25. 佐藤さんの訪問と呪われたカップル
ふふふふふふ。
今夕は、佐藤さんが私の部屋にやってくるのである。
「今度、ちーちゃんの部屋に行ってもいいかしら?」
なんて、佐藤さんってば、急に言うから、ちょっとどきどき、いろいろ期待しちゃいましたよ。
女の人が私の部屋に入るなんて、実ははじめて。若葉はかわいい娘だけど男だから除外。それから、私も今は一見女みたいだけどもちろん男だから女の人じゃないのだ。
それで、ちょっと気合を入れて部屋の掃除と整理をして、その他いろいろ、佐藤さんを迎える準備は万端なのである。
「あら、なんだか片付いているのね。
男の子の部屋って、もっと、こう、酷い有様なことが多いのに・・・なんだか素敵に整理されていて・・・お花まで飾っちゃって・・・ちーちゃんって女子力が高いのね」
まずは玄関から部屋を眺めた佐藤さんなのでが、いきなり女子力が高いとはまいっちゃうな。
「では、こっちはどうかな。さあ、ちーちゃんも来て・・・」
いきなり寝室に侵入する佐藤さん・・・どうするつもりですか・・・
「あらあら、寝心地の良さそうな大きなベッドね。よしよし、きれいに洗濯されてるわね。
ごろごろしちゃおうかな・・・」
男子の部屋を訪れた若い娘がベッドでごろごろって、なんだかこちらもどきどきしてきちゃうんだが・・・
「うふふ、ねえ、ちーちゃん・・・」
そうして佐藤さんは、ベッドに色っぽく寝そべって私に言うのです。
「私が訪問したのは、単に妹たちが合宿する部屋を見ておきたいだけよ。『仕事』で訪問だから誤解しないでね」
釘を刺されました。
ベッドの上から男子に向かって言うセリフじゃないけど・・・そういえば、私は今、美少女だったっけ。
「ごろごろごろごろ・・・どすん、と。
あら、なんにもないわね」
ベッドの下を覗く、本箱の本の裏を見る、押入れを急に開ける・・・ちょっとやめてください。
「本当に、なんにもないわね」
いったい、何を期待してるんですか。
「じゃあ、こっちはどうだ。
あら、このパソコンなんだか起動が遅いわね。それで、ブラウザは、っと?えっ、なーに?はっ、聞いたことないブラウザだけど、ちーちゃんって、マニアなの?
ぎゃあ、このブックマークはなに?すごい大量なんですけど、どれどれ・・・ぎゃあ、これって、何語・・・怪しいサイトね、えっ、音楽関係、本当?」
佐藤さんが、私の音楽関係のブックマークを見て悶絶している。
「あらあら、いやいや、これはこれは、なんというか、その、真剣に趣味に走っているオタクのブックマークね。いやあ本当にすごいわ。
うーむ。さすが、ちーちゃん。
私は安心したわ」
佐藤さん、いったいなんで、そこで安心するんですか?
「うわあ、なにこれ、なんだか凝った料理じゃない。食事を用意してくれるって言ってたけれども、実はあんまり期待してなかったのよ。でも、なんだかすごいわね。
これって、ちーちゃんが作ったの。
本格的ね。レトルトじゃないの?
うおお。美味しいわ。美味しいわ。このサラダもすごーい。
私も料理は苦手じゃないけど、これはかなわないわ。降参よ。
えっ、私のために、2日かけてソース作って2日煮込んだ・・・
ドレッシングは特製なの?
ちーちゃんって本当にすごいわね。
うーむ。里美のやつ、こんなお姉さんの家で生活できるなんて、なんて幸せ者なの。
で、こっちの料理はなに?見たことないものだけど・・・わー、美味しい・・・
ところでね。うちの里美は、掃除、洗濯、料理とか、家事全般が全然駄目なの。母が言っても、私が言っても、父が言っても、全然やる気ないのよね。
それでお願いなんだけど、ついでにこうしたことを、あいつにいろいろと仕込んでくれないかな。
里美のやつ・・・せっかくいい彼がいるのに・・・あれじゃあ、お嫁にいけないわ。
えっ、ちーちゃん、知らないの?
あいつは無口だから言わないわよね。
みんな知ってることだから、別に秘密じゃないのよ・・・
里美にはもったいない、いい男なんだよ、これが。
でも・・・呪われたところがあるから、里美はちょっと乗り気じゃないけど、彼は里美にべたボレなのよね」
あの無愛想な天才さとみんに彼氏がいるのか・・・でも、呪われたカップルって、いったいなんなんだろう。
「彼は呪われてないのよ。
呪われてるのは里美だけ。
それから、ちーちゃんは手を出しちゃ駄目よ」
「あのー、いままでの文脈からすると、私がさとみんに手を出すなってことでしょうか?
それとも、さとみんの彼がいい男だけども、手を出すなってことですか?」
「うーん、それは、両方よ。
ちーちゃんは美人な上に家事も出来るいい女だから、彼もくらっとくるかも・・・
年上女房だし・・・
彼の業界では年上女房が大人気だからね」
彼氏の業界って・・・一体どんな業界なんだ?
で、このあと、食べたり飲んだりしながら、コスプレとかアイドル(男)の話とか、ファッションの話題とか、化粧品の選び方とか、いつものようにガールズトークみたいになってしまうのである。
「なんだか、男扱いされてないですね」
とか私が言ったら、
「美少女が何言ってんのよ」
と言われた。
まあ、確かに、美少女なんですけど・・・
美人の彼女とデートを重ねて、やっと家に訪ねてきてくれたというのに、全然色っぽい展開にはならないのである。




