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29. F117のキャシーの父親探し


 WBSYのライブは大盛り上がりとなり、天ぷらが終わるとお客からすごい歓声と拍手が沸き上がった。


 舞台から降りると、和田っちが私たちに言った。

「よし、これでもらった。一次は通過だ」


「うん、大丈夫だと思う」

 と若葉。


「・・・」

 うなずくさとみん。


 事前の評価が全体の中位で、今日の出来ならば、一次予選の突破は確実だろう。


 控え室に戻る廊下を歩きながら、紅緒が私に言う。

「お客の乗りがすごかったですね。すごさに圧倒されて、すごく疲れました 」


「私もこんなのは初めてだ。でも、紅緒は選挙活動で慣れてるんじゃないの」


「選挙活動って静かな聴衆に語りかける感じなんですよ。今日のとは全然違います」


「そうなんだ」


「私みたいな未熟者の演奏があんなに受けちゃって、ちょっと怖いくらいだったですけど・・・いいんですかね」


「私たちはみんな未熟者だよ」


「その中でも私が一番初心者だから・・・バンドのためにもお客のためにも、もっと頑張らないといけないと改めて思いました」


「うん、ああいうお客相手だと、気合いがはいるよね」


「そう気合ですよね」


 紅緒とそんなことを話しながら、みんなで廊下を歩いていくと、控え室の前に女子がふたり立っていた。


 背が高くてスタイルの良い、銀髪で色の白い美女は外人みたいだ。背の低い、金髪で黒縁眼鏡の娘はたぶん日本人が髪を染めてるんだろう。


 お客はここには入れないから出演バンドだろうか。

 でも、地方予選の映像で、銀髪の白人美女には覚えがないぞ。


 金髪黒縁眼鏡の方が、私たちが近づくとニコッと笑って言った。

「こんばんは。ちょっとお話し良いかしら」


「はい、なんです?」

 と和田っち。


「えっと、私はF117ってバンドの藤堂春萌、こっちはキャシー・ドリンクウォーター」


 F117って言えば、王道ロックの良さげな曲を迫力のない凡庸な演奏でやっていたバンドじゃなかったっけ。

 地方予選の映像の後ろの方にいたはずだ。

 銀髪白人美女はいなかったような気がするぞ。


 そんなことを考えていたら、金髪黒縁眼鏡の藤堂さんが私の方を見て言った。


「あなたのそのギターについて少し聞きたいんだけど良いかしら」


「はい。私は馬場千草です。なんでしょうか。どうぞ」

 と私。


「さあ、キャシー」


 藤堂さんにうながされて、白人美女のドリンクウォーターさんが話し始めた。


「私はあなたのギターと同じギターを使っています」


 ちょっとたどたどしいが、日本語は大丈夫みたいだ。


「私のギターは母の遺品です。

母は私が幼い頃に死にました。

母が死んだ時の遺言に、遺品のギターは私の父親が残したものだとありました」


「父は私が生まれる前に母と別れました。

私は幼かったので母から父のことは何も聞いていません。

私は父のことは何も知りません」


「キミハラのギターは日本で作られた珍しいギターです。もしかしたら父のことがわかるかもしれないと思って、日本で調べています」


「私のギターは真っ赤なキミハラでハイビスカスのシールが貼ってあるのです。

馬場さん、あなたは何か知りませんか?」


「うーむ、残念ながら・・・」

 私は言った。

「私のギターも父の遺品なんだけれども、キミハラのギターは、父以外の人が使ってるのは見たことがない。あなたのお父さんについてはなんにもわからない。ごめんなさいね」


 ちょっと考えていた様子だった若葉が言う。

「ハイビスカスといえば沖縄だから、軍隊の関係者が日本からギターを持って帰ったとか」


「ああ、私はイギリスの人です」


 藤堂さんが付け加える。

「私とキャシー・・・F117は今までイギリスで活動していたの。このコンペを機に日本に活動場所を移そうと思ってやってきたのよ」


「アメリカじゃないのか。じゃあ、違うね」

 若葉の思いつきは見当違いだったようだ。


 ドリンクウォーターさんはがっかりしているように見えた。


 藤堂さんが残念そうに言った。


「このキミハラって、ものすごく珍しいギターで、手掛かりがほとんどなくてね。今日あなたが使ってるのを偶然見たので何か分かるんじゃないかって来てみたんだけれども・・・やっぱりわからないか」


 和田っちが言う。

「このライブハウスのオーナーが、このギターについて詳しかったから、聞いてみたらどうかな?」


 紅緒が続けて言う。

「昔、オーナーの知り合いが制作販売してた、と言ってましたから、何か分かるかもしれませんよ」


 うなずくさとみん。

「・・・」


 それを聞いて、ふたりの顔が少し明るくなった。


「それはいいことを聞いた」


「今日、行ってみる。ありがとうごさいます」


 ふたりは私たちに礼を言うと、廊下の向こうに去っていった。


 ふたりを見送りながら、紅緒が言った。

「お父さんが見つかるといいですね」

 

 古いギターで人探しなんて不可能だと普通は思うのだろうが、珍しいギターだから意外と見つかる可能性があるかも知れない、と私は思った。


 この希少なギターがどうやってイギリスに渡ったのか、それがひとつのポイントではないかと思うのだった。



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