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「本当に大変だったわね」
美雪は週刊誌を机において、お茶を出してくれたアランを見上げる。
ホストクラブ聖の事務所にはアランと美雪の二人だけだ。
ホスト達はまだ出勤しておらず、鷹矢の姿も無い。
ソファーに座って出されたお茶を飲んでいると、机に置かれた雑誌をアランがパラパラとめくった。
「事件になってますね」
「そりゃーそうよ。行方不明の女の子が一ヶ月ぶりに出てきたんだから」
「でも、詳細は不明ってなってますね」
週刊誌には、呪いのサイトやら、存在しない駅などかかれては居なかった。
不明の女子無事保護。どこにいたのか?
それだけしか書かれていない。
地上に戻ってから、鷹矢は明子のために救急車を呼んだ。
病院へと搬送される明子を見送っていると、当然の事ながら警察もやってくる。
鷹矢と美雪は警察に事情聴取をされた。
美雪は警察署に入るのも初めてだし、事情聴取なども初めてだ。
まるで犯罪者になった気分だった、正直に霊の声が聞こえたと話したがふざけるなと怒られている最中になぜか開放された。
上の命令だから今回は、詳しいことは聞かないと納得のいかないような刑事に送り出されて警察から出ると
鷹矢がニヤニヤと笑って立っていた。
美雪は首をかしげていると鷹矢は一言。
「ま、ちょっと上に掛け合ってもらった。これ以上のお咎めは無い」
「あんた、警察関係にも顔がきくの?もしかして聖さん?」
あっけにとられて言う美雪に鷹矢は肩をすくめた。
「いや、聖さんじゃないな。今回は、オレのツテ」
「ふーん」
これ以上突っ込んでも頭がおかしくなるだけだ。
美雪は頷いてあくびを一つ。
気づけば日が昇っていた。
「鷹矢さんってどういう人なの?警察に顔が利くなんて・・」
雑誌を見ているアランに言うと困ったように首を傾ける。
「それは僕の口からは・・・。直接鷹矢さんに聞いてください」
ため息をついていると、ガチャリと事務所のドアが開いてウワサの鷹矢が入ってきた。
「お、もう来てたのか」
事件から10日が過ぎている。
10日ぶりに会う鷹矢の姿は、赤いワイシャツに黒いスーツ。
事務所に来いという一方的なメールで仕方なくやってきたのだ。
「お互い生きててよかったな」
歯を見せて笑う鷹矢に美雪も苦笑する。
「そうね」
美雪の向かいにあるソファーにドカッカリとすわって、トレードマークのサングラスを外した。
青い瞳を美雪に向ける。
「とりあえず、定期的にあの慰霊碑を供養してくれるように頼んできた」
「そう」
誰にどう頼んだのかは解らないが、それであの霊たちが供養されるならいいことだ。
「明子ちゃんも明日退院ですって」
美雪が言うと鷹矢はそうかとうなずいた。
「でだ、お前ココで働け」
鷹矢の言葉に美雪は飲んでいたお茶を噴出した。
「な、なんで?」
「パソコン使えンだろ?事務員として採用決定。聖さんもオッケーだしたぜ」
「いやよ、ホストクラブで事務なんて・・」
顔をしかめる美雪に鷹矢はニッコリと笑った。
「裏の仕事も手伝ってもらうからな」
「なんで・・」
講義しようとする美雪に鷹矢は今まで見せたことが無い笑みを浮かべる。
「今度、霊と遭遇してもたすけてあげないよ」
「・・・・」
ソレは困る。
美雪はため息をついて渋々頷いた。
こうして美雪はホストクラブ聖の事務員として働くことになったのだ。
「よかったですね。高原オーナー。裏の仕事の助手さがしてましたものね」
天使の微笑みを浮かべて言うアランに美雪は声をあげる。
「裏の仕事ってなによぉ、あたし、助手なんて嫌よ」
「お前には、いろいろ教えてやるからな」