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カレンにはどうしてもソニアを蹴落としたい理由があった。
自分が成績トップに返り咲き、聖女の座を確実にしたかったのだ。
だが、ソニアの魔力保有量は他の何者をも寄せ付けないほどに高い。しかも魔力操作も天才的に上手く、ほとんど魔力ロスなく魔法として発現させることができたのだ。
もちろん聖女候補の中で、ソニアの成績はぶっ千切りでトップだった。聖女になるのはソニアだと皆が思った。
これにカレンは焦った。カレンの成績は2番手であったものの、どれだけ努力しても越えられない高い壁があったからだ。
今までカレンは何をやっても1番だった。いつも誰かが称賛してくれた。それが当たり前だと思っていた。自分は特別な存在で他の皆とは違う。そんな自分こそが聖女にふさわしい。いや、私は聖女になるべき人間だ。ソニアに出会うまではそう思っていた。
だから、今まで自分がいたポジションをあっという間にさらわれたカレンは怒りで狂いそうになった。
ちょっと、その場所は私がいるべき場所だ。
お前のものじゃない。
何様のつもりだ恥知らずめ……。返せ。
いつしか、カレンは黒い感情に支配されていた。
だが、目の前にいるソニアには勝てる気がしなかった。レベルが違いすぎた。
正攻法ではどうやってもソニアの成績を超えることはできないと悟ったカレンは、ソニアを貶めるべく計画を立て始めた。そして取り巻きを使い、周りの人間を上手く誘導しソニアを陥れてきた。
カレンが聖女になった時に恩恵を得ようとするものを含め、付き従う取り巻きはそこそこいた。そこには互いの利害が一致しているため、強固な団結力があった。
実際、カレンの策略は上手く行った。それはもう、面白いくらいに。笑いが止まらなかったくらいだ。
ソニアに度重なる嫌がらせを行い、成績をすり替え、カレンの成績はトップになった。その後も、手を緩めることなくソニアを陥れ続け、カレンは成績トップを維持することに成功した。
今では、誰もがカレンを次期聖女としてみている。まあ、1つ気になるのはソニアが嫌がらせを受けても平然としてるところだが……あと少しで聖女として正式に任命される所まできたのだ。細かいことはどうでもいい。聖女になれば途方もない権力が手に入る。後少しだ。
だが、カレンはどうしても安心できなかった。それはソニアが生きているからだ。
ソニアが生きていれば自分のやったことをいつか暴露されるかもしれない。いや、もしかしたら実力で現状をひっくり返されるかもしれない。それくらいソニアという女は才能がある。こればかりは悔しいが認めるしかない。
だからだろう。計画がうまくいっているにも関わらず、常に後ろから狙われているような、首筋に刃物をあてられているような感覚がして、カレンは気が気じゃなかった。
自分のポジションが奪われるかもしれない。そんな不安に苛まれていた。
だが、私は欲しい物のためにここまできた。やるところまでやってやる。
あくまでも、どこもまでも徹底的に。
そして、念入りに。
覚悟を決めたカレンは、計画の最終段階としてこの裁判を用意した。ソニアを亡き者にし、永遠に口を封じるため。もう、手段は選ばない。
裁判が順調に進んでソニアの立場が悪くなるにつれて、カレンの心は満足し安堵していた。
これであの女を始末できる。
ああ、ようやく胸のつかえが取れるわ……。
まだ裁判が終わっていないが、このままいけばカレンの勝ちは間違いないだろう。後は予定通りに、フィリップ殿下に死刑を宣告してもらうだけ。
カレンは実に晴れやかな気持ちになっていた。
◆◆◆◆
(ほんとに皆、暇なのね……他にやることないのかしら?)
口に出して言うと反感を買ってしまうため、ソニアは心の中で呟いた。ただ、態度には出てしまっている。
正直、この裁判はバカらしい出来レースだと思った。
ソニアは才能があるから聖女候補になっただけ。拒否権はなかった。そういう法律だから。
つまりソニアにとっては聖女の座なんてどうでも良いいのだ。
そもそも、あんなアホそうな王子――フィリップなどと婚姻を結ぶなど考えたくもない。そう、聖女は王子との婚姻が決められているのだ。未来の王妃となれるのだから、手にする権力は計り知れないものがある。
しかし、フィリップはカレンの様な若い娘に良いように操られてしまうような愚物だ。たとえ自分がフィリップを操る側になったとしても、あのバカ王子は他の人間にも思考誘導されてあちこちで良いように操られてしまうかもしれない。王宮は権力を欲する怪物が山ほどいるのだ。いつ自分に矛先が向くかわからない。そんないつ爆発するかわからない爆弾を抱えて暮らすなんて大変なだけだ。
ただ、フィリップは顔だけは良かった。黙っていればかっこいい王子様なのだが……そのいいところを全て帳消しにするほど悪い部分が目立つ。
ソニアは聖女にも、ましてや王子にも興味がない。だが、カレンの策略でやってもいない罪を被るのは癇に障る。なにせ、このままだと死刑は確定だ。まだ死にたくない。