8. 俺の呼称の相談
和田さんは「和田っち」、結城さんは「紅緒」、里美さんは「さとみん」、若葉は「若葉」と呼ばれているとのこと。
「じゃあ、兄貴はなんて呼ばれたい」
若葉がストレートに聞いてくる。
「俺は、何でもいいけど・・・『お姉さま』でもいいよ」
「お姉さまは禁止」
強く反対する和田っちに、さとみんが言う。
「べつにいいんじゃない?わたしの学校はそんな感じのところもあるよ。『ごきげんよう』とか『それではみなさままいりましょうか』とか・・・」
「私も余裕で大丈夫よ」
「えーっ。信じられない。ともかく、やめよう。却下!」
紅緒・・・さんが俺に聞く。
「えーと・・・いつもはどのように呼ばれているんですか」
「高校の時は『ばばあ』とか呼ばれていたが、ここでは『ばばあ』は2人いるからな」
「ガールズバンドで婆はちょっとね」
「面倒だから千草って名前で呼んでくれ。女子の名前でも通用するだろ」
「千草姉ちゃん・・・」
「千草・・・先輩・・・」
「千草さん・・・」
「それいいじゃん。先輩ってなんかいい・・・」
と、和田っちが言った。
俺は「千草先輩」ということになった。
ちょっと紅緒さんに聞く。
「里美さ・・・さとみん・・・は、別の学校なの?」
「さとみんは女子高です」
「またどうして一緒のバンドに?」
「若葉の子供の頃からの音楽教室の知り合いなんですよ。今はベースですけど本当はピアノもうまいんです」
若葉ってそういう人脈を持っていたのね。
「ふーん。でも、このバンドって高校の部活じゃないの」
「うちの高校に『軽音部』は存在しません。学内でバンド演奏は禁止です」
「は? 俺のと・・・私の時はあったし、私は部活で演奏してたバンドだった・・・よ」
「なんだか、いろいろ問題があったみたいですよ」
俺は、ちょっとさびしい気持ちになったが、潰れてしまったものは仕方ない。
だから、俺は「先輩」って呼ばれても、学校が違う子がいるし、同じ高校でも部活の先輩じゃないし、年上だけど女子としては一番の後輩だし、なんだか先輩っていわれるのも変な感じだなっと思った。