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21. 祝勝会はまだまだ続く


 いっしょに飲んだり食べたりしていると、ギターはギター、ベースはベース、ドラムはドラムで集まって話すようになるのである。タイガーキャッツにはキーボードがいないので、若葉は無口なさとみんのベース組のところに居るようだ。


 私は紅緒と一緒に、蒲生さんと洋子さんとギター談義だ。


 蒲生さんが私たちに聞く。


「ところでさぁ、おたくらのカツ丼なんだけど、ギターが2本に増えたら曲の感じがずいぶん変わってるんだろうね」


 紅緒が答える。


「はい、千草先輩が加わって、音が厚くなってパワーアップです」


「一度出来上がったアレンジの変更って、意外と大変だろう」


「実は私はアレンジってよくわからなくて、うちはみんなあそこのさとみんまかせです。彼女が全面的に変更してきたので、一からやり直しました」


「ふーん、あの子が仕切っているわけ?」


 蒲生さんがなんだか感心していると、洋子さんが言う。

 

「うちらは、練習しながら、なんか適当に音を出して決めてるんだけど・・・」


「楽譜通りに弾いてます」


 断言する紅緒に、私が追加する。


「これがまた、いろいろ細かく指定してあるんですよ」


「なんだそりゃ」


 実物を見せた方が良いと思った私が楽譜を取りに席を立つと、ほかのところの会話が聞こえてくる。


 ベース組はぼそぼそ話していてよく聞こえないが、ドラムのふたりはなんだか盛り上がっている。


「和田君は胸がないね。襲い甲斐がない。胸の大きさはドラムのパワーの源だぁー」


 酔っ払ったゆんさんは声がでかい。それに和田っちが元気に答える。


「でも、まだまだ育ちますからねー」


「牛乳を飲みなさい」


「はい。もちろんでーす」


「私はぁ、あのお姉さんの胸にぃ、興味を引かれる所だよー」


 あのお姉さんって、私のことか?


「ところでータイガーキャッツの皆さんはどうなので?」


「ふふふ、由香ママは子持ちなだけにでかい。ガモはちょっと盛ってる、洋子は・・・」


「ちょおっと、やめてよ」


 洋子さんが聞きつけたらしくて、ゆんさんにストップをかけるべく乱入する。


 ゆんさんが興味を持った私の胸は100%盛ったものなので、ゆんさんにはいろいろとバレないように注意が必要かもしれないと思った。


 楽譜を持ってきて見せると、蒲生さんと洋子さんのふたりが驚いていた。


「うわー、細か」


 そんなふたりに紅緒が少々遠慮しながら言った。


「ところで、おふたりのギターを見せてもらっていいですか」


「いいわよ、じゃあ、あんたたちのも見せてよ」


 と蒲生さん。

 

「そうそう、それは、私も興味があるところよ」


 と洋子さん。


「私たちのは大したもんじゃありませんよ」


「じゃあ、こちらへ」


 みんな自分のギターを持って、アンプのある部屋に移動することになった。


 蒲生さんと洋子さんは足元が少々ふらつき気味で、アルコールが回っているように見えた。勝利の美酒のせいですごい勢いで飲んでたからな。

 

 爆音で弾くわけにはいかない。

 私のアンプにはヘッドホンが2個つけられるので、代わり番こに弾いてそれで聴くのだ。

 四人がアンプの近くに、密に座る。


 蒲生さんのギターは木目のテレキャスター、洋子さんのは赤枠のレスポールだ。

 タイガーキャッツのギターは、蒲生さんの粗いワイルドな演奏を、洋子さんの甘い音が支えているわけだ。

 

 手に取るとやはり本物は輝きが違うような気がして、つい紅緒に言ってしまった。


「もしプロになるなら、こういうすごいのを持つんだろうな」


 すると紅緒が恐縮気味に言う。


「こういうすごいのは・・・私にはまだまだ弾けませんね」


 別にそんなことはないのだが、遠慮気味な紅緒であった。


 蒲生さんが、私の安物の黒いストラトタイプを眺め回して叫んだ。


「わー、懐かしい。昔はこんなの弾いてたのよね」


 蒲生さんが手慣れた感じでセットアップしながら言う。


「ちょっと弾かせて」


「じゃあ、私、聴く」

 

 私と紅緒は顔を見合わせた。わざわざ安物を弾くってどういうつもりだろう。それをわざわざ聴くなんてどうしてだろう。


「じゃあ、あれ弾くぞ」


 なにかの曲を弾き始める蒲生さん。私には弦の素の音しか聞こえないが、かなり上手いのはわかる。


「懐かしいだろ」

「きゃー 思い出すー」


「じゃあ、これだ」

「わー 文化祭ー」


 ふたりが昔を思い出して盛り上がっている。


 これは、つまり・・・酔っぱらいの変なノリだ。

 

「さあ、次のギター、行こう」

「じゃあ、私に紅緒ちゃんのを弾かせてね」


 座る位置を変えるために、みんながそれぞれギターを抱えて立ちあがろうとしていたところ・・・


「君たち、いったい、なにを盛り上がってるの?私も混ぜてよ」

「・・・」

 由香さんとさとみんがやってきた。


 由香さんも酔っているみたいで、ちょっとふらついたのをさとみんが支えた。


「おー、集まってんな。胸揉ませろ」

「ゆんさん、落ち着いて」

「ダメダメ止まって」


 そこに勢いよくゆんさんが飛び込んで来て、私たちの集団に襲いかかる。ゆんさんを止めようとする和田っちと若葉が引きずられてる。


「わぁ、ちょっとやめて!」

「・・!」


 ゆんさんに押されて、由香さんとさとみんが崩れる。

 中途半端に立ち上がったギター組4人のところに、乱入組がのしかかる形になって、ギターを持ったまま人が次々と折り重なった。


「ぎゃあ」


「わあ」


 ドタン


「痛い」


 バタン


「痛たた」


 バキ!


 何人かの下敷きになった私の耳に、嫌な音が聞こえたのだった。



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