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4. バンドのメンバーと駅前で初顔合わせ


 特急から各駅停車に乗り換えて、待ち合わせのローカルな駅に、昼前に到着した。


 故郷に帰っても自宅には寄らない。母親から音楽を禁止されてるため、今回の帰省のことは内緒である。もちろん、俺が弟のバンドに参加することも秘密である。


 もしかしたら、弟のバンド活動も母に秘密なのかもしれない。あとで若葉に確認しよう。


 駅前を見渡すと、制服姿の女子高校生が4人こちらを見ている。4人のうち、ひとりはちびで、ひとりはのっぽ。うちの高校は私服のはずだし、あのおしゃれな可愛い制服はどこの学校のだろう?

 とか、思っていると、そのうちのちびでものっぽでもないひとりが駆け寄ってくる。

「はーい。お兄ちゃん」

 なんだ、若葉じゃないか。今日も女装なのか。

 というか、残りの3人も・・・遠目には女子高校生なんだけれど・・・男なんでしょうか?


「僕の兄です」

「えーと、馬場千草です。よろしく」 

 若葉がみんなに俺のことを紹介する。


「WBSYのメンバーです」

「和田です」

「結城です」

「里美です」


 みんな、女でした。

 そうか野郎じゃなくて女の子だったのか。線の細い「WBSY」の演奏にある程度合点がいった。


 紹介と挨拶が終わると、3人の女子は、俺の顔を見つめる。

 静かに見つめる。

 じっと見つめる。

 見つめられて改めてわかったが、3人とも結構可愛い女子であって、こういう子たちに見つめられると、なんだか緊張してくるのであった。


 ツインテールの小さな和田さんが急に言った。

「じゃあ、まっすぐ背筋を伸ばして、それから、ぐるっとまわってみて」

 元気な声である。

「え」

 つい、言われたとおりにしてしまった。

 背筋を伸ばして、ぐるっと一回り。

 おまけにもう一度、ぐるっと一回り。


「どうだ!これが私のお兄ちゃんよ!」

 今日も可愛い若葉が、可愛く自慢げにみんなに言うけど、なに言ってんだ、こいつ。よれよれボロボロの普段着の俺を、可愛い女子に自慢してどうするつもりだ?それとも俺の回り方になにか自慢するポイントがあるのか?

 ツインテールの小さな和田さん「いけるわ!いけるわ!」

 髪の長い背の高い結城さん「大丈夫じゃない?」

 おかっぱ髪の里美さん「ふむ・・・」

 なんだか4人は盛り上がっているんだけど、勝手にいけるといわれても俺にはわけがわからないぞ。

 バンドなんだから一緒に演奏してみないと、いけるかどうかはわからないはずである。

 とりあえず、ちょっと聞いてみることにする。

「なにがいけるの?

いろんなプレイを実際にやってみないとわからなくない。相性とかあるし・・・

俺は、男とはいっぱいやっていて経験豊富だけれど・・・

実は、君たちみたいな若い女の子とはやったこともないから、いろいろと不安だよ」

 結城さんと和田さんが変な顔をした。


 小さな和田さん「・・・男とは経験豊富・・・」

 背の高い結城さん「若い女の子には興味はない・・・ホモですか?」

 里美さん「sex, drugs and rock'n roll・・・」

 若葉「はぁ・・・」


 俺は、今、いやらしいこと言ったのだろうか・・・?

「いや・・・いやいや・・・『やる』っていうのは演奏のこと・・・だよ」

 誤解は解かないと・・・でも、解けるだろうか。4人とも冷たい目でこちらをみている。

「ともかく、俺はホモじゃないから」


 小さな和田さん「はぁ、違うんですか(笑)」

 背の高い結城さん「やだな、冗談ですよ(笑)」

 里美さん「ふははは・・・(笑)」

 若葉「・・・まったく・・・(汗)」

 よかった。笑ってもらえた。


「それより、みんな、なにがいけるって言ってるの?」

 俺がもう一度質問すると、和田さんと結城さんが何かに気づいたような顔をした。

「あれー。もしかして・・・」

「ちゃんと話を聞いてないんですか?」

 そして、和田さんが若葉にきつく言った。

「ちょっと、若葉。言ってないの?」

 俺は若葉に直接聞く。

「いったい何を言ってなかったんだよ」

 すると、若葉が俺を拝んであやまった。

「兄貴、黙っていてごめん」


 そして、俺は一枚のパンフレットを渡された。

「私たちは、この大会に出るんです」


 そのパンフレットにはこう書いてあった。

「第2回MHPガールズバンドコンペティション全国大会」


 ガールズ・・・?

 ガールズバンド・・・??

 ガールズバンドの全国大会・・・???


「俺とお前はボーイだぜ・・・」

 俺が若葉に言うと、若葉は苦笑いをする。

 ああ、そうか、それで若葉はその格好をしてるわけね。若葉の女装をやっと理解した俺である。

「全国大会ってことは、予選は通ったのか・・・」

「まあ、いちおう・・・」 

 若葉は予選では男とばれずにガールでいけたってことなのか。まあ、そうだろうな、と改めて思う。

「でも、お前は良くても俺はだめだろ」

 3人の女子が、俺に向かってにこやかに微笑む。

「だから、絶対にいけます、いけます、バッチリですよ」

「大丈夫です」

「うん・・・・・・」


 つまり、そういうことだろうと思ったが、もう一度聞いてみる。

「だから、なにがいけるって?」

「色は白いし、身体は細いし、その小さな肩幅と長い首・・・」

 結城さんが続けて言った。

「それに、きれいな肌と細くてきれいな指・・・」

「すごい胼胝だぞ」

「それは私も・・・」

 結城さんが手のひらをこちらに見せて微笑む。

 見ると、しっかりとした指胼胝があります。

「私たち、去年の学園祭でたっくさんの男の子を女装させたんだけれども・・・」

「お兄・・・さん・・・みたいな女顔でスタイルの良い男子は、ひとりもいなかったです」

「若葉以外はね・・・」

「僕は、特別だからね」

「若葉がこうだし・・・お兄さんも絶対に大丈夫です」

 つまり、彼女らがいけるって言っているのは、バンドのメンバーとして「音楽」的にいけるかって話じゃなくて、ガールズバンドのメンバーとして「ガール」的にいけるかどうかって話で、どうも俺は彼女らに・・・ひとりは男だけど・・・太鼓判を押されているようなのである。

 ちょっと、困ったことになってきた、と思った。なぜなら・・・


「じゃあ、一緒に来てください」

「昼ごはんを食べながらいろいろと相談しませんか」

「・・・」

「さあ、兄貴、こっちだよ」


 腹が減っていたので、とりあえず昼食を一緒にとることにした。




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