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45.愛し子を取り巻く思惑

 

「お姉様もリア様もすこしは自重してくださいませ」


 既にモモカとリーゼはもちろん、アダマントとオニキス様も別荘を離れていた。アダマント達の飛竜はもう王都についている頃だろう。


「今日はクリスティアーネには一人で朝食を摂らせてしまったものね」


「あーあ、私もスターリング先生に会って指南してもらいたくなっちゃいましたわ」


 指南? クリスティアーネとスターリングの関係に使うのにはすこし違和感を覚える。


「クリスティアーネ!」


 クレメンティーネが妙に焦った様子なのが気になった。


「それはともかく、リーゼ様をモモカ様に奪われたことはスターリング先生には相談したいわ。リーゼ様がいないなら私たちはもう別荘(ここ)にいる理由がなくなってしまったし、お姉様も早くアダマント様のところに戻りたいでしょう?」


「そうね。そろそろ結婚式の支度も本格的に始まるし…」


 そのようなやりとりがあって、明朝別荘を発つことで話がまとまった。


「それにしてもリーゼ様がここにいることをどうして()()()は知っていたのかしら?」


「どうせリーゼ様が泣きついたんでしょう? モモカ様のあの危機感のない様子だとリーゼ様は早晩同じ目にあうでしょうけど……。ここにいた方がよっぽど安全でしたのに」


「どちらにしても、あの方とアダマント様をこれ以上接触させたくありません。離宮に大人しく籠っていたくださればいいのですけれど」


「モモカ様も大人しく王弟殿下の求愛をお受けすればよろしいのだわ」


 王弟殿下……アイオライトだったろうか。テーマカラーは青紫でザ・高貴なイメージの攻略対象だ。身分が高いわりに自由度の高い存在で、攻略対象だけあって見た目も麗しいしモモカが拒否する理由はないように思える。


「あの方は簡単に手に入るものには興味がないのではないかしら。手に入らないものをいつでも欲しているようにみえるわ」


 クレメンティーネの美しい顔がすこし歪む。モモカに敵視され続けた1年間はどれほど辛かったことだろう。そしていま、モモカの新しいターゲットは自分になったはずだ。それでも、オニキス様もスターリングもモモカの脅威を認識しているだけクレメンティーネの状況に比べればはるかに恵まれている。


「そういえば、スターリング先生はモモカ様のことをかなり忌避する感情が強いとオニキス様に聞いて意外だったのですが、……もっと、精霊の愛し子様はすべての人に無条件に受け入れられる存在かと思っていました」


「精霊の加護がありがたいのは主に平民ですものねえ」


「ええ。王家としては国家全体のことを考えて精霊の愛し子を囲っておきたい思惑は強いですし、それに乗ってモモカ様を取り込みたいと思う貴族ももちろん多いのですけれど」


「当家もそうですけれど、魔力優位の家系ですと、魔力に乏しい跡継ぎが生まれることを懸念して、できれば遠ざけたい家もそれなりにありますわね」


「……グラウヴァインもそうでしょうね。それでも、三男のオブシディアン様でしたら、武力自慢ですからモモカ様とご結婚も視野にはなくはないでしょうけれど」


「でも、いずれにしてもアイオライト殿下を敵に回すほどのメリットはないでしょう」


 オニキス様には兄弟がいるのかとすこし不思議な気持ちになる。まあ、そうでなければ別邸で一人で暮らすような境遇にはならないか。


「そういえば、クリスティアーネ様はスターリング先生と結婚したら身分が下がってしまう気がするのですが、そこは気になさらないのですか?」


「ああ、もちろんその時はお兄様を廃嫡させて私が当主になりますわ。そのためのスターリング先生ですもの」


「そうなんですか?」


「ええ。ですから、私がオニキス様と結婚するのはありえないのです。オニキス様は後を継ぐのが嫌で自ら伯爵位も賜ったのに。愛のない私と結婚させられて望んでもいないクラウセヴィッツを継いでも誰も幸福になりませんわ」


 兄を廃嫡させるなどとこんな風に気軽に口にだしていいものかと心配してしまうけれど、クレメンティーネによれば、実力主義の家系なので特に問題はないという。やっぱり上位貴族っておそろしい。


 それにしても思ったよりも知らないことが沢山ある。ただ、オニキス様にはモモカともクリスティアーネとも政略結婚をするメリットがそれほどないと知ることができてひとまず安堵した。


「ただ、それでも、精霊の愛し子を他国に奪われるような事態になれば、王家はオニキス様を生贄にすることも厭わないでしょう。……アダマント様はそんなことはしないとおっしゃっていましたけれど」


 結局、モモカの気持ちをほかに向けるしか解決策はないのか。なんだかリーゼの時も同じようなことを悩んでいた気がする。


「ところで」


すこしいたずらっぽい、かすかに上気した瞳でクリスティアーネが私に向き直る。


「オニキス様って……やっぱりエスコートがとってもお上手なのかしら?」


「え……?」


「クリスティアーネ! もう、口を(つぐ)みなさい」


 クリスティアーネの質問の意味が一瞬わからなかったけれど、クレメンティーネのこの感じからするとなんとなく想像がつく。ひとまず黙って二人の顔を交互に見る。


「しらばっくれなくてもいいでしょう? だってオニキス様とスターリング先生ならきっと同じ指南役(メンター)に師事しているはずだわ」


「ねえ、クリスティアーネ、異性の指南役を置くなんて昔の風習よ」


「あら、でも、前に聞いた話では……」


「いいから、他家の事情をこんな風に探るのはおやめなさい」


「スターリング先生の話だもの、他家ではないわ」


「だったらスターリング先生に直接お聞きしなさい」


「……はあい」


 ものすごく気になる話題ではあるけれど、深掘りするのはやめておこう。おそらく、私が詳しく知っていることをオニキス様が快く思わないタイプの話題のはずだ。


 明朝なんて言わず今すぐ帰りたいわ、と呟くクリスティアーネには心の中で頷いた。

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