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霊感ホスト  作者: かなえ
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「あ~今日も面接ダメっぽかった・・・・」


黒いスーツの上着のポケットに手を突っ込んで美雪は空を見上げる。

夏に比べて高くなった白い雲が青空にポコポコ細く並んで続いている。

終わりが見えない白い雲に向かってため息をついた。

派遣の仕事が切られたのは先月。事務をしていたが突然の派遣切りにあったのだ。

100年に一度の不景気だとニュースで言ってたのが他人事に思えていた頃が懐かしい。

事務の仕事で正社員などこの時代求人すら見つけるのも大変だ。

ましてや一人暮らしの美雪には最低ラインの給料というものが出てきてしまう。


面接用の黒い鞄からペットボトルを取り出して一口飲んだ。

家から入れてきた麦茶だ。

節約できることころは何処までも節約せねば。

ラッシュ時ではないせいか東京駅のホームは人がまばらだ。

次の電車の時刻を知らせる掲示板を見るとあと10分ほどある。

慣れないヒールを履いているせいで足が痛い。

ベンチを見つけて腰をかけ鞄からたった今受けてきた会社のパンフレットを取り出した。

名の通った一流企業・・・とまでは行かないが、それなりにやりがいがあって、美雪のやりたい仕事だった。

面接で言われた言葉は「実務経験がないんじゃねぇ~」という冷たい言葉。


「大体100年に一度の不況ってなんなのよ?やりたい仕事も出来ないなんて本当にありえない!」


ペットボトルのキャップを閉めながらボソリと呟くと聞き覚えのある低い声が答えた。


「まぁだ、仕事決まらないの?」

「・・・・なんでアンタがまた隣にいるのよ・・」


うんざりして横を見ると、細身の黒いスーツに身を包んだ、鷹矢の姿。

今日はサングラスをしていない。

始めてみる男の顔に美雪は一瞬あっけに取られた。

整った顔立ちだとは思っていたが、驚いたのは瞳の色だ。

ダークブルー。

髪の毛は黒いが、顔は良くみれば何処と無く外人に見えなくも無い。


「あぁ、そっか・・コンタクト?」


最近はカラーコンタクトなどという商品が出回っている。

美雪はまじまじと鷹矢の顔をながめて呟くと形のいい眉を寄せた。


「よく言われんだけどさ、オレ目はいいの。生まれつきの目の色でございますよ」

「・・・・ハーフ?」

「父親も母親もどっちも日本人ならこんな瞳はうまれねぇだろうよ。父がイギリス人」

「へぇ・・・・」

「もう一ついっておくけど、英語はそれなりに話せる」


今までウンザリするほど質問されてきたのだろう、鷹矢はそう言うとサングラスをかけた。


「オレはこの目が嫌いなんだよ」

「へぇ・・・きれいなのにねぇ」


人間とは贅沢な生き物だと美雪は思い、ペットボトルと会社のパンフレットを鞄にしまった。


「面接だったんだ」

「何社目か解らないほどの面接ですよ」

「大変だね。ま、がんばって」


駅のホームに電車が通過するアナウンスが流れる。


「電車通過・・・だって」


ボソリと呟いた鷹矢に美雪は頷いた。


「だから何?」

「いや・・・教えてあげたの」

「子供じゃないんだから教えてくれなくてもいいんだけど」


ウンザリして言う美雪の肩を鷹矢は掴んでニヤリと笑う。


「もう一ついいかな。後ろ向くなよ」

「え?」


電車近づいてくる音と共に、ドンという大きな衝撃音が聞こえた。

そして、急ブレーキの音と悲鳴がホームに響いた。


「な・・・なに?」


鷹矢に肩をつかまれたまま美雪は目を見開く。

鷹矢に後ろを振り向くなと言われたせいで振り向くことが躊躇われた。


「・・・飛込みだ」

「・・・・・ど、どうなってんの?」

「見ないほうがいいだろうなぁ・・」


ホームには悲鳴と怒鳴り声のような叫びが飛び交っていた。


「学生が飛び込んだぞ!」

「警察だ!救急車も呼べ!」


異様な空気に美雪は恐る恐る振るかえる。

鷹矢は止めなかった。

中途半端に止まった電車と、運転席の窓にベッタリと付いた血が目に入った。

ホームの下を覗き込んでいた客達が声を上げる。


「こりゃ、助からないなぁ・・・」

「グチャグチャだな」





飛び込みなどみたのは初めての美雪は異様な空気に眉を寄せる。

不安と恐怖の為か呼吸が小刻みに速くなっている美雪に鷹矢は声をかけた。


「落ち着いて。息を大きく吸って吐け」

「・・・・・気持ち悪い」

「まじかよ・・」

困ったように頭をポリポリとかいて、違和感を感じて鷹矢は視線を横に向けた。


「・・・・またかよ・・・」

ウンザリしたように呟く鷹矢の視線を追って美雪は悲鳴をあげた。

血まみれの学生服を着た男がうつろな目で立っていたからだ。


「ひぃぃ。し、死んでないじゃない。この子でしょ?飛び込んだの」

「ばぁか。良くみろよ。こんな怪我してたら歩けねぇだろうが」

「そりゃそうだけど、さっき飛び込んだ子じゃないの?」


悲鳴に近い声をあげる美雪に鷹矢は静かに言った。


「・・・霊だなぁ」

「はぁぁぁ?」


大真面目に言う鷹矢の黒いスーツの襟元を掴んでゆすった。


「バカじゃないの?あんた」

「いや、透けてんだろ?よぉっく見ると」


指を差した先には血まみれの学生服の男の子。

恐る恐る見た美雪の目には、男の子の体がウッスラ透けて、景色が見えていた。


「ほ、本当に幽霊?」

「そう、・・・っておい」


そのまま意識を失いそうな美雪の腕を掴んで引き寄せた。

「おい、気絶したか?」

「・・・・気失いたいけど、ぐらぐらする。気持ち悪い・・・」

「ちっ、貧血かよ」


舌打ちをして、黒いスーツのポケットから携帯電話を取り出して片手で操作する。


「あぁ、オレ」

何度目かのコールで相手が出たのを確認して鷹矢は一方的に用件を伝えた。


「ちょっと面倒ごとに巻き込まれてさ、悪いんだけど車回してこい、東京駅まで。すぐこい」


相手の言葉も聞かずに、電話を切った。


「だから、サイトを見ないほうがいいって言ったじゃない・・・・」


冷たい女の声に鷹矢が視線を向けると、制服を着た女が立っていた。

女が着ている制服は、有名な進学校の制服だ。

電車に飛び込んだ男子学生が着ていた制服と同じ学校だということは鷹矢にもわかった。


無表情に血で染まった電車を眺めている。

「あのサイトを見たら・・死ぬって言ったわよ・・・・」


背を向けて階段を下りていく女の姿に鷹矢は眉を潜めた。

「なんだ?あの子・・・・」










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