22. ギターが壊れても替わりのやつがちゃんとあるのである
「ごめんなさい!私が押し潰しました」
「すまない。私が乱入したから」
「いや、みんなで重なったからお二人だけのせいではないです」
土下座で謝る蒲生さんとゆんさんに和田っちがきっぱりと言った。
壊れたのは私の黒いストラトタイプのギターだ。
ネックがずれて曲がってしまっていた。
突然のことにみんなは騒いでいるが、長年使っていた愛着のあるギターが壊れたことで、私は結構な衝撃を受けてしまって声がでない。
頭の中でいろいろな考えが渦を巻く。
中途半端な壊れ方だから、修理が出来るのではないだろうか。
でも、ひとりで単に趣味で弾いていただけなのでそのまま使い続けていたが、もしバンドを続けていたらもうちょっと良いやつに変えていただろう、そういうギターだ。
安物だし、修理する意味はあるだろうか。
それより、あさってのライブはどうしよう。
「もしよかったら私のを貸すけど・・・」
蒲生さんが言う。
「私のでもいいわよ」
洋子さんが言う。
「いや大丈夫、明日新しいのを買いに行こう。私もお金を出すから姉貴は好きなのを買えばいい」
と若葉。
「私も少しは貯金があります」
と紅緒。
うーむ。
そんな周りの話を聞いているうちに、いろいろと混乱していた考えが、一点にまとまってきたのである。
「先輩、どうする?」
和田っちが、黙っていた私に声をかける。
私は、替わりのギターとして、あのギターを使おうと決めたのだった。
私はみんなに向かって言った。
「みなさん、ご心配なく。実は、ギターはもう一本あるのよ」
もう一本、って言ったら若葉が反応した。
「もう一本?・・・姉貴・・・まさか・・・・・・」
若葉は本当に察しがいいよね。
みんなが注目する中、私は押入れから一本のギターを引っ張り出した。
ケースから出してみんなに見せる。
名の知れたメーカーのものではない、安物感がただよう古びたギターである。見慣れないシンプル過ぎる四角いボディ。色だけは黄緑色で派手だが、ピックアップやネジに錆が目立つ。
「なんだか見たことのないギターだね。古そうだけど、大丈夫?」
蒲生さんが聞くので、私はこのギターの由来をみんなに言った 。
「実はこれは死んだ父が弾いてたギターなんです・・・」
若菜が続ける。
「家で見かけないと思ったら、持ってきてたんだね。でも、これってまだちゃんと音が出るの?」
「こっちで、たまに、弾いてたから大丈夫よ」
「新しいギターをゲットした方がよくない?」
和田っちが心配そうだ。
「お金ならあるので、いいのを買ったらどうですか 」
と紅緒も心配そうだ。
では、実際の音を聴いてもらって納得してもらおう。最高とは言わないけれど、それなりの音は出るやつなのである。
「じゃあ、とりあえず聴いてみてよ」
アンプにセットして、ヘッドホンで回し聴きしてもらう。
最初は和田っちと紅緒。
私はカツ丼のさわりを弾く。
「意外と良いね」
と和田っち。
「前のと似た音ですね」
と紅緒。
それから次々と聴いていく。
「こんな音だったっけ。でも大丈夫そうだね」
と若葉。
「・・・」
とさとみん。
「なんだか、そのぉ、軽い音だが味があると言うかなんというか」
蒲生さんはポイントをついた感想だ。
「懐かしい感じがする」
と洋子さん。
由香さんとゆんさんは、ふんふん、なるほど、とか言っている。
「私は、新しいのより弾き慣れたこれがいいんだけれど・・・いいかな」
私が聞くと・・・
「良いと思うけど、さとみんはどう?」
若葉が、さっきから黙っていて何か考えている風に見えるさとみんに聞いた。
「OK」
さとみんの一言で、このギターで決まりだ。
「どうなるかと思ったけれども、これでなんとかなりそうだね」
和田っちが安心そうに言った。
「よかった、よかった」
タイガーキャッツの人たちもホッとしているようで、笑顔が見える。
由香さんがみんなに言った。
「さあ、飲み直しよ。みんなコップを持って。千草ちゃんの新しいギターに乾杯よ」
みんなでコップを持って乾杯して、宴会の再開である。
「料理もまだ残ってますよ」
若葉がみんなに料理を勧める。
その後、深夜まで飲んだり食べたりしゃべったり・・・
タイガーキャッツは、そのまま、お泊りである。
私と若葉の部屋も開放して、みんなで雑魚寝である。
男がふたり混じって雑魚寝って、困ったことではあるんだけれども、私たちは美少女だから、誰も気にしないのである。
私も眠くなったので、仕方がなく床でおとなしく寝るのであった。




