6. 仕方ないので着替えます
昨年の大学の学園祭を思い出す。
同級生の女子からスカウトされた俺は、漫画アニメ同好会の出し物に駆り出されたのだった。
コスプレ喫茶の手伝いということだったので、会場設置とか皿洗いとか、もしかしたら一部の調理ぐらいは手伝うかもしれないとか思っていたのだが、いつの間にかコスプレすることになっていて、最終的には女装するに至ったのである。
まあ、学園祭当日はなかなか楽しい時間を過ごしたのだが・・・この度、再びこういうことになるとは予想もしていなかった。
そういえば、弟も学園祭でたくさんの男子生徒を女装させた中から見出されたのかね?
俺は与えられた衣装を身に着けて、自分の姿を鏡で見る。
前髪が目にかかる黒髪ロングのかつら、おしゃれなかわいい制服、スカートはちょっと短め・・・
やっぱり、これは困ったことになったと思う。なぜなら・・・
ドアの外の誰かに聞く。
「タイツもはかないと駄目かなー?」
「はーい、お願いしまーす」
ドアの外からすぐ返事が帰ってきた。
本当に、困ってしまうな。
なぜなら・・・こういう髪型で、こういう服を着て、ちょっと化粧したりすると・・・
俺は美少女になっちゃうんだよね。
さらに黒いタイツなんか穿くと魅力が数段アップなのである。
今日は化粧はしてないけど、ちょっと念入りにひげを剃った鏡の中の俺の姿は・・・自分でもわかっていたことだけれども・・・まあ、そんなわけである。
脱衣室から出ると、外で待ち受けていた全員が息を呑むのがわかった。
昨年の学園祭の時に教わった、S字ポーズを決めてみる。
「おー」
「きゃーあ」
「ひー」
「ほぉー」
全員から声が上がった。
「ああ・・・お兄・・・さん・・・」
「待て、和田っち・・・お兄さんじゃなくて、姉貴、いやお姉さまだ」
「おお姉さま・・・すごいすごい、これで私たちのバンドのメンバーよ」
「よろしくお願いします。お姉さま」
「よろしく・・・」
困ったことに、俺がここで美少女に変身してしまったことで、話はどんどんそっちの方向に進んでいってしまうのであった。
しかし、ちょっと待て・・・音はどうした、演奏のフィーリングとか・・・そっちが一番の問題だろうが、っと思った。
4人はそんなことは問題じゃないみたいであるが、大丈夫なのか・・・このバンドは?
俺は、とりあえず一度はこのメンバーと一緒に演奏してみないと話にならないと考えていたわけで、俺がバンドに参加する条件はお互いの演奏のフィーリングが合うことであるから、演奏して合わなければこの話はなかったことになって、こんな格好はしなくてよいはずなのである。
でも、もしも、演奏してみて、いい感じでフィーリングが合っちまったら・・・
いったいどうしたもんだろう・・・
女装で美少女で・・・
その上、カツ丼ソングなんだけど・・・