・・・」
喫茶の入り口で、ライフル持って、ソファーでふんぞり返って、同士諸君、とか、立ち塞がるすべてを殲滅せよ、とか、私がこの店で望んでいるのは破壊と制圧である、とか、お前らからそんな注文が出てくるとは思っても見なかった、私は愉快でたまらない、とかお客に向かって威圧的にしゃべっていたらよかったので、別に女として振舞ったわけではないのである。
紅緒さんが言う。
「千草先輩には、いつでもどこでもどこから見ても、完璧な素敵な女の子になってもらいたいです」
和田っちが続ける。
「そう、どこから見ても『ばれない!』女子にね」
で、さとみんが身を乗り出して話し出した。
「それで千草先輩。姉が手伝うと言ってるんです。立派な男の娘にしてあげるって言ってます」
「は?・・・立派な男の娘・・・?」
「姉はその道のプロみたいなものですから。まかせてください」
「は?・・・その道?・・・プロみたいなもの?」
さとみんの説明終わり。なんだかよくわからない。
紅緒さんが説明を続けてくれる。
「実は、この前の文化祭の時に、さとみんのお姉さんに手伝ってもらったんです。さとみんのお姉さんは、他校のOGで全然関係ないのにわざわざ来てくれて、化粧と衣装で厳つい男子を次々とそれなりの女の子に変えてっちゃったんですよ。なんだか、コスプレとかそういうのが好きな人みたいです。彼女にこの話をしたら、今回もいろいろと手伝ってくれるって、言ってくれたんです」
「あの時はすごかったね」
「あのけい君もちゃんと女の子になっちゃったから・・・」
「そうそう、あのけい君がね・・・。」
って、けい君って誰だよ?
まあ、誰でもいいけど。
ともかく、なんだかすごく頼りになるお姉さんのようであった。男の娘はいやだけどね。
「ところで、男の娘のプロって言ってたけど、まさか、そのお姉さんって、男の人じゃないよね」
「いえ、姉は女です」
「美人だよ」
若葉が言った。
「それから、僕もね、女の子になるコツとかいろいろと教えてあげられるからね」
「おまえがか・・・?」
「わたしは、いつでもどこでも誰が見ても、完璧な女の子でしょ」
なんだか怖いことを言う弟なのだが、確かにそういう点ではいろいろと頼りになりそうな弟であった。
というわけで、俺は、後日、さとみんのお姉さんにいろいろと指導をうけることになったのである。
でも、本当に俺は女子として通用するのであろうか?
不安はまだまだ残るのである。