雨。
今日は、朝から雨。
真央の練習も、これでは出来ない。
座学の続きをしようと真央を見ると、ぶるぶる震えて顔色が悪い。
あれは、ボクが小さい頃の雨の夜だった。
あっちこっち痛くて、這いずりながら外に逃げ出した。
大粒の雨が、ボクを襲う。
ボクは全身血まみれになりながら、道路を這っていた。
もう、死ぬのかな?
早く、楽になりたい。
もう、痛いのは嫌。
腐ったパンは、食べたくない。
たくさんの男の人に、色々されるのも嫌。
神様、こんな我が儘ばかり言うボクを罰してください。
地獄でも、何でもいいです。
早く殺して、ください。
お迎えが、来たようです。
こんなに、明るいんですね。
「おい、嬢ちゃん!しっかり、しろ!何てこった、非道い熱だ。身体中、青あざだらけじゃねーか?」
偶々通りかかった、一台のタクシー。
運転手が困り果てて、救急車が呼ばれた。
タクシーの運転手は、警察にも呼ばれた。
そこには、身なりの良い小柄な美少女。
救急車で運ばれた幼児の、祖母らしい。
はぁ、祖母!
「この度は孫を救っていただき、感謝の申し上げようもございません。これは、些少ですが気持ちです。本当に、ありがとうございます。」
紙袋には、俺の年収の十年分は入っていた。
金持ちの子供の、誘拐とかだったのかな?
警察は、何も教えてくれなかった。
「先生、真央の容態は?」
「命は取り留めていますが、どうなるのか?全身骨折と、肺炎に寄る内臓不全。生きているのが、不思議な位です。後は、この子の頑張り次第です。」
先生が出て行くと、代わりに恰幅のいい男性が入って来た。
「母さん、あいつはフィリピンに飛んだ様です。」
「全く、追って行って八つ裂きにしてやりたいよ。自分の子供を何だと思っているんだい!」
「今、奈良先生を呼びに行かせています。後、組織に命じて関わった者は全員極東の施設に送ります。」
「抵抗したら、殺してもいいよ。真央の戸籍は、都合ついたかい?」、
「保世に説明して、うまく出来た様です。悦子が、癇癪を起こして暴れてますよ。」
「信子に言って、折檻しな。あの、阿婆擦れが。ウチの娘は、何で…。」
息子の正直が、天を仰いだ。
あんたの、娘だからだよ。
「ばあちゃん、入っていい?」
中から、題目を唱える声が聞こえる。
しばらくすると、節子が社から出てきた。
「直子、帰ったのかい?こっちに、入りな。」
お香の匂いで、むせかえりそうだ。
「真央、元気になったよ。産まれるまで向こうにいるって、言ってた。」
「そうかい、寂しくなるのう。」
「ばあちゃんは私の事嫌いだろうけど、真央の事は私も好きだから。」
「ふん、可愛げの無い孫じゃて。今度、私が行く時は案内に連れてってやるよ。」
「ありがとう、ばあちゃん。そろそろ夕飯だから、お風呂入りなよ。なんか、臭うよ。」
「ええい、バカ娘!言われんでも、するわ!」
ばあちゃんも、元気そうでよかった。
やっぱり、お父さんにそっくりな私はちょっと苦手らしい。
真央は、ばあちゃんに瓜二つだしな。
私は言われないけど、真央は町の人達に権現様の孫って良く言われてる。
権現様は、家の通称だ。
おかげで、真央はどこに行ってもお金を使う事はほとんどない。
ガソリンスタンドでさえ、サービスで入れてくれる。
うらやましくは無いが、真央は煩わしそうだった。
人の善意を推し量れない子だから。
直子お姉ちゃんが、後でお礼してたから大丈夫だけどね。
本当に年上のクセに、可愛すぎよ。
弟の正は、真央が遊びに来ると私の事なんかお構いなしでじゃれつく。
正直、うらやましい。
母さんの目が無ければ、私だって付き纏いたい。
二人きりになれる様に、部屋へ連れて行く。
正直、罪悪感と言うかドキドキしてしまう。
真央は、憧れの存在だ。
私は、中学に入ると真央のいた部活に所属して鍛錬した。
追いつけない事は、知っている。
あんなに気弱で虚弱なあの子が、いつの間にか高みにいた。
直接指導は受けれなかったが、真央の従姉妹がって言われるから頑張った。
私も、県大会では一二を争う実力者になった。
ライバルは、真央の直弟子美佐子だ。
たぶん、美佐子はどっかで私達と血が繋がっている。
真央に、そっくりだもの。
真央に似ていない私には、企みがある。
いとこ同士は、結婚出来る。
最初は、私が真央に嫁ぐつもりだった。
されど、女同士はいとこよりハードルが高い。
そこで、正の出番だ。
弟は、ほぼ真央の崇拝者だ。
ただ、真央はシングルマザー。
正は、権現家の跡取り息子。
母さんは、もろ手を上げて反対するだろう。
これからは、弟の教育に心血を注ぐ。
もちろん、真央は義理の姉の私が守り抜く。




