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14. 鍋談議


 改めてInto the Bright Madnessのメンバーとお互いを紹介しあって、例の曲のこともお互いに確認し合って、私たちが部屋を去ろうとしたら、名田が声をかけてきた。


「ちょっと待った。この曲も、ちょっと聞いていってくれ」


 そこで、Into the Bright Madnessの演奏を一曲聞いてから去ることにした。


「じゃあ、サタンを触りのところだけ・・・」


 名田がそう言うと、太ったドラムのお姉さんの激しいビートで曲がはじまった。


・・・・・


「まあ、こんなもんだ」

 と名田が私に言う。


 その曲は、高校時代に私が名田たちとやっていた曲のように思えた。


 たぶんそうだろうとは思うものの断言できないのは、その曲は当時私たちがやっていた曲とはまったく違う曲調であり、なんだか変な方向にグレードアップされて、ぐちょぐちょどろどろ、どっかーんと演奏されていたからだ。私たちが高校時代にやっていた時は、もうちょっと明るく陽気な感じだったんだけど、今聞いたInto the Bright Madnessの演奏は、人の欲望のどす黒さが迫ってくる、超アップテンポな重厚な曲に変貌を遂げていたのであった。


 いやはや、本当に、なんとも言いようがなくて、なんと言ったらいいのか困ってしまって黙っていたら、和田っちが声を出した。

「おげー、なんだこりゃ」


 若葉が続いて言った。

「迫力だね。ガールズバンドの演奏じゃないよ」


 紅緒は顔色が悪い。

「なんだか気持ち悪くなってきました」


 さとみんは興奮気味で、なんだか楽しそうだった。

「すごーい。おもしろーい」


 名田が照れ臭そうに私に言った。

「大会用の新曲なんだが、いいオリジナルがないので昔の曲を使うことにした。ばばあのアイデアも使ってるけど勘弁な」


 私は笑顔で答えた。

「OKよ」

 原曲の雰囲気がほとんど残っていないだけでなく、全然別な変な方向に昇華されてるんだから文句のいいようがない。


 そういえば名田の曲作りはこういう方向性だったよな、とか改めて昔を懐かしく思い出すのだった。

 もしも、私が名田や昔のメンバーとそのままバンドを続けていたら、今頃はこういう曲を演奏していたかもしれない・・・とか思うのであった。


 今、私はWBSYでカツ丼とか天丼とかをやっているんだけれども・・・って、天麩羅はどんぶりじゃないんだけどな・・・



 さて、その日の夕食は、夏なのになぜか石狩鍋だった。

 冷房をガンガンにかけて、美味しく食べた。


 後片付けが終わって、部屋に戻ろうとしたら、さとみんが話かけてきた。


「あのー、先輩・・・あの曲の原曲ってどんなだったの?」


 普段無口なさとみんにこんなふうに言われて、じっと見つめられると、ちょっと困ってしまうのです。


「えっと・・・どんな曲って言われてもね・・・」


「なになに?」

「おや、どうしたの」

「あのぐちょぐちょの原曲ですか?」


 さとみんと話していたら、なんだかみんな食堂に集まってきた。


 仕方がないので、細かい所まではっきりとは覚えていなかったんだけれども、アンプの音を絞って小さな音で、ちょっと弾くことにしました。

 

 とりあえず、ギターでメロディラインが分かるように弾いたのだけれども、Into the Bright Madnessのどろどろぐちゃぐちゃした演奏からは想像できないような、普通のどこにでもある、調子のよいロックンロールなんですよね。

 名田は「サタン」とか呼んでいたけれども、元々は「Revolution」という曲名で、それっぽい威勢の良い歌詞がついていたのだった。

 改めて演奏してみて、この勢いの良いちょっと爽快な昔のバージョンの方が、私は好きだなと思った。


「へえ・・・」

「はぁ・・・」

「・・・・・」

 私が弾き終わると、みんなは絶句していた。


 紅緒が言った。

「全然違いますけど、同じ曲なんですか?」


 私が答える。

「同じ曲というか・・・なんというか・・・食べ物で言ったら・・・よくある普通の石狩鍋が、いろいろな具やいろいろな調味料を加えたりしていくうちに石狩じゃない鍋・・・というか・・・そう、ぐちょぐちょどろどろのなんだかよくわからないものになってしまったという感じじゃないかな・・・」


 それを聞いて若葉が言った。

「闇鍋だね」

 うん、闇鍋・・・そうかもしれない・・・


「闇鍋って、なんですか?」

 紅緒の問いに私が答える間もなく、さとみんがつぶやいた。


「ふふふ・・・闇鍋って素敵かも・・・ふふふ」


 なんだか、さとみんが興奮してるぞ。


「ふふふ・・・次の曲のアイデアが・・・ふふふ・・・」


 それを聞いた和田っちが叫ぶ。

「ちょっと、さとみん・・・まさか?」


 若葉が続く。

「闇鍋ソングはやめようよ」


 紅緒はまだわかっていない。

「ねえねえ、闇鍋ってなんなの?おいしいの?」


 さとみんは不敵に微笑を浮かべて黙ったままなのである。


 どうやらさとみんは闇鍋に興味を持ってしまったようだ。


 闇鍋といえば、鍋には普通は入れない食材や食べ物じゃない物が無秩序に放り込まれてグツグツと煮込まれて、出来上がった鍋を食べる端からメンバーが次々反吐を吐いて倒れていくイメージがあるわけで、曲作りで闇鍋なんかをイメージしたら、客が次々と反吐を吐いて倒れていく曲になっちゃわないか?名田たちの曲みたいに・・・


 そもそも曲を鍋なんかに例えたのが明らかな失敗だったと、私は反省したのであった。


 でも、天才さとみんとWBSYのことなので、彼女が作った闇鍋ソングを演奏しても、Into the Bright Madnessのようなぐちょぐちょどろどろにはならずに、結構食べられてそれなりにおいしい鍋になるんじゃないだろうか。


 どんな鍋になるんだろう。そんな曲をWBSYでやるのも、なんだか楽しんじゃないかと思う私がいるのだった。




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