夏の出来事。
《ヴァーン!》
【保世ちゃん!】
小気味良い音が、室内に響いた。
相対する真央は、呆けて叩かれた頬を手で抑える。
小さい保世から繰り出された張り手は、それほどの威力は無い。
しかし、やられた方は下を向いたまま顔を上げなかった。
やがて、真央の窪んだ
スカートの表地が湿り出した。
「誰の為に、泣いているの?」
「グシュン。ウゥー。」
「保世ちゃん、真央も混乱している。とりあえず、こちらでお茶でも飲んで落ち着こう。」
「はい、ありがとうございます。真央、ちゃんとして!」
真央が起き上がり、テーブルに着く。
「祥子、行きましょ。」
いくえと、祥子が別室に下がる。
「真央、妊娠してるよ。」
「えっ、ボク?」
「あぁ、可能性は高い。身に覚えは、あるだろう?」
「はい…。」
「相手は、柏木君で間違いないの?」
「うん…。」
「あぁ、もう!」
「ごめんなさい。」
「謝るなら、ちゃんとしなさいよ!」
「まあまあ、保世ちゃん。」
「それで、真央?子供が出来たとして、どうしたい。」
「ふぇっ!」
「焦らんでもいいが、性別は変えるのかどうかは早く決めなければならん。」
「先生…、ボク。」
「そうだな、簡単ではないな。少し、考えなさい。保世ちゃん、今日はゆっくりさせてあげなさい。」
「先生、本当にご迷惑かけて申し訳ありません。なんて言っていいか、ほら真央も。」
「ごめんなさい。」
「謝る事では、ないさ。」
「でも、祥子ちゃんごめんなさい。」
「ごめんなさい。」
「真央、つらくない?」
真央を抱きしめる、祥子。
「ショコママ、ウワ~ン、うえ~ん、ヴッ、ウッ、ア~ン!」
真央が、天を突かんばかりに泣き出した。
「どうしよう、お母さん?」
「祥子ちゃん、一緒に家に来て!」
「祥子がいいなら、いいよ。」
「はい、行きます!」
そのまま、授乳を始めてしまった。
「悦子、帰ってたの?」
「うん、祥子ちゃんも一緒なんだ。良かった。今、飲み物用意するわ。」
「私も、手伝います。」
腰にひしっとしがみつく幼児を見て、悦子が手を振る。
「座ってて、祥子ちゃん。」
「偉そうね、姉さん。」
ブラックを飲みながら、マイルドセブンを深々吸う。
「いただきます、悦子さん。」
「真央、顔どうしたの?」
祥子の後ろに隠れて、項垂れる。
「姉さんね、やったの!何の権利が、あるの!」
「権利も何も、母親だもの。」
「祥子ちゃんを差し置いて、良く言うわよ。」
祥子にぎゅっとしがみつく、真央。
「真央…。」
「姉さん、あんたいくつよ?」
「29だけど。」
えっ、まだ20代なの?
見た目は、中学生位だけど。
「真央は?」
「16ね。だから?」
「姉さん、算数出来る。真央は、いくつの時の子供よ?」
「私が、13才の時ね。時代が、違うわ。」
「大して、かわらんわ!そんなんだから、真央がなつかないのよ。
「知らないわよ。」
「祥子ちゃん、真央をお風呂に入れてあげて。私、この幼女にお仕置きしなくちゃいけないから。」
「はい!」
「待ちなさい、どこに行くの!」




