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19.義妹と精霊の愛し子

 

 また学園での一週間が始まった。


 リーゼの様子はあまり変わりがないようにも見えるが、時々調子が悪そうにしていることがあるので妊娠をしている可能性は高い。お義母様、もといリーゼの母親がどういうつもりでリーゼを学園に通わせ続けているのかはわからない。卒業しなければなにかと不利になるのは分かるけれど、臨月になればどうしたって欠席する必要もあるだろう。……すでに他人となった私になにができるわけもないのだけれど。


 キメラのキティが中型犬くらいのサイズになったのでオニキス様のアドバイスに従って教会に向かった。思うところがあってシュパーゲル狩りで活躍した召喚ミミズ6匹(ド/レ/ミ/ファ/ソ/ラと名付けた)のうち3匹も連れて行く。オニキス様からプレゼントされた紫色の石からは頭が3つに別れたミミズが召喚されたので、ケルベロスと名付けた。これも連れて行く。


 ゲームのイベントでは来たことがあったけれど、学生時代は近寄らない場所だった。少し緊張するけれど、キティもいるしなんとかなるだろう。なにしろ防御魔法だけは得意なので生きて帰ってこられないということにはならない、と思いたい。


 浅い階層でレイスだのスケルトンだのを見つけては召喚獣たちに狩らせていく……といってもほとんどキティが狩ってしまうのでミミズたちとケルベロスにはあまり活躍のチャンスはない。今日一日の成果ではあまり変化があるようには見えないけれど、まあ筋トレみたいなものだろうし2年間頑張ってみようと思う。


 昼休みには食堂に行き、自分の昼食がてら学生たちの噂に耳を傾ける。第一王子と侯爵令嬢についての話が漏れ聞こえてきて耳をそばだてる。どうやら今のところとくに問題もなく結婚に向けて話が進んでいるらしい。


 ……ということは、私が見られなかった卒業記念舞踏会の断罪イベントはそもそも起こらなかったということだろうか。


 もう少し情報が欲しいと思っているところに、ちょうどヒロインとリーゼを含むグループが連れだって食事にやって来た。ヒロインのピンクブロンドが目に眩しい。あの嫉妬深いリーゼが精霊の愛し子として国から特別待遇されているヒロインと仲良くできているのは意外だった。


「まあ、リーゼ様ったら今日もそれしか召し上がらないの?」

「ちょっと朝ご飯を食べすぎてしまって、あまりお腹が減らないの」

「そう……。もし足りなかったら私のパンを分けてあげるわ」

「ありがとう、モモカ様」


 リーゼのトレイをみると、サラダとレモネードと小さな揚げ菓子だけが載せられている。シチューにパンを3つも付けている健康そのもののヒロイン、モモカとは対照的だ。モモカはというのはヒロインのテーマカラーがピンク色のためデフォルトで与えられている名前だ。プレイ時には好きな名前に変更できる。日本の女の子が「精霊の愛し子」として精霊王から召喚されるところからがオープニングだった。


 名前がモモカのままということは私のように元の人格があるわけではないのだろうか。いや、私だってこの世界にきたときはユーリアという名前が勝手につけられていた。起こるはずだった断罪イベントが発生しなかったのだから、ゲームのストーリーを改変するような何か、つまりヒロインの人格交代があったとしてもおかしくはない。


 モモカが食事をしているテーブルにはかわるがわる男子生徒がやって来てはモモカに絡んでいる。入学したばかりの第二王子までやって来てモモカに挨拶をしているのは驚きだった。リーゼはそんなモモカの様子を気にする余裕もなさそうに、レモネードを口に含んでは大きく息を吐いたり、揚げ菓子を持て余してぐずぐずに突き崩したりしている。つわりが辛いのかもしれない。


 この日はそれ以上の情報も得られないまま昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。教室に戻るリーゼたちを見送って私もスターリングの研究室に戻った。研究室に入ると、スターリングが見覚えのある女学生を連れていた、あれは確か……


「リア君、紹介しよう。クリスティアーネ・クラウゼヴィッツ侯爵令嬢だ」


 たしかオニキス様の図書室で、スターリングへの好意を楽しそうに語っていたC嬢だ。優秀な学生のためスターリングが直々に個人授業をするので、この研究室にも頻繁に出入りすることになる予定らしい。クリスティアーネは私が館にいたメイドだとは全く気が付かないようで、初めましてと挨拶をされた。まあ、名前も違うのでそれも当然だろう。


 高位の貴族令嬢らしく、すべての仕草が洗練されていて美しい。私もこんな風に振舞えるようになりたい。そういえばクラウゼヴィッツ侯爵という家名には聞き覚えがあった。私が驚いて顔をあげるとスターリングが頷いた。


「クリスティアーネ君の姉君(あねぎみ)は王太子妃になるご予定だ」


 そう。あの卒業記念舞踏会の日に婚約破棄される予定だった侯爵令嬢だ。


 これは穿(うが)ちすぎかもしれないけれど、スターリングがこの女生徒に肩入れをするのは、成績だけが理由ではないはずだ。王太子妃を輩出したクラウゼヴィッツ家と繋がりを持っておけば何かと有利だからではないか。そして、クリスティアーネがスターリングに好意を抱いていることももちろん気が付いているだろう。


 今日は挨拶だけということでクリスティアーネもすぐに退室した。モヤモヤした気持ちを抱えていると、見透かしたようにスターリングがやってきて冷ややかに私に告げた。


「リア君、言っていなかったかもしれないが、2年後に君が成果を出せていなかったら、オニキスをクリスティアーネと結婚させるつもりだ」


 クリスティアーネから好意を寄せられているのを知っていて……。氷のような男だ。

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