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31. 第一次予選までにいろいろなことが起こっていたようです


 会議室みたいな小さな部屋で、朝香さんと九条さんを囲んでみんなで机に座る。


 朝香さんがメモを取り出して、それを見ながら話を始めた。


「えー、これからお話することは、ホテル組はみんな知ってることです。あなたたちも知っておいた方が良いと思うのでここで話すことにしました」


「トラブルについてですか?」

 和田っちが声をはさむ


「そう、いくつかは小耳に挟んでいると思うけど、ここでまとめて話しますので聞いて下さいね」


 朝香さんが真面目な雰囲気で話すので 、みんな神妙に聞くのである。


「まず、このコンペにはYYプロ、私たちのライバル会社ね、そこからいろいろと妨害が入っています。

一番最初は、この企画が動き出した時に、会場に使えそうな手ごろなライブハウスが片っ端から抑えられてしまいました。

建て替えのために閉じていたライブハウスを急遽開けてもらったりして、なんとか開催に漕ぎつけました」


 そういえば、あの古いライブハウスは私たちが最後のライブとか言ってたっけ。


「予選の前に楽器が盗まれたバンドがふたつ。

ライブ会場でいつの間にかなくなっていたり、道で強奪されたりしました。

急に新しい楽器に変えたことで調子がでなかったり、両方のバンドは本来のパフォーマンスが出せなかったようです。

・・・

それから、会場に来る途中、道を歩いているところをしつこくナンパされて、ライブに遅れたバンドがひとつ。

・・・

タイガーキャッツのライブ中にスプリンクラーが作動したのも、単なる誤動作じゃなくて妨害工作だったと見ています。

・・・

警備体制を強化していますが、みなさんも身の回りのことに気をつけてください。九条にもなるべく一緒にいて、いろいろ気をつけるように言っています」


 横でうなずく九条さん。


「こんなことは、よくあることなんですか」

 和田っちが質問する。


「YYプロに悪どい人がいてね。よくやられるのよ」


 朝香さんはそう言うと、手元のメモに戻って話を続ける。


「えーと次に、失格になったバンドがいくつかあります。

スレイリー、BBB、Into the Bright Madness、スフェニスカス、topayupaの五つのバンドが失格となりました」


 えっ。

 意外な名前がいくつか出てきて少し驚いてしまった。

 Into the Bright Madnessは名田のバンドだ。

 それから、スレイリー、BBBは実力のある優勝候補のバンドだぞ。


 失格って、いったい何があったんだろう。


「失格ということなんですけれども、失格とするとその理由を公表しないといけません。でも、各バンドの今後の活動のことも考えてその辺りは曖昧にしてあげたいので、各バンドには一応ライブをやってもらって、予選敗退という形にしています。

だから、これから話すことは、秘密というほどのことではありませんが、あまり周りには言わないで欲しいと思います」


 BBBが熱のない演奏だったってタイガーキャッツのお姉さん達が言ってたけれど、これが理由なんだろうな、と思った。


「まず、スレイリーとBBBについては、すでにYYプロと契約が結ばれていたのがわかったので、失格となりました」


 確かこのコンペは、優勝するとMHプロダクションからメジャーデビューできるというものだったはずだが、すでに他社と契約しているバンドがそれを隠して応募してきたっていうことは・・・


「それってどういうことですか」

 和田っちが聞く。


「YYプロの妨害工作よ。その狙いは、つまり、自分のところの優秀なバンドをこっそりと参加させて、優勝したらバンドとうちとの間でトラブルがあったことにして、賞を辞退するわけ。そして、この大会で優勝した実績を引っ提げてYYプロからデビューするつもりよ。

うちの会社は優勝バンドを二年連続でデビューさせられなかっただけじゃなくて、他社に取られたダメ会社ってことになって、そのうえ、優勝してもデビューできないこの大会は存在自体が危くなるのよ」


 YYプロのとんでもない妨害工作に、みんな黙ってしまうのだった。


「大人の世界は汚いって思わないでね。汚いのはあの人だけだから。うちは誠実にやっているから信じてちょうだい」


 朝香さんがそこのところははっきり言った。


「では、次の失格バンドの話です。Into the Bright Madnessに、女装男子がいたんです」


 あー、名田の奴、なかなかうまく女装していたのにバレてしまったのか、やっぱりホテルの共同生活は危険だったな、と思った。


「えー!女装男子?」


 和田っちと若葉が、知っているのに知らないふりをして、わざとらしい声をあげる。


「女装男子ってだけならどうにか穏便に対処したんですが、ホテル内で三角関係のトラブルが起きました」


 三角関係って、いったい名田は何をやらかしたのだ?


「Into the Bright Madnessのドラムの女装男子がスフェニスカスとtopayupaのドラムの子に二股かけて、恋愛上のトラブルからひどい乱闘騒ぎが起こったのです」


 はぁ?ドラムも男だったのかい?名田じゃあないのかい?


「恋愛上のトラブルってだけならよくあることなんですが、あんな乱闘騒ぎを起こすようなバンドは受け入れ難いと判断されました」


 あんな乱闘って、どんなんだったんだろう。

 まるで想像できなかったが、ここで詳細は聞かない方が良いだろうと思った。


「それから乱闘騒ぎの時に、止めようとして間に入ったプロデューサーの竹内が殴られて、顎の骨を折って、今、入院しています」


 入院?・・・だから姿を見なかったのか。


「顎の骨を折るなんて大変ですね」


 思わず私が言うと、朝香さんがちょっと微笑んで言う。


「あら、千草ちゃん、気になる?

すぐに教えなくてごめんなさい。でも大丈夫。元気は元気よ。女子に折られるなんてって言って、恥ずかしがってるわ。

大会が終わってからでいいから、お見舞いに行ってあげて。喜ぶと思うわ」


 竹内プロデューサーが私loveなことは置いておいて、殴って顎の骨を折った「女子」について思い当たる人物がいたので聞いてみた。


「女子って・・・誰に折られたのですか?」


「Into the Bright Madnessのボーカルの娘よ」


 やっぱり名田だ。


 プロデューサーを殴るなんてあいつの馬鹿は治ってないなと思った。

 それから、地理の加藤の顎を折ったストレートは健在なんだなとも思った。


 でもまあ、男とバレてないのは何よりだ。


「以上、YYプロの妨害工作のこととホテルでの乱闘騒ぎのことをお話ししました」


 いやはや、私たちが知らない所でいろいろなことが起こっていたようである。

 私たちが私のアパートで一歩離れて過ごしてきたのは正解だったな、と思った。


「契約のこととか女装のこととか、あなた達には関係ないと思いますが、今後、みなさんも身の回りのことにはいろいろ気をつけてください。

お話は以上ですが、何か質問はありますか」


 和田っちが私たちに言う。


「私はないけど、誰か何かある?」


「・・・・・・」


 みんな、質問はなさそうなので、別件ではあるが朝香さんに聞いてみたいことがあったので、聞くことにした。


「あのーすいません。今のこととはまったく関係ないことなんですが、ひとつお聞きしてよいでしょうか?」


「ええ、いいわよ。なにかしら?」


「さっき、F-117の藤堂さんとドリンクウォーターさんが訪ねて来て、私が使ったギターについて聞かれたんですが・・・」


 F-117のキャシー・ドリンクウォーターとギターのことについて、朝香さんならいろいろと知っているんじゃないかと思ったのである。



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