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17. おはようお姉ちゃん、バンドやってるぜ、ガールズバンドだけど、と弟たちは言った(その2)


「バンドなんだから、当然、乱交よね・・・みんなで裸で絡み合ってるわけね」


「乱交って・・・」

 と、和田っち。

「そそそそんなことはしてませんから・・・」

 と、紅緒。

「・・・・・・」

 と、さとみん。


 姉貴はそんな3人のうぶな反応と否定は無視である。


「バンドっていいわよね。XXXXXXとかやりたい放題し放題ですものね」


「何を言ってんだよ。姉貴。そもそも・・・」


「私もバンド仲間とあんなことこんなことをしたいなぁ」


 これは、なんとか黙らせないと・・・


「それは勝手にやればいいだろ。俺たちは・・・」


「私のバックバンドは、クレージーガールズよ」


 そういや、そうだったっけ。


「若いっていいわよねー。うらやましいわ。うらやましいわ。

でも、兄弟で乱交してると、どっちの子供かってわかるのかしら、DNAって同じでしょ」


「DNAは同じじゃない」

 と、若葉は冷静だな。


「だからそういうことはしてないから、うらやましがらないでくれ」


 私の言うことも聞かずに、姉貴は言った。


「まあ、うらやましいのは置いといて・・・千草に若葉。やっちまったからにはちゃんと責任は取るのよ」


「やってないし、責任っていっても・・・」

 と、若葉がうろたえ始めたんだけども。


 こういう時の姉貴に「違う」って言い続けても、全く効果はなく、ぐだぐだと思い込みのしゃべりが続くだけなのである。


 適当なところで手を打つために私は言った。


「ああ、そのへんはまかしとけ」


「さすが千草は昔からしっかりしてるからね」


 私は若葉を指して言った。


「若葉の分もまかしとけ」


「さすがに千草がいたら大丈夫よね。どっちの子供でもOKってことね。じゃあ、私は、姪っ子や甥っ子の誕生を楽しみにしてればいいのね」


「ああ、楽しみにしていてくれよ」


 姉貴は嬉しそうに笑いながら、和田っち、紅緒、さとみんを順番に指差して言うのである。


「あなたが姪っ子、あなたが甥っ子、それからあなたは双子ちゃんね」


 わけのわからない展開の末に、指まで差されてこう言われると、女子3人は声も出ないようだ。


「よーし。じゃあ、話はこれで終わりかな。みんな、XXXXXXがんばるのよ。健康な子を産むのよ」


 姉貴はそう言ってここで話を終えようとするのだが、姉貴のペースの乗ってここで終えてはいけないのだ。


 重要な話がまだ残っているのを忘れてはいけない。


「いや、姉貴。いちばん重要な話が残ってる」


「は?男女のXXXXXXや子作りより重要な話があるの?」


「ひとつ、お願いがあるんだ」


「お願い?」


「重要なお願いだ」


「重要なお願い?ああ、わかった。名付けならまかせて。健太とかアイタナとかカツトとかエルロイとか・・・アイタナちゃんってどういう漢字にしようかしら」


「違う、違う、そうじゃなくて・・・俺たちが男だってことを、秘密にしてほしいってことだよ。失格は困るから。少なくとも決勝ライブまでは行きたいんだ」


 私の言ったことを理解するためにちょっと考えてから、姉貴は言った。


「子供の名前は重要よ・・・でも、そうね。ばれたら失格だもんね」


 口の軽い姉貴には、ちゃんとわからせたうえで、ちゃんと釘を刺す必要があるのである。


「千草も馬鹿ね。こんなことは『秘密』にはできるわけないじゃない」


 は?・・・秘密にできないって・・・この人、会う人ごとに面白がって吹聴して、俺たちを失格に追い込む気じゃないだろうな。


「・・・そこをなんとか」


「そうじゃなくて」


「そうじゃなくて?」


 姉貴はやさしそうに微笑んで言った。


「私は知らない、何も聞いていない。だから秘密にはできない」


 そして、ちょっと考えてから、言った。


「それから、あと、私には、実は、妹が2人いるということでどうかしら」


「は?」


「それでいいでしょ。兄弟姉妹は全部で5人」


 ああ、そういうことか。

 我が家は5人兄弟で、姉貴、男の私、女の私、男の若葉、女の若葉がいるということにするわけだ。


「双子が2組ってことにしましょう」


 姉貴がまた変なことを言いだしたので、私は指を折って年数をちょっと計算して言った。


「双子でなくても大丈夫だから、別々の方がいい」


「千草が言うなら、双子はやめていいわ」


 よし、これでなんとか話はまとまった。


 若葉と女子3名は、さっきから姉貴に呑まれて黙ってしまっているが、話についてきているだろうか。


 さらに姉貴は突然と言うのである。


「あー。こわいこわい」


「は?なにが?」


「いろいろとこわいことが起こりそうな予感がするのよ」


「は?予感?」


「まあ、あんたたちは知らない方がいいわ。ああ、神様、決勝大会で私のライブが無事できますように、アーメン」


 姉貴はいったい何をこわがっているのだろうか。

 しかし、わざわざ何がこわいかを問いただすような面倒な真似は、私はしないのである。


 姉貴は姿勢を正すと、われわれ兄弟に向かって言った。


「あんたたち、バンド内では好きにやりまくればいいけど、まわりの女の子には迷惑かけないようにね。それから、私がしらんぷりしてるんだから、ちゃんとばれないようにしなさいよって、それは大丈夫か、十分に美少女だし」


 そして全員に向かってこう言った。


「それから、せっかく出てんだから、しっかり決勝まで上がって来なさいよ。待ってるわよ」


 そして、QQQこと美登里ねえちゃんは一言「じゃあね」と言って、われわれの前から去っていったのであった。



・・・・・・



「いやぁ。すごい人だね・・・」


 しばらくの沈黙の後、和田っちが言った。


「いやぁ、姉貴がいろいろとすまなかった。それから、姉貴に話を合わせるためとはいえ、私も変なこと言って、すまなかった」


 とりあえず、私はあやまった。


「はい千草先輩、その辺は理解してます・・・」


 紅緒がそう言ってくれる。


 ここで若葉が言う。


「でも、あれは私たちのことをいろいろ心配して言ってくれたんだよ。ねえちゃんはやさしい人なんだよ」


「うん、そうかもね」


「そうですね」


「・・・やさしい・・・」


 はぁ?なぜ、そう思う?


 姉貴は単に自分の欲望をぶちまけていっただけだと思うのだが。


 さらに若葉が言う。


「そもそも、わざわざ僕らにがんばれって言いに来てくれたわけだし」


「うん、そうかもね」


「そうですね」


「・・・やさしい・・・」


 はぁ?あれこそ単なる社交辞令で、やさしい気持ちとかは何もないと思うのだぞ。


 若葉は小さい時から大事にされてたから、姉貴をよくわかっていないのは仕方がないと思うのだが、他のメンバーも若葉に乗せられて姉貴のことを変に誤解してしまったんじゃあないだろうか。


 さとみんがボソッと言った。


「・・・ロックンロール・・・」


 いや待て、さっきの姉貴の言動は、闇鍋はめちゃくちゃな鍋だがロックンロールではないのと同じように、ロックンロールとは異なるものだと思うぞ。


 さとみんが闇鍋に続いて変な影響を受けていないか心配になってくるのであった。



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