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続章

 人間にとって危険な魔物や魔族が山ほどいた異世界で戦っていた頃のことだ。

 俺は勇者様から、悪というのは一本の大きな木のようなものだと教わった。


 太い幹や、枝葉のような目に見える部分が全てではない。

 木を切り倒したとしても、地中深くに根が残っていたのだとしたら、いずれ細い枝が伸び始め、長い年月をかけて、さらに歪んだ姿へと変わっていく。

 元々の木が太ければ太いほど、根っこの部分を取り除くのは難しい。

 だから、性懲りもなく生えてくる細い枝を、根気強く切り落としていくしかない。


 その話を聞いた時は、気の遠くなるような話だと思ったものだ。

 だけど、流石はアイギスさんだ。

 まさにその通り。

 悪い奴ってのはどこにでもいて、次から次に湧き出てくる。


 一晩でカツアゲが二組、女性への付きまといが一組、ゴーグルとマスクを着け、クロールとして片付けた連中のことを思い浮かべながら、溜息を吐く。


 たかだか二時間かそこらでこんなにトラブルが見つかるものかね。


「文字通り、根が深いってことなんだろうな」


 オーガや、エニグマと戦ってから一か月。

 魔物化した人間のような大物と出くわすことこそなかったが、クロールとしての仕事は毎晩ほぼ休みなし。


 夜の町は依然として、安全とは言い難い状況が続いていた。


 どいつもこいつも金銭欲か、性欲を満たすことしか考えていない似たり寄ったりの小物ばかりで、流石に俺もうんざりしてきた。


『んんんー? 久郎くん、今なんか言ったぁ?』

「別に。ただ、今日はあと何人馬鹿の相手をすればいいのかと思っただけだ」

『さあねえ。わかんないけど、気を抜いちゃダメだよー』

「欠伸しながら言うんじゃねえ」


 建物と建物の間を飛び移りながら、耳元から聞こえてきたいろはの声に返事をする。

 このスーツ、動きやすくて、目立たないのはいいんだが、俺の意志では通信を切れないのが難点だな。


 おちおち独り言も口にできん。


「いろは、方向は? こっちで合ってるのか?」

『うん。そこからもう一本外れた路地みたいだよお』

「わかった。あと三十秒くらいで着く」


 着地した屋根の上を走って、もう一度跳んで、また着地。

 多分、目的の路地とやらはここだろう。

 俺は少し低めの建物の縁を選んでしゃがみ、路地の様子を窺う。


「…………あれ?」


 いろはの話じゃ、揉め事を起こしてる連中がいるって話だったんだが。

 なんだ、あれは。


『なぁにぃ? どうかしたの、久郎くん』

「わからん。ただ、おかしなことになってる」


 見れば、狭い路地に数人の男が重なるようにして倒れこんでいた。

 全員、明らかに意識がない。

 酔っ払いじゃ、なさそうなんだが。


 そして、その傍らにもう一人。

 男が立っていた。


「……おおい、そこでこっち見てるやつ!」

「!」


 突然、その男の顔がこちらを向いた。

 視線は俺を正確に捉えている。あてずっぽうで言ってるんじゃない。

 ちょっと待て。

 気配は殺していた。それも、かなり距離も開いてる。

 これで気取られたってことは、あいつ。


 ただものじゃ、なさそうだな。


「あんた、そこで何してるんだ?」

「え? それ、その格好のお前さんが言うんかい」


 バレているのなら、こそこそしても意味はない。

 ビルの上から路地まで飛び降りた俺を見て、男飄々とした口ぶりで俺の服装をからかってくる。

 あの高さから降りてきたことに驚きもしないってことは、まあ、そういうのが珍しくもない世界の住人ってことで間違いなさそうだ。


「俺のことはいい。質問に答えろ」

「うわ、こわ。お前さん、まだ、十五、六、かそこらだろ? なんでそんな殺伐としてんだよ」

「……質問に、答えろよ」


 無駄口を叩くのは、好きじゃない。

 圧を強めた俺の言葉に、男は息を吐いて肩をすくめてみせた。

 眼鏡に、適当に切り揃えられた髪と、皺の目立つスーツ姿。

 足元だけが鮮やかな緑色のスニーカーという、お世辞にも洒落ているとは言い難い格好の男。


 その辺を歩いていれば、ただの冴えないおっさんにしか見えないそいつは、言った。


「町の悪い奴らをやっつけてたんだよ。この人達が、その悪い奴らね」

「そいつらを? あんたがどうにかしたのか?」


 男が指した連中は、今は意識こそなかったが、どいつもこいつも見るからにガラが悪そうな風貌をしていた。

 数は、五人か。

 中年の男が一人で相手するにはちょっと、手が余りそうなものだ。


「人は見かけによらないってこと。いや、見かけも大事か」

「…………?」

「俺の場合は、特にな」

「……っ! お前!」


 ぽつり、と呟いた瞬間、男の姿が変わった。

 その肌の色が、人ではまずあり得ない、鮮やかな緑色になったのだ。

 そう、その色は例えるならまるで。


「カエルみたいだろ、これ」


 闇の中で黄色く輝く男の瞳は、横一文字に裂けていた。

 おもむろに、かけていた眼鏡を外したカエル男はこちらに笑いかけてくる。


「魔物かよ、あんた」

「……え? 違うけど」


 腰を落とし、いつでも動けるよう構えた俺とは対照的に、男はあくまでも自然体。

 憎たらしいほどに、落ち着いてやがる。

 なんなんだ、こいつ。

 なんで、こんな姿なのに。


「俺は、まあ、あれだな。言ってしまえば、お前さんと同類さ」


 魔物の気配が、全くしない。

 そんな、得体の知れない異形の男は、こっちに一歩踏み出してきた。


「ちょっと、話をしようや。俺はお前らに、力を借りに来たんだよ」

 シェイプオブダーク、アルバクロス、そしてナイトクロールで、三人のヒーローのお話が終わりました。

 ここから、あと二人、メインとなるキャラが追加されます。

 次は、わかりやすく「ヒーロー」のお話になります。

 それでは。


 ナイトクロールは帰ってくる。ということで。


 またお会いできたらな、と思います。


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