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 部屋の中央に立つソニアは皆の視線を集めていた。ただし、それは羨望や憧れなどではない。

「ソニアよ、お前にはある罪を犯したという疑いがかけられている。わかるな?」

 裁判長を務める王子――フィリップが冷たく言い放つが、ソニアは「ふう」とため息をついて遠くを見ている。

 そんなソニアの態度を見て聴衆がざわざわと騒ぎ立てている。


 罪……そう、今は裁判中なのだ。しかし、ソニアの態度は付き合うのもバカバカしいと言わんばかりの気怠げな態度であり、断罪されている当事者っぽさがまるでない。

 普通なら叱責されてもおかしくないものだが、ソニアのクールな美貌と気怠げな態度が合わさることで、なんとも言えない魅力を醸し出している。見惚れる者はいても咎める者はいなかった。自然と溢れ出る魅力も皆の視線を集めている理由の1つなのは間違いない。


 現在、ソニアはある罪を問われている。

 それは「聖女(候補者)の殺人未遂」だ。


 ソニア自身も聖女候補――何人かいるうちの1人――なのだが、同じ聖女候補であるカレンを害した挙げ句に殺害しようとした疑いがかけられているのだ。カレンに対する度重なる嫌がらせや、功績の横取り、さらには殺人未遂を行ったというのだ。カレンは涙ながらに訴え、聴衆は心を打たれたようだった。それが演技だと知らずに。

 

「ソニアよ、どうやらカレンに対し執拗に嫌がらせをしたようだな。その挙げ句に殺そうとするとはな。そんなに聖女の座が欲しかったのか?」

「……私は何もしていません」

 見下すような目で見てくるフィリップに対し、ソニアは気怠げな姿勢を崩さない。なにせ、ソニアはそんなことをした覚えはないのだ。

 

 では、なぜこんな裁判にかけられているのか。

 

 訴えを起こしたのはカレン。証人として呼ばれたのはカレンの取り巻き達。裁判を仕切っているのはカレンの婚約者であるフィリップ殿下。カレンの身内とも言うべき人間たちで固められている。

 つまり、この裁判はソニアを陥れるために仕組まれた出来レースだ。

 だからソニアは気怠げな態度をとっているのだ。カレンの我儘に付き合わされて困っていますと言わんばかりに。

 

 「シラを切るつもりか、よかろう。証言者、前へ!」

 証人席に座るカレンの取り巻きである証言者が、ソニアを凝視するような視線を向けて口を開いた。


 「私はソニアが何度も、何度もカレンさまに危害を加えようとしていたのを見ました! 殺そうとしていたのは間違いありません!」


 その一言で、法廷内の気温が一気に冷え込んだかのように感じた。カレンの取り巻きが真剣な表情で証言し、それを法廷にいる全員が注視している。ソニアは冷静を装いながらも、内心の呆れを隠しきれなかった。


「証言者の方が言っていることは妄想です。私はカレンに対して何もしていません。証拠はあるのですか?」


 ソニアは自信を持って反論する。証言者が嘘をついていると確信しているからだ。しかし、この裁判は裏でカレンが操作している。証拠がなかったとしても油断はできない。


「ふっ、白々しい奴め。お前の行動を目撃した人間が何人もいるのだ。次の証言者、前へ」

「はい」

 冷たい笑みを浮かべるフィリップに促され、次の証言者が口を開く。


「カレン様がベランダに居るときでした。ソニアが後ろからカレン様を突き落とそうとしたのです。急いで私が駆けつけなければ、カレン様は転落してお亡くなりになっていたことでしょう」

 苦々しい顔で証言する取り巻きに対して感嘆の声が上がる。

 

 なんという嘘を平気でいうのか……。ソニアは絶句する。カレンを見ると、フィリップとアイコンタクトを取って得意気に微笑んでいる。


 これには、さすがにソニアの心がざわめく。内心では激しく抗議したかったが、それでは相手の思うつぼだ。冷静さを保つように気分を落ちつかせる。


 その後もカレンの取り巻きである証人が次々と嘘の証言をしていく。

「毒を盛ろうとした」、「ナイフを持って後ろから迫っていた」に続き、ソニアが書いたとされる偽造文書まで提出された。

 そんなものまで用意しているの? ソニアはほとほと呆れ返る。だが、それが偽造文書だと裏付けられるような証拠を示す手段はソニアになかった。


 裁判が進めば進むほど、カレンの訴えはどんどん信憑性を増していき、カレンが被害者である可能性を濃厚にしていく。もはやソニアを無実だと思う人間はこの場にほとんどいない。証人席を見れば、カレンの取り巻きは満足そうに微笑んでいる。彼女達の仕掛けた罠にソニアが陥りつつあるのだ。


 「ここまで証言が集まってくると、もう言い逃れは出来ないな。お前に罪があることは明白だ」

 これはカレンの筋書き通りなのだろう。フィリップは残酷な言葉と裏腹にニヤけた顔をしている。実に腹立たしい。



 だが、そんな絶望的な状況でも冷静に考えればカレンの訴えや証人の発言はある程度の真実が含まれていると、ソニアは思っていた。ただし、被害者と被疑者が逆になればだが……。

 嫌がらせや、功績の横取りは実際にあったことだった。カレンからソニアに対して。さすがに殺人未遂はなかったが。

 しかし、ソニアは度重なる出来事に対して全く気にしていなかった。大したことじゃないとでも言わんばかりに。

 そんな態度が良くなかったのだろうか? カレンはソニアを猛烈に意識していた。それはもう、異常な執着と言ってよかった。


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