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23.歯も揃えていない娘とは

 

 また学園での一週間が始まった。


 召喚ミミズの魔石を沢山もらったので、いろいろなパターンで検証できると意気込んだもののさっそく問題にぶつかってしまった。キティが強くなりすぎて、検証用のミミズを召喚する呪文を唱えているうちにサクッとモンスターを倒してしまうのだ。


 召喚ミミズを全部出しっぱなしにしてしまうと、モンスター別討伐の検証ができないし、キティを召喚していないと複数のモンスターがポップしたときに私が危険になってしまう。それに、この詠唱がいちいち長くてもう面倒で面倒で。


 なんとか無詠唱で魔法を使う方法はないだろうか。


 百科事典を眺めているうちに、ふと百科事典棒の話を思い出した。文字列を数値に置き換えたあと、先頭に0.をつけて1以下の数字にする。その位置を棒に刻み込むことで小さな棒1本に百科事典の情報を全て格納できるという理論上の遊びだ。この考え方を使って詠唱の破棄ができないだろうか。上手くいけばラッキーなので後で試すだけ試してみよう。


 そろそろ授業が終わる時間だった。ここのところリーゼも体調が良さそうで、一時期の病気の噂はすっかり消えていた。孤立しているときに唯一仲良くしてくれていたのであろうモモカとの親密度が増している。


 食欲も増しているようで、食事の後に甘いデザートを2人前は食べるようになっているのが心配だった。そのうえ、放課後にもモモカと二人いつも何かを食べている。まあ、私が心配する話ではないのだけれど。


 リーゼの妊娠の可能性にはクリスティアーネも気が付いているようだった。気が付いているというか、調べさせて知っているのだろう。父親はジェイドだということも。


「のんきなものですわね。面倒なことにならないといいですけれど」

「面倒というのは?」


「ジェイド様のご結婚の予定が決まりましたのよ。……結婚前の火遊びなどどなたもなさっていることですけれど、王国の頭脳である宰相の嫡男が歯も揃えていない娘を(はら)ませたとあっては一族の執政能力を疑われても仕方ありませんわ」


 クリスティアーネによると、ジェイドの行いは破談はおろか、ダールマイアー家から勘当されてもおかしくないレベルの失態だという。「歯も揃えていない」という言い回しが気になったがクリスティアーネに聞くのはなんとなく(はばか)られた。あとで図書館で調べてみよう。


「リア様が気になさる筋合いではないですし、精霊の愛し子(モモカ)様が近くにいるあいだは大丈夫でしょうけれど、リーゼ様の身になにも起こらないといいですわね」


 クリスティアーネがそう言い放ったタイミングでスターリングが研究室に戻って来た。最近はスターリングと二人にならないように気を使いすぎていて、顔を合わせるのも久しぶりだった。ちょうどクリスティアーネもいるタイミングで良かった。


「スターリング先生、呪文の詠唱を短縮する研究に関する文献ってないでしょうか?」

「詠唱の短縮? オニキスから何か言われたか?」


「いえ? 私の研究で詠唱時間が長いことで不都合があるので」

「オニキスも同じようなことを悩んでいたな。週末聞いてみるといい」


「はい。ありがとうございます」


 二人に退室の挨拶をして部屋をでると、珍しくクリスティアーネも一緒に廊下に出て来た。


「リア様、いつも難しいお顔ばかりですのに、オニキス様の名前を聞いた途端に表情が柔らかくなっていましたわよ」


「そ、そうでしたか?」


「以前、オニキス様のことを無理強いしてしまったかと心配していましたけれど、杞憂だったようでよかったです。……でも、牽制する目的もないのにそんな風では誰に付け入られるかわかりませんわよ、お気を付け下さいませ」


 それだけを言うとさっさと戻ってしまった。全く自覚がなかったけれど、名前を聞くだけで表情が緩んでしまっていただなんて。オニキス様にもよく感情が顔にでていると言われていた。気を付けなくては。



***


 「歯を揃える」の意味についてはあっさりと見つけることができた。予想はできたことだけれど、歯並びが美しいことは貴族の令嬢の大きな評価ポイントとなる。ブライトナー家のような下位貴族にとってはそれほど重視されないけれども、王家や上位貴族にとっては歯並びが揃っていない人間は大人としては扱われない。


「歯が揃っていない娘を孕ませる」のは下位貴族や平民、あるいは子供相手に避妊もしなかったということで、欲望のコントロールもできなければ思慮も浅い人間と評価されても仕方がないだろう。


 ……そういえば、この世界って避妊の概念ってあるんだろうか? あったとしてどういう方法なんだろう。


 避妊の方法はあとで調べるとして、今は歯並びを整える方法をしりたい。ジェイドにああいわれるくらいなので、私も歯が揃っていない部類なのだろう。オニキス様の瑕疵になるようなことは一つでも減らしておきたい。


 王家や上位貴族の家には代々治癒術師が仕えていて、小さいころから姿勢と食べ物に気を使い、噛み合わせのチェックを毎日行うらしい。乳歯を抜くタイミングも完璧にコントロールして歯並びに影響を与えないようにする。それでも整わない場合は永久歯を抜いて差しなおす、という記述を見て背筋が寒くなってしまった。


 しかも、抜歯から差し歯が安定するまでは治癒術師がつきっきりで面倒を見るらしい。これは確かに上位貴族でなければ美しい歯並びは手に入れられないだろう。矯正器具について調べたけれど見つけることはできなかった。


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