8. 夜は隣の部屋が気になります
夜も遅くなり、若葉と2人で寝室にいると、隣の音楽部屋がやけに静かなのである。
隣はもう寝ちゃったかなとか思っていたら、若葉が話しかけてきた。
「女子と壁一枚のところにいるなんて、興奮してこない?」
まったくこの子は、今までずーっとハーレム状態だったのに、今更何を言ってるのさ。
「今は大会とか音楽とかで頭がいっぱいで、そんな気分じゃないし・・・それからね、反対側の壁一枚向こうの隣の家には若いお姉さんがお住まいですからね。
それに、若葉ちゃん。私たちは、今は美少女姉妹なのよ。いったい何に興奮するおつもり?」
私が皮肉っぽく答えると、若葉が微笑んで言った。
「兄貴はやっぱり冷静だね。そういうところは安心だよ。バンドを壊すのは男女間のトラブルだからね」
ああ、若葉は私に鎌をかけたのか。
つまり、バンド内の色恋沙汰は控えようということの確認をしたのだね。
まったく、よくできた妹・・・というか弟だ。
「ところで、若葉は和田っちと仲がいいよね?」
「そんなことはないよ」
と若葉は即座に言い切った。
なんだか和田っちが旦那で、若葉が気の利く嫁さんで、夫婦でこのバンドを支えてます、みたいな感じなんだが、本人たちには自覚はないのかな、まあお互いまだそんな気はないんだろうな。
さとみんについては、名前不詳のお姉さまから彼氏がいるので手を出すなってお達しがあったから、バンド内でさとみん関連で恋愛問題が起こることはなさそうだ、と思った。
「姉貴は紅緒と仲が良さそうだね」
今度は若葉が私に聞く。
「同じ楽器だからよく相談してるだけだよ」
「ならいいけど・・・そういや姉貴には竹内プロデューサーがいるしね」
「いやいや、それに関しては冗談でもやめてくれ」
そんな話をしている時も、となりの部屋はやけに静かなままである。
若葉と2人でとなりを訪問することにした。
コンコン・・・
コンコンコン・・・
コンコンコンコン・・・
コンコンコンコンコン・・・
戸を軽く叩くが返事がない。仕方ない。
ドンドンドン・・・
「はい、なんですか・・・」
やっと紅緒が扉を開けた。
各人ヘッドホンでCDを聴いていたという。
静かなわけだ。
覗き込むと、和田っちは寝落ちしているようだった。




