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霊感ホスト  作者: かなえ
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「・・・・あーあー、なんか嫌になっちゃったなぁ・・・」


ボソリと呟いて美雪はココアを口に含んだ。

控えめなクラッシク音楽が流れる店内には客の姿はまばらだ。

一人用のカウンターに腰を掛け、ガラスごしに町を行き交う人々を眺める。

道路の向こうに黄色に染まったイチョウの木からはらはらと葉が落ちていのを眺めていると寂しい気持ちになった。


社会人の帰宅時間には早すぎるせいか、学生姿の女の子たちが甲高い声で話す声が耳に響いた。

マドラーでココアをかき混ぜながら、自分も学生の頃はあんなに笑っていただろうかと考えてため息をつく。

学生の頃は何もかもが楽しくて仕方なかった。

箸が転がっても面白い年頃とはよく言ったものだ。


「あ~ツイてない・・・。世界が滅亡しないかなぁ・・・」


ボソリと呟いて、またため息をついた。


「テロリストみたいな事を言う子だねぇ・・・」


隣からの低い声に、視線を向けると顔の半分はある大きなサングラスをした男が美雪を見ていた。

髪の毛は真っ黒だが少し眺めの前髪は真ん中から一房垂れ下がっている。

黒い細身のスーツに赤いワイシャツは大きく開かれて銀のネックレスが見えている。

一目でホストと解る格好と雰囲気に美雪はため息をついて男から視線を外した。


「無視はいけませんって、子供の頃教わらなかった?」

男の声に美雪は眉を寄せる。


「教わったけど、ホストとナンパは無視するに限るの。あ、あと押し売りとキャッチ」

「ホストってわかるんだ」


いかにも驚いたように言う男に美雪は上から下まで眺める。


「そりゃ、そんな格好ホスト以外しないでしょ」

「そうかなぁ・・。ま、オレはホストとはびみょーに違うけどな。ホスト経営しているオーナ」

「どーでもいいけど、わたしお金ないから客にはならないわよ」

「別に客にしようとは思ってないし。あんた、遊びで金使うタイプじゃないしな」

「そうそう」

よくわかっているじゃないと頷いて美雪はココアを飲む。


「何があったか知らないけど、物騒なことは言うのやめようよ」

「あんたに関係ないでしょ」

「関係ないけど、たとえば明日の朝、あんたがなんかの犯人でテレビに出てたら俺 後悔するからなぁ

しかも『むしゃくしゃしてやった』とか言ってたりして、あの時おれが少しでも話し聞いてやったらなぁと

思うのはいやじゃん?」


「なにそれ。犯罪なんてしません!」

「でも、あんたソレぐらい悩んでいるって顔しているぜ」


顔を覗き込むようにみてくる男に美雪はのけぞった。


「顔が近い!」

「あ、悪い。オレのクセなんだよね」

「はぁ?」


下から見上げるように顔を覗き込むのがクセの人間なんてであったことが無い。


「まぁ、悩んでても仕方ないって時があるからさ。ほら、ヒバリちゃんの歌にもあるじゃん、川の流れに身をまかせ~ってな」

「そりゃ、身を任せてりゃ楽だろうケド何もしないで仕事が決まれば苦労しないわ」


美雪の言葉に男は肩をすくめた。


「あ、そういう悩み?」

「いや、まぁ、人生の悩みもあるけど・・・。派遣の仕事を切られて、今月の家賃も危ういって言うのに

川の流れに身を任せてなんてられないって」

「ふーん。なるほど」


男はニッコリと笑ってスーツのポケットから名刺を取り出すと机の上に置いた。


厚めの名刺はキラキラと輝く紙がところどころ入っている 豪華仕様のようだ。


「なに?これは」

「オレの名刺。言っておくけど本名だからな」


机に置かれた名刺には 有限会社 セイント 勝運 鷹矢 と書かれていた。


「難しい漢字ね」

「ショウウン タカヤ。オレの携帯番号もメルアドもあるから人生相談ぐらい乗るよ」

「だから、お金ないんだって。そういう付き合い嫌いだし」

「オレ、霊感あるんだよね・・・」

「はぁ?」


水商売のキャッチだけでなく、霊感商売まで始める気なのかと美雪は顔をしかめた。

霊感があるという人間にロクなヤツがいない。


「あんた胡散臭すぎるんだけど」

「だろうね。オレもそう思う」


鷹矢はうっすら笑って頷いた。


「誰にでも言っているわけじゃぁ無いんだ。霊感とかそういうのって聞いたら気味悪いだろ」

「それも、客引き?それとも、新興宗教の勧誘?」

「ちがうって、まぁオレの霊感が言うには、アンタとはまた会うって感じる」

「なにそれ」


あまりの下らなさに美雪が笑うと鷹矢はため息をついた。

「信じられないのはわかるけど、近いうちに会うよ。俺達」

「あ・そ」


冷めたココアを一気に飲み干して机に置かれていた名刺を掴んでヒラヒラとさせて美雪は立ち上がった。


「一応名刺は頂いておきます。社会人としての常識だからね。あ、でも、今名刺を切らしておりますので交換はできないけど」

「切らしているんじゃなくて、ないんだろ。無職だから」


ボソリと呟いた鷹矢に美雪はムッとしつつも口に笑みを浮かべて手を振った。

「じゃ、さようなら。永遠に」


カツカツとブーツを鳴らしながら歩いていく美雪の後ろ姿を眺めながら鷹矢は呟く。


「永遠に・・・ってなりゃーいいけどなぁ。オレの霊感では嫌な感じで会いそうだよなぁ」










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