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この人が、前に言ってた人ですか?」
茶色に染めた髪の毛を手で巻きつけながらアランは言った。
クセ毛のせいでクルクルと可愛く外側にカールしている髪の毛を人差し指で巻いてクセを付けている。
浅黒い肌のせいか、アジア系の顔立ちに見える。
Tシャツとジーンズ姿のアランはソファーに寝ている美雪を覗き込んだ。
「あぁ。ったく、こいつ面倒ごとを背負うタイプの女だな」
ソファーに寝かされている美雪の前に座って鷹矢はため息をつく。
「迷惑をかけてごめん」
具合が良くなったのか頭を冷やしていた濡れタオルを額から外して美雪は起き上がった。
「もう大丈夫なんですか?」
アランがニコニコ笑って声をかけると、美雪は軽く頷いた。
「多分・・・。でも・・・気持ち悪い」
「あ、僕、飲み物持ってきますね」
天使のような笑みを残して消えていくアランを見送って、美雪は鷹矢に頭を下げた。
「ありがとう。迷惑掛けてゴメンなさい」
「本当に、迷惑だよ」
「で、ここは何処?」
「オレの店」
「だと、思った」
店内を見渡す美雪の顔を見て鷹矢は苦笑した。
店の中だからか、サングラスを外している。
薄暗い室内でもやっぱり青い瞳は良く見えた。
「いい店だろ?」
「ホストクラブとか来たこと無かったけど、・・・・なんていうか派手よね」
高級感だたよう店内を不思議そうに眺める美雪。
シャンデリアがつるされ、黒い革のソファーが並んでいる。
「意外と小さいのね」
「どこもこんなもんだよ。ここ、歌舞伎町よ?」
掛けられていた薄い毛布を膝に置いて美雪は靴をはいた。
「あんた何者なの?」
ますます怪しい目で見られて鷹矢は苦笑しながら頭をかいた。
綺麗にセットされていた黒い髪の毛がくずれている。
「知る人はすくねぇんだけど、霊能力者ってやつ」
「・・・・・・・はぁぁぁ?」
口をあんぐりとあけて鷹矢を見る美雪に、水を持ってきたアランは噴出した。
「だれでも驚きますよね。どうぞ」
「あ、ありがとう」
水を受け取って、アランを見上げると彼は天使のような笑みで
「本当なんですよ」
「・・・・わかった。もういい、今日はいろいろありすぎてつかれているからあたし」
水を飲んで言う美雪に鷹矢はため息をついて、長い足を組んでふんぞり返って天井を見上げる。
「そうも言ってらんねぇよ。見てみろよ」
鷹矢が指差した方を見ると駅で見た、血まみれの男の子がたっていた。
「ひひひぃぃぃぃ」
声にならない悲鳴を上げた美雪の姿が情けなくてアランは声を殺して笑っている。
「ちょ、なんで笑えるの?」
「僕、見えないんですよ。この店の ただの従業員なんで鷹矢オーナーの裏の仕事の手伝いは残念ながらできないんです」
裏の仕事というのはなんなんだろうかとう疑問があったが美雪はもう一度部屋の隅に”居る”男を見る。
ウッスラと透けていて、色も薄い。よく見ないと見えないが、人間ではないことは美雪にもわかった。
「ねぇ、なんで血まみれなの?」
震えている美雪の声が面白いのか、アランはまた笑っている。
「しらねぇよ」
ムスッとして言う鷹矢はポケットからタバコを取り出して火をつける。
煙を口から吐き出して、部屋の隅に立っている霊を見た。
「オレ、見えるけど話きけないしなぁ・・・相手が一方的にすげーウラミとかあれば別なんだけどなぁ・・・・」
「・・・それで霊能力者?」
冷たい目で見られて鷹矢は気まずそうに頭をかいた。
「しょうがねぇーだろうが。世襲制でオレが跡継がないといけないんだから」
「はぁ?」
ますます意味がわからない。
文句を言ってやろうと口を開いた美雪に、アランが可愛く小首をかしげる。
「鷹矢オーナーのご実家がそういう家なんですよ。僕もよくわからないんですけど、霊とかタタリとかそいういうのを収める
神主みたいなやつでしたっけ?」
「・・・・メンドクサイから、その説明でいいわ・・・」
ため息がちに言う鷹矢に美雪は震えながら部屋の隅でぼーっと立っている霊を顎でさした。
「じゃ、早くなんとかしなさいよ」
「っても、根源があるっぽいんだよなぁ。うらみとかあって、出てきている感じじゃなさそうだし。声がきこえればなぁ」
「使えないわよ。この人」
アランに文句を言う美雪に鷹矢は顔をしかめた。
「しょうがねぇーだろうが、だからオレは跡継げないって言ったんだ!」
「知らないわよ!あんたの家の事情なんて。ってか、どーーーするのよ?この子。家まで付いてこないわよね?」
「オマエになついているから付いてくるんじゃないのか?」
「ひぃぃぃぃ」
鷹矢の死亡先刻のような言葉に、美雪は悲鳴を上げた。
その様子を面白そうに見ていたアランはポンと手を叩く。
「おねぇさんなら、話せるんじゃないんですか?」
「おねぇさんって・・・。そんな年齢じゃないんだけど」
「だって、名前知らないし」
アランの言葉に鷹矢も思い出したかのように頷いた。
「そういや、名前しらねぇな」
「・・・美雪よ・・・山際 美雪」
「窓際?」
「山際!ヤマギワ!」
ツバを飛ばしながら名前を言う美雪を指差しながら鷹矢はカラカラと笑った。
「こいつ、窓際だから、首になったんだぜ、仕事。今無職らしいよ。アランも気をつけろよ。手に職つけないとこうなるぜ」
「だから、山だってんだろうが!」
バンと机を叩いて講義する美雪と意地悪そうに笑う鷹矢にアランもニコニコとほほえんだ。
「美雪さん面白い方ですねぇ・・・。僕はアランといいます」
「アラン・・・」
本名だか、水商売用の名前だかわからないと思ったが、あえて突っ込んで聞くのも疲れ美雪は頷いた。
「美雪さんなら霊の声きこえるんじゃないですかねぇ」
アランの言葉に美雪は慌てて首を振った。
「無理よ。わたし、霊なんて今まで見たこと無いし」
「だからですよ。波長があうんじゃないんですか?」
アランの言葉に、鷹矢は納得したように頷いて美雪を面白そうに見た。
「なるほど・・・・。ちょっと話かけてみろ」
「あんたねぇ・・そう簡単に出来るわけ無いでしょ・・・」
「駅からここまで付いて来たんだ、家まで付いてくるかもしれねぇぜ」
「・・・・・」
家まで付いてこられちゃ困る。
美雪は顔をしかめて、ため息をついた。
「も、もし、とりつかれたり、襲われたら助けなさいよ!」
「金しだいだなぁ・・・」
指で丸をつくった鷹矢に美雪は唇をかみ締めた。
「あんたねぇ、私から金とるつもり?」
「オレ、それで食ってんだけど。まぁ、霊の声がきこえねぇからあんまり、依頼うけないんだけどね。だからホストクラブ経営してんだけど」
「・・・いくらよ?」
「はぁ?」
「いくら払えばいいの?」
キッと睨みつける美雪に鷹矢は笑って手を振った。
「悪かった。冗談だ。今回は金はとらねぇよ」
今回は、という言葉が気になったが美雪はうなずいて立ち上がった。
「絶対に助けなさいよ」
「はいはい」
何度も確認する美雪に軽く手を振って鷹矢は2本目のタバコに火をつけた。
「あ・・・あのさぁ・・・君、どうして付いてくるの?」
そろそろと、男の霊に近づいてなるべく視線をそらして美雪は話しかけた。
直接見るのは怖い。
血まみれの顔を見る勇気は無く、視線をそらしながらもう一度はなしかける。
「あんた、なんか言いたいことあるんでしょ?聞いてあげるから言ってみなさいよ」
『僕は・・・殺されたん・・』
「へっ?」
頭に直接響いてくるような、彼の声が聞こえた気がして美雪は目を丸くする。
「こ、コロサレタ?」
『ころ・・された・・・・。・・・呪いの・・・サイト・・・見た・・』
「呪いのサイト?」