12. さて夕食はポトフです
俺は今まで自分の部屋では胡坐をかいてギターを弾いていたのであるが、今はちょっと短めスカートの制服を着ているので、胡坐をかいてというわけにはいかないのではないだろうかと思って、椅子に座って構えてみたんだけれども、やっぱり前かがみ大股開きが落ち着くんだよね。でも、これも女の子的にはいけない格好じゃないだろうか、困ったな。
女の子ってどうやって弾いてるのだろう?
周りを見回すと、といっても紅緒さんとさとみんの2人なんだが、足をきれいに揃えていたり、足を組んだりして、かっこよく椅子に座って弾いてるぞ。ちょっとまねしてみよう。
椅子に座って弾くと、スカートから出るタイツの太ももを見ながら弾くことになって、自分の足なんだけれど、なんだか気分がいつもと違うのである。
それから、長い髪って少々邪魔である。でも、これは高校時代に長髪にしていた時期もあって多少は慣れているから何とかなるだろう。
部屋を見渡すと、みんな黙々と練習していて、和田っちのドラムズの音だけが響き渡っていた。俺も黙って、譜面から音を拾いながら、新しい曲を練習しはじめた。
しばらくすると、突然と若葉の声が響いた。
「さあ、さあ、みんな、そろそろ夕食の準備をはじめようじゃないか」
食事は若葉が仕切っているのだな。昼のカレーも若葉が作ったって言ってたな。
「ロールキャベツをいれたポトフを作ろうと思って、材料の準備をしてある」
なんだかちゃんとしたものを作るつもりなんだなっと思ったら、女子たちがぶつぶつ言う。
「夕飯はカレーの残りが少しあるよ」
と、和田っち。
「足りなければカップラーメンもありますよ」
と、家主の紅緒さん。
「じゃあ、お湯なら私が」
と、さとみん。
「は?みんな何を言ってるの。さあ、和田っち、一緒にポトフを作ろう。カレーの残りは夜食にしよう」
若葉がもう一度言っても、反応は鈍い。
「今日はやめよう、作るの面倒。みんな新曲で頭がいっぱいだよ」
「ちぇっ、仕方ない・・・」
和田っちの一言で、若葉はこちらを見た。
「じゃあ、千草姉ちゃん・・・」
女子3人の手伝いをあきらめた若葉は俺に声をかけるのである。
「はいよ。お姉ちゃんが手伝いますよ。じゃあ、3人は後片付け係ね」
ロールキャベツをいれたポトフなんて、一人暮らしではなかなか作らない一品で、作り方の詳細とかもう忘れちまったんだけれども、手伝いくらいならいくらでも出来る俺である。ギター弾くのも少々飽きてきたから、ちょっと別なことをするのも良いだろう。
「ところで若葉、こういう時によくやる失敗は、米を炊くのを忘れることだから。気をつけような」
ひき肉をこねてキャベツで巻くとロールキャベツ。ソーセージ、芋、にんじん、たまねぎ、セロリを煮る。2人でさっさか作業を進める。
「香辛料の袋は例のやつかい」
俺が聞くと、若葉が笑って答える。
「最近、ちょっと改良を加えたやつなんだよ何を改良したかというと・・・」
「OK、まかせた。説明はいいよ」
さて、付け合せはごぼうのサラダか・・・ごぼうなんて久しぶりに扱うよ。
こんな2人の料理姿を女子3人が練習を中断してあきれて見ていた。
「あんたたち兄弟、つうか姉妹っつうか・・・まったくいったい何者って感じ」
「女子力高いんですね。あきれちゃいます」
「こっちの息もぴったり・・・・」
仕方がないので、料理をしながら3人に事情をいろいろと説明する。我が家は父が死んだ後、母親が単身赴任で仕事をしていてほとんど留守なので、子供だけで生活していて、家事は俺と若葉の仕事だったのである。そういうわけでよく一緒にふたりで料理をしていて、ある時期にはいろいろと料理に凝った時期もあったのである。
「美人のお姉さんは?」
「姉貴は役に立たなかったからな」
「うん、まったく役に立たなかった」
美登里の姉貴は、家事とかまったくしなかった。まあ、掃除だけはたまに手伝ってくれた。
ちなみに和田っちは少しは料理をするが、紅緒さんとさとみんは料理は苦手とのこと。
とかいっているうちに、ご飯も炊き上がって、料理も出来上がるのである。
久しぶりに楽しく料理をして、おいしく食べた。
で、食事の後も、練習が続くのである。




