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18. はたして、けい君とさとみんは呪われているのか?

 姉貴が現れた次の日である。

 今日は予選ライブが始まる日だ。

 でも、WBSYは3日目だから出番はまだ先だ。


 今日の夜は予選ライブを終えたタイガーキャッツがアパートにやってくることになっている。しかし、予選突破の祝勝会になるのか、予選敗退の残念会になるのかは、現在の朝の時点ではわからない。


「ねえ、みんな、本当に他の予選ライブを聴きに行かないの?」


 九条さんが、希望があれば切符をくれると言ったのに、うちのみんなはいらない行かないと言うのである。


和田っち「今は自分たちの演奏に集中しないといけいないから」


若葉「自信を失いそうだからいかない。姉貴は知らないと思うけど、地方大会の後、立て直すのが大変だったんだからね」


紅緒「行っても得られるものがなさそうだわ」


さとみん「行ってもよい・・・でもひとりじゃいいや」


 確かに、すごい演奏を聴いて萎縮しても困るし、下手な演奏聞いて増長してもいいことはないかもしれない。


 というわけで、誰も見に行かないので、今日のタイガーキャッツの予選ライブの結果は、彼女らからの連絡がないとわからないのである。


 若葉は予定のレシピに何種類かの料理を追加して、タイガーキャッツを迎えるとのこと。


 さとみんが若葉に言う。


「あのー・・・やみな・・・」


「却下!」


 闇鍋は若葉に即座に却下された。


 そして、若葉は和田っちと紅緒を連れて、食材を買うために出かけて行った。作るのは、当然のことながら、一回戦突破を想定した祝勝会料理だそうだ。


 私は、やることがないので、高校野球の中継でも見ることにする。


 今年は天候が不順で、我が校と高知鰹一本釣高校との一回戦は雨天順延となっており、今日行われるのである。


 みんな、けい君、けい君と言っていたのに、意外なことに野球そのものには興味はないようなので、ひとりでボーッと見ているのだが。


 高知鰹一本釣高校って強力打線とか言っていたのに、けい君の前に三振と凡打の山である。


 ちょっと調べたら、高知鰹一本釣高校って高知大会の4試合で、チーム打率が0.453、総得点53点、総失点0点、ホームランが8本出てる。素人の私でもとんでもない学校だとわかるのに、それを完封しているけい君ってすごいやつなんじゃあないの?


 でも、わが校も、相手の長身左腕の投手の豪速球と好守備の前に、まったく点が入る気配がない。


 つまり、退屈な投手戦が淡々と進行しているのだ。


 ボーッとけい君のピッチングを見ながら、そういやWBSYを試合中も聞いているとか言っていたよなあ、と思って、なんとなくカツ丼を口ずさんでいたら、あることに気づいたのである。


 けい君のピッチングのリズムがカツ丼なのである。


 直球は最後の盛り上がりのところ。

 カーブはさびの部分。

 小さく曲がる変化球は主題が展開するあたり。


 彼は決して123みたいな一定のリズムでは投げていないのである。

 さとみんの作曲によるところの変則リズムで投げているのである。


 こんなことってあるのだろうか。


 相手のバッターがタイミングを合わせられないわけである。


 あれ、今度は、最後の盛り上がりのところのリズムで小さく曲がる変化球だ。


 さとみんが女子部屋にこもっているので、ちょっと呼んで、確認してもらおうと思った。


ドンドンドンと扉を叩く。


「さとみん。さとみん。今、我が校の野球でけい君のピッチングを見てるんだけども、ちょっと、一緒に見てくれないですか」


「はぁ・・・」


 返事はあったが、気のない返事だ。


「けい君のピッチングがカツ丼なんだけど・・・」


「え、なにそれ・・・」


 部屋から出てきたさとみんに、カツ丼リズムの話をして、けい君のピッチングを見てもらう。


「うー、よくわからない・・・」


「ほら、ずちゃずずちゃちゃずちゃ・・・」

 私がリズムを取るのだが。


「そもそも、野球ってよくわからない・・・」


「でも、けい君ってWBSY聴き込んでるっていうし、それから、さとみんラブなんでしょう。間違いないと思うんだけどね」


 私が言うと、さとみんがちょっと考える。


「うーむ」


 そして言う。


「けい君は、私を好きだって言ってるけど・・・」


 あ、そっちに反応するのか。


「アイドルグループの35番目の子に似てるから好き・・・とか・・・けい君は言ってることがよくわからないの」


 うん、それは確かに。


「でも、別にお付き合いしてるわけじゃないの」


 違うんですか。


 適当に、へー、そう、うん、とか相槌を打っていたら、さとみんが、ぼそぼそと語りはじめた。


「私、料理は下手だし・・・


 まあ、興味なさそうだよね。


「別に美人じゃないし・・・」


 美人じゃないことはないと思うよ。


「地味だし・・・」


 それはそうかも。


「どこが好きなのかわからない・・・」


 ふーん。


「料理が下手なのは、スポーツ選手の奥さんとしては致命的・・・」


「料理はやれば上手になるよ」


 私が言うと、さとみんは「そうかな・・・」とか言う。


「でも、わたし、本当は筋肉むきむきはあんまり好きじゃない・・・色白で痩せて、頭が切れる人・・・音楽関係だったらもっといいな」


「はぁ、そうなの」


「でも、けい君はかっこいいし、いい人だし・・・そう・・・いい人なんだよね」


 そして、テレビの画面で、3アウトをとって引き上げるけい君を見つめて黙ってしまうのだった。


 この恋愛は、なんだか知らないけれど、悩みが多そうだなと思った。


 野球は0対0のまま延長にはいって、タイブレークになっても点の入る気配のないまま、延長16回に突然降り出した豪雨で中断となった。止む気配がないから、試合の続きはまた明日でしょうか。


 それから、ずっと気になっているこのふたりの間にあるという謎の呪いについては、この時は聞く雰囲気ではなかったのであった。




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