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29. プロデューサーさんとの打ち合わせ(その2)


「WBSYは、曲の準備はいかがですか?」

 竹内プロデューサーが訊ねる。

「うちの朝香が申すには、最低2曲あれば辞退することはない、とりあえず2曲を持って参加してアピールして欲しい、そもそもセカンドライブに進めるかどうかわからないバンドは2曲あれば十分なはずだから、とのことでした」

「今日4曲目ができます」

 と、ちょっと不愉快そうな和田っち。

「失礼しました。セカンドライブに進めるかどうかわからないバンドというのはWBSYのことを言っているわけではありません。いや、本当に。WBSYには、がんばって決勝までいっていただきたいと思っております」

 そう言って、竹内プロデューサーは笑顔でみんなを見て、最後は私を見つめるのであった。


 話が一通り終わったあたりで、今大会に対する主催者の方針を確認しておきたいと思ったので、こんな風に質問してみた。

「ところで、オリジナル4曲、ライブも3回って、結構敷居が高いと思うのですが、そのあたりはどういうお考えなんでしょうか」

 竹内プロデューサーは、こちらの質問の意図を汲み取ったらしい。 

「実は、昨年は一回のライブで一曲で優勝バンドを決めました。優勝したバンドはいい曲といい演奏だったのですが、その後、新しい曲がなかなか出来ずに、最終的には、バンドの方向性について内部で調整がつかずに、半年で解散してしまったのです。そこで、今回は、そうしたことがないように、ライブの回数や曲数を増やして、プロとして堪えうる、実力のあるバンドを選ぼうと考えたのです」

 確かに今回のこういうやり方だとそれなりの実力がないと最後まで残れないし、実際、「晴れた日のなんとか」とかいう、いい曲、いい演奏のバンドが脱落したわけだし。


「繰り上がりとかあるんですか?」

 和田っちが聞く。

「私は個人的にはそれもありかと思ったのですが、見込みのないバンドをひと夏の思い出作りのために呼んでも仕方ない、ということになりまして、繰り上がりはなしです」

 は?・・・では、WBSYも、プロとして通用するかもしれないと思われて予選を通過したわけなのか?あの当時の演奏を聞いて、何をどう判断したんだろう?

「すいません」

 同じことを思ったのだろう。私より早く紅緒が反応した。

「・・・と、言うことは、私たちもプロとして通用する実力がある可能性がある、という評価なのだと思うんですけれども、よろしければ、WBSYが選ばれた理由と評価のポイントを教えてもらえますか」

 竹内プロデューサーはちょっと微笑むと全員を見渡して静かに話し始めた。

「こういうことは、正直に言った方が良いと・・・私は個人的に思っているので、お話しします。WBSYは、ボーカルの魅力とユニークな曲、そのあたりがほかのバンドとは違うすぐれた特徴と考えています。それから、今日分かりましたが、高校生の美少女バンドにさらにひとり美女が加わりましたので、ビジュアル面でも期待するところです。

こうした特長を伸ばしつつ、他の部分もがんばって、大会で勝ち上がっていただきたいと思っています」

 真面目そうな竹内プロデューサーに、真面目にこう言われると、説得力があってみんな納得して黙ってしまうわけなんだけれども、つまりいいところはあるんだけれども、まだまだ実力不足という評価ってことで私は理解した。


「これから練習なんですけど、予選の時から一段と進歩した私たちの演奏を、ちょっと聞いていかれないですか?」

 和田っちがこのように竹内プロデューサーを練習に誘ったのは、WBSYの全体的な評価が高いわけではないことを再認識したからだと思った。現在のうまくなった演奏を聴いてもらって評価を上げておこうと考えたのだろう。

 しかし、竹内プロデューサーは言った。

「すいません。実は、ほかにまわるところがありまして、今日のところはそろそろ失礼いたします」


 こうして、竹内プロデューサーは去っていった。去り際に微笑んでいたけど、目があっちゃったから主に私に微笑んでいたのかもしれない。


「なんだか肩こった」

 と、和田っち。

「芸能プロダクションの人って、もっと軽いかと思っていたのに、なんだか重厚な人でしたね」

 と、紅緒。

「・・・・・・」

 と、さとみん。

「真面目で誠実そうで、印象はよかったな」

 と、私が言うと、若葉が言った。

「それはそうなんだけど、なんだか可哀相だね」

「なにが可哀相なんだよ?こんな田舎までわざわざ来るのは仕事だろ。それにお前の歌は評価されてたし、わざわざ来る価値はあるんじゃないの?」

 若葉相手だと、つい俺に戻っちゃったんだけど、私がそういうと若葉が答えた。

「いや、そういう話じゃなくて・・・なんとなく・・・私の見たところなんだけど・・・あのプロデューサーは・・・たぶん・・・姉貴にかなりの好意を持っていたよ・・・」

「は?」

「姉貴が男とも知らないで・・・」


 3人の女子が急に色めき立った。

「おお、そうかもね」

「声をかけるのは特別な場合だけ・・・でしたっけ」

「うん、一目惚れ」


 は?みんな、いったい何を言っているのだ。

 確かに、やたらに私だけを見ていた気はするのだが・・・

 まさか!?・・・そんなことはないんじゃないの?

 でも、もしそうだとしたら、まったく困ったものである。



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