5. 参加バンドの映像をみんなで観る
「あんまり観たくない気もする」
全国大会に参加するバンドの地方大会の映像が入ったDVDを手にして、紅緒はなんだか憂鬱そうだ。
予選に出ていない私は、いったいどんなバンドが相手なのか、見るのがちょっと楽しみだったが、全国からうまいバンドが集まっているとすると、下手に見ると自信を失っちゃうかもしれない、とも思った。
「紅緒にしては弱気だね」
和田っちがそんな紅緒をちゃかす。
「私たちは、ぎりぎり通過の特別賞なんだから、今更弱気になってもしかたないじゃん」
和田っちはいつものように強気です。
「さ、早く観よ・・・」
さとみんが積極的で、なんだか怖いよ。
最初のバンドの映像が始まった。
DVDの映像は、映像や音の質がそんなに良くない記録用という撮り方だったが、各バンドの演奏の優劣を知るには十分なものだった。
そして、最初から、すごい演奏とすごい歌のバンドが次々と現れたのである。
5つ目のバンドの映像が終わった時には全員が言葉を失っていた。
若葉が、一時停止ボタンを押して映像を止めた。
そして、少し笑いながらみんなに言った。
「思ったんだけど、こいつは優秀なバンドから順番に編集されているんじゃないの」
「は?」
「?」
すごい演奏に気圧されて声も出ないみんなに向かって、この妹はいったい何を言いはじめたのだろうか。
「出てくるバンドの予選の地方がバラバラだし、意図的に並べてあるような気がする」
「それで?」
「つまり、これからだんだん下手くそになっていくから、安心して観ようっていうこと」
若葉にかわいい笑顔でそう言われると、ちょっと心が緩んだ。我が弟ながら、冷静な娘だな、と思った。
「さ、続き・・・」
と言うさとみんも比較的冷静なように見えた。
若葉が映像を再開させた。
若葉の予想通り、曲と演奏レベルが徐々に落ちていくので、このあとは少々安心して観ることができた。
優秀なバンドから順番に編集されているとなると、次に気になるのはWBSYの順位である。
で、WBSYは全体の半分くらいのところで登場した。
WBSYの演奏が始まるやいなや、また若葉が一時停止ボタンを押して映像を止めて話し始める。
「うーむ、半分の順位なんて、思ったより評価が高いね。特別枠のぎりぎりだったから、最下位近くに沈んでいるかと思ってた」
紅緒が言う。
「じゃあ、あの予選の演奏で真ん中だったら、今の実力だともうちょっと上になっているんじゃないかしら?それだったら、なんとか決勝まではいけるんじゃない」
「最初の方でちょっとビビったけど、紅緒が言うように、私らもまったくダメってわけでもなさそうかな・・・」
って、強気な和田っちも最初の方のバンドの演奏にはビビってたのか。
「・・・」
と、さとみん。
私も、紅緒の言うように、WBSYの現在の順位はもう少し上がっているんじゃないかと思った。私が加わって音に厚みを増したし、徹夜の練習を繰り返して、みんなずいぶんうまくなっている。
「よーし。それじゃあ、みんな、ベストを尽くして、なんとか決勝まで生き残ろうじゃないか」
和田っちがまとめた。
話が一通り終わると、若葉が早送りを始める。
「あれ、WBSYは観ないの?」
私が尋ねると。
「うん、若葉、行け行け」
「観たくない、早送り、早送り」
「次・・次・・」
私が観たいと言っても、即座に却下された。
みんな、DVDを見始めた時の変な緊張が解けて、和んだ雰囲気になり、残り半分は冷たい緑茶でも飲みながら観ようということになった。
しかし、空気が和んだのも束の間、次のバンドの曲が始まったとたんに、全員が凍りついてしまったのだった。
「Into the Bright Madness」の歌う「輝かしい明日」は、私たちの4曲目とまったく同じ、例のフレーズで始まったのである。




