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2. 朝香さんと九条さんの訪問とQQQの決勝ライブ出演のこと


 さて、その日の午後には、大会のプロデューサーさんが来ることになっていた。


「こんにちは」

「まあ、素敵なお部屋ですね」


 今日は、竹内プロデューサーではなく、ふたりのビジネススーツの女性がやってきた。


 ひとりはビジネススーツがびしっと決まった仕事の出来そうな美人のおばさんで、もうひとりはいかにも事務員って感じの若い女性だ。

 挨拶の笑顔が素敵な2人だった。


 みんなで食卓に座って、話がはじまった。


「朝香です。この大会を取り仕切ってます。よろしくね」

 美人のおばさんの方からの自己紹介。

「それで、あなたたちは指定のホテルに泊まってくれないから、彼女が担当になります」


 そして、となりの若い女性が自己紹介。

「九条さおりです。よろしくお願いします」

 なんだか緊張しているように見える。

「えーと、そのー、担当といっても、連絡係だと思ってください。そんなたいしたことはできませんけど・・・よろしくお願いします」


 和田っちが彼女に言った。

「担当プロデューサーがつくなんて、光栄です

こちらこそよろしくお願いします」

「いえいえ。私、プロデューサーじゃなくて・・・派遣のお茶汲みOLなんですけどね・・・」


 朝香さんをチラ見しながら言い訳する九条さんなのだが、朝香さんが申し訳なさそうに言った。

「この時期、いろいろとあって人手不足なの」

「本業は事務の雑用なので、その片手間なんですけど、一生懸命やりますので・・・よろしくお願いしたいのは本当にこちらの方です」

「こちらからの連絡は彼女を通して伝えます。あと、なにかあったら遠慮なく彼女に言ってくださいね、出来るだけのことはしますから」


 熱心そうで真面目そうなのだが、不慣れで自信なげな九条さんを見ると、なんだか大丈夫かな?と思うんだけれども、他のバンドの女の子たちと指定のホテルで一日中一緒に居たりしたら、私や若葉が男だってことは絶対にバレると思うので、多少の不便は仕方がないと思った。

 

「大会のいろいろなことはわかっていると思うけど、もう一度確認しておくわね」

 朝香さんがいろいろと話すことをみんなで確認しながら聞いているうちに、どんどん時間が経っていった。


 大会は、予選で選ばれたバンド28組が5組に別れてファーストライブを行い、勝ち残ったバンドが更に2組に組み分けされてセカンドライブを行い、さらにそこで勝ち残った6つのバンドでファイナルライブを行う。

 切符の売れ行きは順調で、どのライブも満席になるだろうとのこと。


 練習スタジオの時間割りや、ライブのタイムスケジュールなど細かい事項が、わかりやすく伝えられた。


 こうしたいろいろな連絡や確認の話が終わって、最後に朝香さんが言った。

「決勝には、QQQがゲストで出演することになったのよ」


 あまりに意外なことに私が驚いていたら、若葉はすぐに反応した。


「えっ、まさか・・・あ・あのQQQが・・・」

 若葉は驚きを越えてなんだか嬉しそうだね。


「QQQってなんですか?」

 紅緒が私にこそっと聞いたので、こそっと答える。

「若手女性シンガー・・・まだ無名だけど最近一部で人気が出てきた」

「変な名前ですね」


 朝香さんが、そんな嬉しそうな若葉を見て微笑む。そして、ちょっと嬉しそうに話し出す。


「去年はゲストはなしだったんだけれど、今年は盛り上げようと思ってね。夏のこの時期、バンドはフェスで予定が埋まっちゃっていて、出演可能なうちのプロダクションの歌手の中で、客層がかぶるのは彼女くらいしかいないのよ。おじさん歌手やおばさん歌手、それから演歌歌手ってわけにはいかないでしょ。無理を言って出てもらうことにしたの。

アニメの主題歌で人気が出て、アニメ歌手って呼ばれてるけど、でも、うちのプロダクションの、現在一押しの本格派若手女性シンガーよ」


 アニメの主題歌、アニメ歌手、と聞いて、和田っち、紅緒、さとみんがちょっと呆然としている。


 私も、QQQが出演するとなるといろいろ面倒なことが起きそうだな、とか思ったが、朝香さんに気を使ってとりあえずは若葉に続いて喜んだふりをすることにした。


「あのQQQと同じステージに立てるなんて光栄です」


「よろこんでくれてうれしいわ。がんばって決勝まで来てちょうだい」

 朝香さんはちょっとホッとした風だったが、やっぱりアニメ歌手はほかのバンドの女の子たちには不人気なのかもしれない。


「それでは、何か質問とかないかしら」

 朝香さんが言ったので、最後に気になったことを聞いてみた。


「ところで、竹内プロデューサーはお元気ですか。今日いらっしゃるかと思っていたのですが・・・」


 私がそう聞くと、朝香さんも九条さんも急に笑顔になった。


「ちょっと元気がなかったけれど、千草さんが気にしていたと伝えたら、彼きっと喜んで元気がでるわ」と朝香さん。

「竹内さんは、私がWBSYの担当って聞いたら本当に残念そうだったんですよ。でも直接担当ではないですけど、大会中にはお会いできると思いますわよ。うふふふ」


 は?・・・私が気にして、彼が喜ぶ?

 は?・・・担当できなくて残念?

 は?・・・またお会いできますわよ、うふふふ?


 一体これは何を意味しているんでしょうかね?

 竹内プロデューサーには、まったく困ったものである。


「ほー」

「ふむ」

「・・・」

 アニメ歌手の話で意気消沈していた女子3名が息を吹き返したようだった。



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