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33. 第二次予選前の紅緒の不安と変な夢


 九条さんの運転で私のアパートに送ってもらうのだが、車の中ではみんな静かだ。和田っちとさとみんはウトウトしてる。

 みんな疲れているようだ。

 今日はライブ以外にも、いろんなことがあったからな。


 アパートに帰ってから夕飯なのだが、明日の二次予選に備えてゆっくり休むため、作り置きのもので手間をかけずに済ます予定だ。


 食事の準備を簡単に終えて、みんなが食卓に着く。


 和田っちが、みんなに言う。

「さあみんな、コップを持って」


 みんなは「いくつかの果汁をブレンドした、いかした飲み物」を手にする。


「それでは、一次予選通過を祝って乾杯しよう。

でも、乾杯だけだよ。

今日はさっさと食べて、ゆっくり休んで明日に備えよう。明日は、海鮮丼と舌平目で二次予選を突破して、あさっての決勝ライブに進もう」


和田っちがコップをかかげる。

「では、乾杯」


 乾杯したら、お腹が減っていたのでみんなむしゃむしゃ食べはじめる。そして、食べながら明日のことをいろいろと話す。


 実力から考えて、我々が目標とするのは決勝ライブに進むことなので、次の二次予選が正念場だ。でも、今日のライブの盛り上がりから、二次予選にはみんな自信を持って臨めるんじゃないかと思うのである。


「明日も絶対いけるよ。海鮮丼は今日と同じに盛り上がるに違いないし、舌平目も名曲だしね」

 と若葉。


「うん」

 さとみんも自信がありそうで、頼もしいぞ。


 私が言う。

「有力バンドがつまらないことで次々と脱落しているでしょ。これは私たちにとって有利な展開だと思うんだよね」


「確かに運が向いてきてる感じだよね」

 と若葉。


「そうそう、いろいろあるけど、私は決勝に行けそうな気がしてるよ」

 と和田っちも言う。


「あのー」


 黙って聞いていた紅緒が遠慮気味に声を出した。

「海鮮丼は大丈夫だと思うんだけど・・・舌平目なんだけど・・・どうかしら」


 若葉がすぐに答える。

「うん、大丈夫。あれは名曲だよ」

 なんだか自信たっぷりって感じだね。


「何を心配してるのさ」

 と和田っち。


 紅緒がちょっと首を傾げて言う。

「今日のガルバンを観て思ったんだけど・・・新しいことは受けるかどうかわからないと思って。

私たちはカツ丼で認められたバンドだから・・・舌平目は静かなバラードでしょ」


 確かに紅緒の言う通り、舌平目は勢いのある丼ものの曲調とは全く異なる静かな悲しい曲である。

 だが、まったく新しいことかというと私はそうではないと思っている。

 元のフレーズは私のものだが、作曲と編曲はさとみんなので、静かな曲調の中にWBSYっぽさが感じられるものになっていると思うのである。

 それに、一応食べ物シリーズだよ。


 ガルバンのスタイル変更は、みんなが良いと思っていた彼女たちの特徴を捨ててしまう変更だった。なので、 まるでまったく違うバンドになってしまったようだった。

 しかも、よくある二番煎じなスタイルへの変更だったのだと思う。


「舌平目は曲調は多少違うけど、十分WBSYっぽい曲だと思うんだけどね」

「はぁ、そうですかね」

 私が言っても、まだ不安そうな紅緒であった。


「まあ、いろんな曲を山のように聞いてきた私の耳を信じて欲しいかな」


「おたくな姉貴の言うことは重みがあるね」

 若葉が付け加える。


「うん、おたく」

 とさとみん。


 やれやれ、私はおたくじゃなくて、単なるマニアだって言ってるのにな。


「そうですね。自分たちを信じるしかないですもんね」

 一応納得したように紅緒が言った。

「明日はがんばりましょう」


「よし、それじゃあ、明日のために、今日はさっさと寝て疲れを取ろう」

 と和田っちがまとめた。


 食事の片付けをして、順番にシャワーで汗を流したら、みんな次々と寝るのである。


 私も寝床にはいるとすぐ眠くなるのであった。


 そして、朝は早くに目が覚めた 。


 夢を見ていた。


 夢の中には父がいた。


 ポツンと一人立っていた。


 申し訳なさそうな顔をして、こっちを見ていた。


 真っ赤なギターを首に掛けていた。


 こちらに向かって口を動かしているが、何を話しているのかわからない。


「なに言ってんの?聞こえないよ」

 と私が言ったところで目が覚めたのだった。


 起きると若葉は寝息をたててよく眠っている。


 朝早いので他のみんなもまだ寝てると思ったのだが、洗面所で紅緒が顔を洗っていた。


「おはよう。早いね」


「先輩も早いですね」


「変な夢を見て目が覚めちゃったんだ」


「先輩もですか・・・私も・・そうです」


「へえ、どんな夢?」


 紅緒がちょっと口ごもった。


「えーっとですね。なんというか・・・ライブで舌平目を弾いてるんです。

でも、いっぱいに入ったお客がまったく静かなんです。

私は弾き続けるんですけど、ぜんぜん反応がなくて。

まわりを見ると、みんな居なくてひとりで弾いているんです」


 紅緒には昨夜の不安がまだ残っていて、それが現れたような夢だと思った。


「正夢ってやつでしょうか」


「いや、逆夢っていうのもあるから心配しなくて大丈夫だと思うよ」


「それで思うんですけど、曲のこともそうなんですけど、私みたいな未熟者がメインで弾いて良いのかしらって・・・

今から先輩に変わってもらうのはダメですよね」


 なんだか弱気な紅緒に何か言わないといけないと思った。


「なに心配してんのさ。

紅緒なら大丈夫。生徒会長なんだから、自信を持ってやろうよ」


「生徒会長はロックと関係ないですよ」


 彼女の不安を解消するにはどうしたら良いだろうか。


「若葉がよく言うけど、ここまで来たら練習通りにやるだけだよ。

それから、紅緒がひとりで弾くのは最初だけ。最後はみんなで盛り上げるわけだから、安心してやれば良い 。

それに、ひとつやふたつ音を間違えてもなんとかなるもんだ」


「いや、ミスりませんよ、大丈夫」


 そして、ちょっと笑って言った。

「わかりました。やってみないと分かりませんもんね。がんばります」


 不安は解消されただろうか。

 とりあえずは大丈夫そうだなと思った。


「ところで先輩の変な夢ってどんなのですか?」


「父が出てきて何か言ってるんだけど、良く聞き取れないんだ」


「それは変な夢じゃなくて、お父さんが応援してくれている良い夢なんじゃないんですか」


「ああ、なんだか最近よく出てくるし、そうかもしれない」


 紅緒の言う通りかもしれないが、応援って雰囲気じゃあなかったよな。

 変な夢ではあったと思う 。


 私も変に緊張しているのかもしれない。


「じゃあ、今日も朝ごはんはふたりで作っちゃいましょう」

と紅緒が言う。


「うん、作っちゃいましょう」

と私が答える。


 さて、今日の若葉の献立は何だろう。

 勝負の日の朝は、変に凝ったメニューなんじゃあないかと、嫌な予感がする私なのであった。



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