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29.悪役令嬢にされた人

 マルガとケヴィンのおかげで滞りなく王太子妃(予定だけど)のクレメンティーネとの面会の日を迎えられた。私の髪の事情を知っている人ばかりの会のため、今日は私もドレス姿で茶話会室に向かう。


「ドレス姿のリア様ってなんだか新鮮ですわね。よくお似合いです」


 クリスティアーネにそう言われて胸をなでおろす。すべてマルガのおかげです。ありがとうマルガ。


 クレメンティーネは学園で見かけた頃から美しい少女だったけれども、再会した今、さらに美しさにも気品にも磨きがかかっている気がする。この美しい人から王子を奪おうとしていたモモカのメンタルの強さが恐ろしい。


 学園時代は完全に傍観者気分で断罪を楽しみにしていた身としてはお詫びの気持ちしかない。もし私でなにか役に立てることがあるならばできるだけ力になりたい。


「クリスティアーネから()()()のお話、聞かせていただきました。今でも、あの方のことを思うと恐ろしくて嫌な夢をみることがあるのです」


「今でも、ですか?」


「なぜ、あの方が突然第一王子(アダマント)様への執着をやめたのかが未だにわからなくて。話をきいた限りでは今はオニキス様にご執心と聞きましたが、いつまた彼への執着が始まるかがわからないではありませんか」


 確かに、いまは攻略対象をオニキスに絞っているとしても、ハーレムルートを目指す気になればまた第一王子が対象になることもあるだろう。


「去年の今ぐらいはお姉様も本当に大変でしたわよね」


「ええ。アダマント様と二人で出かけた日の夜は必ず嫌な夢を見たのです。胸を針で刺されるような恐ろしい夢……。そして朝起きると枕元に尖った石粒が落ちているのです。それがどんどんエスカレートして」


「あれは本当に恐ろしかったです。いくら掃除をしても必ずお姉様の寝台からあのピンク色の石粒が出てきて。それもいくつもいくつも!」


 ピンク色の石粒。それは間違いなくモモカの守護精霊からの攻撃の残滓(ざんし)だろう。私は左手の人差し指にはめたピンク色の魔石の指輪をそっと抑えた。


「ええ。それで学園に行くと生徒会長室にあの方が見たことのないお菓子を毎日のように持参してくるのです。はじめの頃は豆を甘く煮たものなど、アダマント様も生徒会の皆もあまり食べたがらなかったのですが、いつからか皆があの方のお菓子を楽しみにするようになって……。私だけが頑なに手を付けないことを気に病んだあの方がアダマント様に相談をして……そうして私はだんだん孤立していったのです」


「学園内の噂ではクレメンティーネ様がモモカ様からの心尽くしの差し入れを無碍に扱っていると咎める声が多かったと思っていたのですが、そういうことだったのですね」


「あの方は直情径行でそそっかしいところがおありでしょう? 一人で転んで怪我をなさったりドレスを汚したりしたことまで私のせいにされて」


「街の治安の悪いところにご自身でお出かけになって襲われそうになったのも、お姉様の策略にされていましたのよ」


 そのような小さな噂がいくつもあり、私自身クレメンティーネをいわゆる悪役令嬢だと思っていた。


「ええ。その後はもうあの方が何をしても私が何をしなくても、学園中が私が理不尽な虐めをしていると思うようになっていましたわ」


 私もその無責任な一人になっていた。本当に申し訳ない気持ちがこみ上げる。


「私も誤解していたうちの一人です。本当に申し訳ありませんでした」


「いえ、それがあの方の守護精霊様の望みだったのですから、個々人で抗える話ではありませんでした」


 なんて公正で優しい女性なのだろう。未だに苦しめられていることに胸が痛む。ふと思いついて指輪を外した。


「差し出がましいとは思いますが、この指輪を受け取っていただけませんか?」


「あら、それはリア様がオニキス様から頂いたものでしょう」


「これはアクセサリーではなくて攻撃を防ぐための魔道具なのです」


 前に私も攻撃をされたことと、その時に採取したピンク色の石からこのアイテムを作ったことをかいつまんで説明する。


「まあ。それではリア様が困ってしまうのではなくて?」


「私はまた作ってもらえばいいので」


 クレメンティーネは最初は迷っていたけれど、クリスティアーネに何事か耳打ちされたあとふんわりと微笑んで、指輪を受け取ってくれた。


「リア様にはオニキス様がついておられますものね。ありがたく頂戴いたします」


 今後王太子妃になればモモカの存在はどうあっても無視できないのでどうしようか困っていたと説明される。


「特にお姉様の結婚式には精霊の愛し子さまをお呼びしないわけにもいかないので……」


 たしかに、精霊の愛し子は国賓に近い。クレメンティーネの苦労が偲ばれた。第一王子がモモカに魅了されない対策をなにか練れないかオニキス様に相談してみよう。指輪を身に着けたことで多少は気が楽になったようで雑談をする余裕もできた。


「リア様のその小指の爪についている魔石はどういった意味がおありですの? とても綺麗ですけれど」


 指輪を外すときに見えたのだろうか。可愛いものに目ざといのは王太子妃でも同じなのだとちょっと嬉しい。


「これは、私の馬を召喚するための魔石です。スライムから取れる液体でコーティングしているのです。常に身に着けておくと便利なので。詠唱不要の加工もしているんですよ」


 スライムで作ったなんちゃってジェルネイルに気が付いてもらえてうれしくてつい自慢のような口調になってしまった。


「まあ。爪に魔法陣の刺青を入れるやり方は聞いたことがありますが、それに比べると随分可愛らしくて素敵ですのね」


 魔法陣を使わない無詠唱での魔法発動に喰いついたのはクリスティアーネの方だった。詳しいやり方を知りたがるので、まとめたレポートを貸すことを約束する。


「リア様は本当に努力の方なのですのよ。私がスターリング先生だったら、爵位の条件などなくてもすぐにオニキス様と結婚させてあげますのに」


「まあ、それはありがたいお言葉です。でも、クリスティアーネ様はスターリング先生目当てだから私に甘すぎるのではないですか」


 二人でクスクス笑っているとクレメンティーネが首をかしげている。クリスティアーネが、私が爵位を得なければオニキスとの結婚をスターリングが認めないと説明し、私は、クリスティアーネがスターリングを射止めたいと思っている話を補足した。


「まあ。スターリング先生がそんなことを……?」


 そんな話をしているうちに扉の外から会の終わりを促すノックの音が聞こえた。


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