30. みんなでガルバンのライブを観る
出番が終わり予選通過を確信した我々は、控え室に楽器を置くとホールに向かう。ガルバンのライブを観るためである。
今まで頑なに他のバンドのライブは観なかったのに、今回はみんな前向きである。
「あれだけあおられたら無視できないよね」
と和田っち。
「どう進歩したのか純粋に興味あります。いったい何をやるんでしょうか」
と紅緒。
「・・・・・・」
とさとみん。
かわいいガルバンの甘ったるい音と男の子に媚び媚びの歌詞を気に入っていた若葉にこっそりと聞く。
「ねえ若葉、いったいどんなもんだと思う?」
「一段とかわい子ぶって、男心を突いてくるようだと、厄介な相手になると思う」
確かにあの路線を進化させてきたら強敵なんだけれども・・・さっき見た感じだと・・・
「でも、あの衣装でそれはないだろ」
「そうなんだよね」
ガルバンがどう進化するのかまったく予想がつかなくて、首を傾げるふたりなのであった。
ガルバンの前のバンドが終わってからホールに入ると、場内はちょっと静かな感じ。WBSYの終了時のような熱狂の余韻はない。
ステージの準備が終わるとガルバンのライブの始まりである。
ちょっと光を落とした薄暗い中に、黒い衣装のガルバンが立つ。
ボーカルの子がいきなり大声で叫ぶ。
「野郎ども。私たちは地方予選からさらに進化したぜ。
新しいガルバンを見てくれよな」
ジャジャーン
大きな音に続いてジャカジャカと激しい演奏が始まった。
そして、ボーカルが怒鳴ってるみたいな声で歌い始める。
「あんな男は最低、死んじまえ」
元カレのダメなところをあげつらって、女子の本音というか、鬱憤を晴らすような内容が続く。
勢いはすごいが、演奏はすごく下手だ。
ガルバンは地方予選でも下手だったんだけれども、地方予選の曲はさえない男の子を励ますフォークソング調の素人っぽい曲で、甘ったるいかわいいコーラス、それらを下手でも一生懸命やっていたところが、なんだかいい感じだったのに、今はハードロックというかメタルもどきの激しい曲を下手に演奏しているので、下手が醸し出していたいい感じが全部吹っ飛んでしまっているのだった。
私と同じように、甘ったるいいい感じを期待していた多くのお客は戸惑っているようだった。
2曲目は、戦争、政治的な対立、学校でのいじめ、などなどいろいろな争いごとについて、つまらないことやめろと文句を垂れ流す曲であった。
社会的な問題提起の曲なのだが、誰かが言っていることの受け売りを叫ぶみたいな感じで、表面的で迫ってくるものはない。
2曲目が終わった。
ガルバンがやりたかったことはわかるが、いきなり期待したのと違うものを、しかも下手な演奏でやられると、聴いてる方は困惑してしまうのであった。
お客からそれなりの拍手が起きた時には、今日のお客の乗りの良さと優しさに感心した。
じっと黙って見ていた若葉がボソッと言った。
「僕の好きだったガルバンはもういないんだね」
私が小声で答える。
「同感である」
和田っちが言った。
「媚び媚びソングより好感は持てるかな・・・でも、これは勝ったね」
さとみんがボソッと言う。
「平凡・・・」
確かに、曲の作りはただかき鳴らすだけの工夫のないものだ。
紅緒が言う。
「主張したいことはわかります・・・彼女たちの中では絶対にいい曲でいい演奏だと思っていて、自信を持ってやったんでしょうけど・・・でも地方予選の映像で観たバンドのイメージとかけ離れちゃってて・・・もしかしてガルバンに求められていたものと違うものだったのかなぁ・・・うーむ・・・」
なんだか考え込んでいるようだった。
これから控え室に帰るとガルバンにまた絡まれそうだ。
ということで、このままここで残りのバンドを聴いて、結果発表もここで聞くことにした。
次に出てくるバンドはどれもそれなりに上手い演奏で、お客の乗りもなかなかなものである。
でも、WBSYの時ってもう一段上の盛り上がりだった気もするのであった。
さて、最後のバンドの演奏が終わると、すぐに予選通過バンドの発表である
WBSYは無事第一次予選は通過である。予想通りなのでみんな大喜びはしない。
ガルパンは予選落ちだ。
控え室に戻ると、喜んでいるバンドやがっかりしているバンドがいろいろいて、ざわついている。
静かに座り込んでいるガルバンを見つけると、和田っちが近づいていき、一言二言声をかけると戻って来る。
「ちょっと挨拶だけしてきた」
話しにくい相手にもこうして声をかけられる和田っちはすごい子だと思った。
「で、どうだった」
と若葉が聞く。
「今日の曲は媚び媚びより良いと思ったって言ったら、あんたらもワンパターンじゃあ次で終わりよって言われた。で、私たちはワンパターンじゃない、新しい曲があるって言ったら、丼物以外でお客に受けるといいわねって皮肉を言われた」
「それは大変だったね」
と若葉が和田っちをねぎらう。
予選通過できなかったことに腹を立てて、それからもしかしたら審査に不満があったのかもしれないが、それで私たちに当たるのはやめてほしいものだ。
ガルバンはそのまま静かに帰っていった。
他のバンドも三々五々帰って行くなか、私たちが控え室で待っていると九条さんがやってきた。
「みんな、予選通過おめでとう」
ニコニコと嬉しそうな九条さんであった。
「帰る前に、今まで起こっているいろいろな問題について話しておきたいと思うから、別の部屋に来てちょうだい」
そういえば、いろいろ問題が出てきていて、タイガーキャッツの時のスプリンターの故障もそのひとつとか言ってたっけ。




