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第5話 厄災の獣エリオットの視点1

 

 お師匠様に会いたい。

 それが始まりだった。お師匠様は僕を守るために、この魔導図書館を創り上げて僕を主人に据えた。それからたくさんの誓約と楔を打ってくれた、大切な人。


 その結果、お師匠様の運命は大きく歪んで壊れて、寿命もたくさん削れて数百年しか保たなかったかな。

 僕もグレイも、スレイも悲しんだし、わんわん泣いた。


 亡くなった器をグレイと相談して大事に保管したけれど、人間に体を維持するための魔法をかけていなかったので、数百年ぽっちで白骨化してしまった。


「お師匠様……っ、ぐすっ」

「泣くなよ! ――っ、師匠の魂を探すぞ」

「え?」

「魂は流転する。きっと師匠の魂が見つかる。そのための扉をたくさん作るんだ」

「お師匠様の魂しかくぐれない扉……」


 僕とグレイは、お師匠様の生まれ変わりを探した。生まれ変わりを使って、お師匠様を蘇らせようと動いた。


「でもお師匠様は、万物を蘇らせることは禁忌だって言っていたよ?」

「構うものか。俺たちは生まれた時から世界に疎まれた存在だぞ? 禁忌だからって止める理由にはならないだろう」

「でも……」

「お前は……師匠に会いたくないのかよ? 俺は会いたい。俺は……あの人に嫌味や皮肉ばっかり言っていて『ありがとう』の一つに言えなかったんだぞ」

「グレイ……」


 そうしている間に、スレイはお師匠様を失った悲しみが大き過ぎて動かなくなった。グレイは部屋を用意したと言っていた。それを聞いてちょっと安心する。


 スレイは《厄災の獣》の要素を強く受け継いでいるからか、いつも攻撃的で、お師匠様との戦いを好んでいた。

 僕はお師匠様が傷つくのが嫌で、好きになれなかった。


「今度こそ、師匠の蘇生は成功する」


 そう言って、《《千年経った》》。

 お師匠様の転生者は何人も会ったけれど、当然お師匠様じゃない。


 目の色も、髪も、雰囲気も、姿も、……ただ優しいところは同じだったし、僕を見ても怖がらなかった。

 僕はお師匠様に会いたかったけれど、その子たちのことを好きになったんだ。可愛くて、キラキラしていて、一緒にいると胸がギュッとなる。


 でも、その子たちもお師匠様の蘇生する素材としては弱かった。お師匠様の魂は運命を捻じ曲げたことで、魂が幾つかに別れてしまったらしい。

 魂だけを回収して、回収して、回収して、回収して、回収して、回収して、回収して、回収して、回収して、回収して、回収して、回収して、回収して、回収して、回収して、回収して……そうやってようやくお師匠様の魂が集まったのに、その魂は僕たちから離れて、異世界で転生をしてしまった。


 僕とグレイは必死になって、異世界の扉を幾つも作った。そうやってお師匠様の完全な魂を持って生まれ変わった彼女を呼び出すことができた。


 アイリ。

 黒髪の可愛い、琥珀色の瞳を持った、女の子。


 君が扉を開けてくれた時、とても嬉しくてしょうがなかった。

 今までで一番、お師匠様の性格に近くて、サバサバしているところも、可愛いものが大好きなのも同じだった。

 特に僕本来の姿に抵抗がなくて、ハグやキスをせがんだらたくさんしてくれる。ギュッてされたら、心臓がバクバクしてキスは衝撃的だった。


 愛されているって、こう言うことなのかなって思えて、幸せ。

 すうすう、と僕の隣にいる存在が愛おしくて、大切で、宝物になった。


(この子はお師匠様の生まれ変わりだけれど、お師匠様の記憶がなくても、すごく好き。僕と家族になってくれた。だから……)


 僕は眠っているアイリを愛おしく思いながら、グレイに思っていることを話した。

 愛している気持ちが何なのか。

 ずっと居たい思いを言葉にする。

 そして家族になったアイリと一緒に生きることを話した。


 グレイの顔は無表情だ。

 面倒くさそうな顔も、茶化すような顔もしていない。


「……《《師匠の蘇生を諦める》》、《《だ》》?」

「うん。……アイリは僕の家族になってくれたんだよ。僕はアイリと家族として一緒にいたい」

「チッ、あーそうかよ。……お前は師匠に会えなくて気いいんだな?」


 嫌味たっぷりで、不義理だと僕を責める。

 あれだけの恩を受けて、酷い奴だと捲し立てる。


「でも……お師匠様の生まれ変わりの子たちの未来を僕たちは奪った。その時点で、お師匠様の生まれ変わりの子達に酷いことをしている」

「あんなのは、師匠の欠片に付属したマガイモノだ! 俺たちは……師匠のために……やってきたんだ!」


 そう喚くグレイも僕と同じで、小さな子供のよう。癇癪を起こして、上手くいかないと八つ当たりをする。


(ちょっと前まで僕も泣いてばかりだったのに、何が変わったんだろう?)

「エリ……オット、モフモフ……」

「!」


 自分の名前を呼ばれただけなのに、ドキリとした。そうだ、この子が僕の目を見て、僕の名前を当たり前のように呼ぶ。

 それが僕にはとびきり嬉しい。


(お師匠様が『恋はいつも唐突だ』って言っていた意味が、わかったかもしれない。……僕はお師匠様の生まれ変わりだからじゃなくて、僕本来の姿を受け入れてくれたアイリだから一緒にいたい)


 愛が何なのか。

 まだふわふわしているけれど、僕はアイリと一緒にいたい。それだけはハッキリと思えるようになった。

 グレイは不貞腐れていたけれどグレイ自身も多分、アイリのことは好きだと思う。今までの子たちの中で、グレイの姿を拒絶することが多かったから。


 あんな風に頭を撫でられて、内心はすっごく嬉しかったと思う。

 だから、グレイはお師匠様を蘇生することを諦めると──どこかでそう考えていた。


 後から考えると、それはあまりにも楽観的だったと思う。

 でもこの時の僕はアイリと家族となったことに浮かれ過ぎて、グレイの反応の薄さに気付かなかった。


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