14. 朝になったので解散です
カツ丼、海鮮丼、天麩羅を何度もやって、WBSYがこれまで弾いてきたコピーの曲も弾いたりしているうちに、朝がやってきた。
大学の定期試験前にはよく徹夜で勉強するが、徹夜ってやつは、空がだんだん明るくなってくる頃には眠いような眠くないような変な興奮状態となり、昇る朝日を見るとなんだかすがすがしい気分になるものである。そして、今日の朝の俺が思うには、バンド仲間とすごす時間は漫画アニメ同好会の喫茶店とかテニスサークルの合コンとか大学の同級生と勉強したりする時などとは違って、なんだかいいな、ということである。
練習はなんとなく終了となり、俺は洗面所で男の姿の戻り、みんなでいっしょにだらだらと朝食を食べる。
男性用のぼろ服を着てトーストをかじっている俺を見て、紅緒さんが言う。
「今日はじめて会ったのに、男の先輩は今日で見納めですね」
「次回からは・・・美少女の先輩・・・ぷぷぷ」
「ふははは・・・」
和田っちとさとみんがなんだか異様に可笑しそうである。
「まあ、なんというか・・・美少女の俺って・・・なんだか、まだ実感がないんだけれど・・・って・・・君たち、なんか面白がってない?」
「面白いです。でも、男とばれたら失格ですから、真剣です」
「うん、真剣、真剣、本当に真剣。先輩も真面目にやってよね」
「真剣・・・でも、ちょっと、面白い・・・」
徹夜明けの変なテンションによって、3人娘の本音が語られたようだ。
でも、変に気を使われるよりは、この方が気が楽だ。俺も面白がって化ければいいわけだよね。
和田っちが俺に言った。
「でも、美少女の先輩と組めるのは、本当に楽しみなんだからね」
そんな会話をしているうちに、ひとつ聞き忘れていたことを思い出した。
「ところでWBSYって何の略なの?」
それまで黙っていた若葉が、すぐさま、ばしっと答える。
「WBSY BlesS You」
は?
つまり、WBSYはあなた方を祝福します、って意味か?
俺たちって神様なのかい?
そう思って、
「汝らを祝福せん」
とか、ふざけて言ったら、紅緒さんに訂正された。
「先輩。単に感謝しますって意味です」
「WBSY」というバンド名は、「WBSYはあなた方に感謝します」の略である。
・・・ということなんだけれども、じゃあ、「あなた方に感謝する『WBSY』」の「WBSY」っていうのは何の略かって言うと、「WBSYはあなた方に感謝します」の略なので、バンド名は「『WBSYはあなた方に感謝します』はあなた方に感謝します」ていうことになる。しかし、さらに、そこに出てくる「あなた方に感謝する『WBSY』」の「WBSY」っていうのがいったい何の略かって言うと、「WBSYはあなた方に感謝します」の略だから・・・「WBSY」とは「『「WBSYはあなた方に感謝します」はあなた方に感謝します』はあなた方に感謝します」であるって、結局「WBSY」って何なんだよ?
面白いとは思うけれども、なんだかよくわからないな、これは。
誰が考えたんだろうかって・・・たぶん、こういうのは若葉だろう。しかも、さっきの誇らしげな様子からは彼の・・・いや彼女の自信作なのであろう。




