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「美雪さん、霊と話せましたね~凄いです!」
ニコニコして言うアランに鷹矢はムスッとして出されたコーヒーを乱暴に飲んだ。
霊の声など聞こえたことなどない鷹矢にとって美雪が話せたことが気に入らないらしい。
つくづく、気持ちが態度に表れる人間だとアランは苦笑する。
話したといっても、一方的に霊が『コロサレタ』ということと『サイト』というキーワード的なものしか聞こえなかったのだが。
男の子の霊は消えてしまったのだ。
「ほほほ、ゴメンなさいねぇ。私、霊の声がきこえちゃって」
バカにしたように言う美雪に鷹矢も負けじとニヤリと笑った。
「へん、オマエ、霊を封印とかできねぇだろ。修行してねぇもんなぁ~。オマエのがすげーなんておもってねぇからな!」
「負け惜しみはそれぐらいにしたらぁ?ほら、才能ってやつかしら?」
言い合いになりそうな二人の間に立って、アランはまーまーと仲裁にはいる。
「そんな事している場合ではないんじゃないんですか?」
自分よりはるかに年上だろう、鷹矢と美雪の子供じみた態度に内心ため息をつきつつ美雪にもコーヒーを置く。
「そうだったわね」
美雪はうなずいて、コーヒーに砂糖を4杯とミルクをたっぷり入れてスプーンでグルグルとかき回した。
ソレを見た鷹矢が顔をしかめる。
「うげぇ、オマエ砂糖いれすぎ」
「甘いほうが美味しいじゃない」
そういえば、美雪と始めて会った喫茶店でも甘そうなココアを飲んでいたのを思い出して鷹矢は顔をしかめる。
「僕には見えないんですけど、その霊の男の子は、殺されたって言っているんですか?」
「うん」
「・・・殺人事件じゃないですか」
顔色を変えて言うアランに鷹矢は首をかしげた。
「いやぁ、オレ飛び込むの見てたけどアイツ誰かに押されたとかとかじゃないな、自分で飛び込んだぜ?」
「・・・・?どういうこと?」
首を傾げる美雪にアランも首をかしげる。
「では、自殺ってことですか?」
「いや・・・前に依頼された仕事で似たようなのがあった。いっけん自殺したようにみえるんだけど、霊に殺されるってやつ」
鷹矢の言葉にアランが問いかけた。
「つまり、呪いってやつですか?」
「そんな感じだな。よく、三代先まで祟ってやるとかいうじゃん、あんな感じで子孫を呪い殺すってイメージだとかんがえやすいかな」
「そんな怖い話やめてよねぇ」
嫌そうな顔をしている美雪に、鷹矢はにやりと笑う。
「ん~。その時死んだ霊と同じ学校の子だと思うんだけど女の子がさ冷めた目で「サイトを見たから・・死んだ」とか言ってたんだよね。
アイツなんか知ってんじゃねぇの?」
「その男の子の霊も サイトがどうとか言ってたんですよね?」
アランの問いかけに美雪はブンブンと頭をふった。
「言ってたけど、知らない!知らない!・・・・まぁ、霊も消えたんだしさ。これでいいんじゃない?」
鞄を持って立ち上がった美雪は
帰るつもりなのか、満面の笑みを浮かべている。
「消えたけど、成仏はしてねぇよ」
「でも、もう見えないし。多分、殺されたとか言いたい事いえたからすっきりして成仏したんじゃないかしら?」
「・・・俺んちの家訓でなぁ一度かかわった霊はほおって置くなっていうのがあるんだよ」
「ふーん」
興味なさそうに相槌を打って美雪はもう一度微笑んだ
「あたしは知りません。あんたの家族でもないし」
「確かにその通りですね」
頷くアランに美雪もそうでしょう!とばかりに頷く。
「・・・・ま、いいや。絶対にオマエはオレに協力するから」
「”僕には霊の声がきこえないんで、手伝ってください美雪さん”ってお願いしたら協力してあげるけど?」
挑戦的に言う美雪に鷹矢はそっぽを向いた。
「無理ですよ。鷹矢さんは、頭を下げない人ですから」
苦笑じみたアランの言葉に美雪は優雅に微笑む。
「あらぁ。まぁ、いいけどぉ。霊の声が聞きたくなったらあたしに連絡しなさいよ」
「オマエの連絡先なんてしらねぇよ」
「あら、じぁ教えといてあげるわね」
高飛車に言いながら携帯電話を取り出した美雪に舌打ちしながらも鷹矢もポケットから携帯電話を取り出した。
赤外線通信をしてお互いの情報を交換する。
「おい、間違ってんぞ。名前、窓際 美雪って入れなおしておくわ」
「あんたねぇ・・・・」
ピピッと携帯電話を操作している鷹矢に呆れている美雪。
「スイマセン。子供っぽいところがあるんですよ」
「この人ちゃんと、この会社経営していけているの?」
「えぇ・・・。まぁ演じるの得意みたいですよ」
「演じる?」
首を傾げる美雪にアランはニッコリ笑う。
まるで天使のような無垢な微笑だ。
美雪は25歳を少しいったところだが、アランは間違いなく20歳前後だろう。
水商売をしているこの店で未成年が働いていることはありえないと考えると、10代ということは無い。
だが、15歳といっても通りそうな無垢な笑顔だ。
鷹矢との会話を見ても、鷹矢より随分大人だと感じてしまう。
「ホストって女人を楽しませるのが仕事ですからね。僕はそういうの苦手なんで裏方ですけど」
「俺だって嫌だよ。女はベタベタする。色仕掛けする。甘い声をだす。大嫌いだ」
携帯電話をしまいながら言う鷹矢に美雪はますます呆れた顔をする。
「あんたね・・・それが商売でしょうが」
「うまくやってるよ。俺」
「そんな態度で?」
こんな口の悪い男がホストをやっているとは思えない。中にはマニアックな人間もいるかもしれないが。美雪が想像している
ホストという人間とはかけ離れているように感じた。
顔やスタイル、総合的にはかなり上位にいるが、性格がいまいちよろしくないように思えた。
「だから、隠してんの。それにオレ、ホストじゃなくてオーナー。裏方だオレも」
「でも、鷹矢さん目当てで来るお客様も多いですよね」
「ったく、オレは客のあいてしないってーの。そういうのは、オレの従業員がするからなぁ」
天井を見上げてぼやいている鷹矢にアランは肩をすくめた。
「こういうオーナーなんで困っているんですよ」
「おはようございまーす」
入り口が開く音がして、頭をワックスで固めたスーツ姿の男が数人頭を下げて入ってきた
鷹矢がいってた、従業員、ホストが出勤してきたのだ。
「おう、お疲れ」
「あれ、お客さんですか?」
美雪の姿をみて、ホストたちが慌ててポケットに入れていた手を出して背を正す。
その姿を見て、ホストも意外と大変な商売だなと美雪は思った。
「客じゃねぇよ。こんな女」
「こんな女とは失礼ね!」
「おら、そろそろ開店するんだ。元気になったんなら、とっとと帰りやがれ」
動物でも追い払うかのように、シッシッと手を動かす鷹矢に美雪は思いっきり舌を出した。
「お世話になりました!」
アランにニッコリ笑って御礼を言うと 出勤してきた数人のホストに頭を下げてつかつかと歩いていく。
店から出て行く美雪の背を見送って、ホストの一人が眉をあげた。
「すっごい人ですねぇ・・・。鷹矢オーナーにあんな口きくなんて・・・・」
「勇気あるなぁ。あの人・・・。もしかして、オーナーの彼女ですか?」
彼女という言葉に鷹矢は顔をしかめた。
「そんなわけねぇーだろうが!」
「お似合いだと思いますけどね」
ボソリと呟いたアランを鷹矢は思いっきり睨みつけた。