第19話 VS最強
「お待たせしました。待ちましたか?」
「ううん、今来たとこだよ」
1週間後、俺は約束通りコロッセオにやってきた。
ざっと見渡すと、数千人以上の観客がいる。
つまり……数千人以上の証人が、俺が腰巾着にならないことを証明してくれるという訳だ。
コロッセオには既にシセルさんがいた。
以前と変わらずニッコリと微笑んでおり、まるで女神のようだ。
だが笑顔とは対照的に、禍々しいカタナ【神骸刃】を既に抜刀している。
どうやら……本気らしい。
「アルガさん、強くなったね。1週間前とは見違えて見えるよ」
「へぇ……鑑定眼持ちですか?」
「ううん。でも、見たらわかるよ」
「それはつまり……本気で戦ってくれるということですね?」
「もちろん!! さぁ……お話は十分だよね?」
お互いに構える。
ついに……シセルさんと戦えるのか。
嬉しさ半分、怖さ半分といった所だな。
1週間で100以上レベルを上げたが、それでも尚……シセルさんには届きそうにない。ステータスも大幅に上昇し、スキルも多く得たというのに。
勝てる気がまるでしない。絶望感がヒシヒシと腹を撫でる。
だけど……引くわけにはいかない。
ここで逃げてしまえば、また揶揄される。
シセルさんがいなければ、何もできないと言われてしまう。
だからこそ……俺は立ち向かうのだ。逃げずに、頑張って。
「行きますよ!!」
「うん!! おいで!!」
◆
剣戟。剣戟。剣戟。
ガギンガギン、キンキンキンと。火花を散らしながら、刃がぶつかり合う。
凄まじい速度で短剣を振り回す俺と、それと同等の速度でカタナで防御するシセルさん。
「キミは本当にスゴいね!! まさか私にここまで付いてこれるなんて!!」
「ははッ……鍛えましたからね!!」
「私が2歳の頃と同じくらいの強さだよ!!」
「それは……ショックですね!!」
俺もかなり強くなったというのに、シセルさんが2歳の頃と同じ強さなのか。
つまり……今のシセルさんは、いったいどれくらい強いというのだろうか。
……考えただけで、萎えてくるな。
対峙して分かったが、シセルさんは……桁違いだ。並外れている。
この世の理から1人だけ離れた場所にいるような、既に生命体としての強さを超越してしまったような。そんな強さだ。
俺も人間を辞めた身だが、少なくとも生命体はやめていない。
だからこそ……勝ち目はないのだろうな。
「だからといって、諦める気はないですけれどね!!」
「何の話!?」
「この戦い、勝ってみせるって話ですよ!!」
「それは!! 期待しているね!!」
強がってみたが、まるで勝ち筋が見えない。
巨大な壁が立ち塞がったような、絶望感だ。
とりあえず攻撃しながら策を練っているが……さて、どうしたものか。
「おいおい! あのテイマー、人類最強と互角に渡り合っているぜ!!」
「互角、いやむしろ押してるんじゃねェか!? あの女、防戦一方だぞ!!」
「あの女を相手にして、既に5分は戦い続けているぞ!! 邪神との戦いですら10秒で終わったらしいのに!!」
「あのテイマー……何者だよ!!」
「アイツ……ただの追放テイマーじゃねェのかよ!!」
互角、押している……そうか、コイツらの目にはそう映っているのか。
なんというか、ありがたいな。これでシセルさんとパーティを組んでも、俺を腰巾着だと揶揄する者はいないだろう。
この時点で俺の目的は、既に達成された。
シセルさんは防戦一方なのではない。わざと防御に徹しているだけなのだ。
俺の実力を図るため、彼女は攻撃をしない。彼女は最強故に一度でも攻撃してしまえば、俺が壊れてしまうと知っているからな。
「ハッ!!」
俺はシセルさんから距離を取った。
シセルさんからの追撃は当然ない。
「何か思いついたの?」
「いいえ。ただあのままだと、大事な武器を壊してしまうのでね」
「へぇ、賢明だね!」
邪神の骨から造られたカタナ、『神骸刃』。
黒竜の牙から造られた短剣、『黒竜の牙』。
どちらも素晴らしい逸材だが、耐久性と攻撃力には雲泥の差がある。
さすがに神の骨が相手では、如何に黒竜の牙でも心許ない。ぶつけ合っていれば、壊れてしまうのはこちら側だ。
だからこそ、俺は引いた。
大切な武器を、ダメージソースを、失うわけにはいかないからな。
「そういえばキミ、テイマーなのに魔物は使わないんだね?」
「……殺されたら、元も子もないですからね」
「そんなひどいことしないよ!?」
「事故もありますから。この戦いでは魔物は出しませんよ」
「そうか……残念だなぁ」
今言ったことはウソだ。俺は普通に魔物を使うつもりだ。
ただそのタイミングを、探っているだけだ。
最善のタイミングで、最良の動きをするために。あわよくば、勝利をもぎ取るために。
「……行きます!!」
シセルさんに向かって、駆け出す。
一歩、また一歩とシセルさんに近づく。
「うん! 楽しませてね!!」
あと一歩でシセルさんに攻撃できる、という距離まで近づき──
「──行け!」
──俺は"仲間"を召喚した。
「キドラァ!!」
「ガルゥ!!」
「ピキー!!」
突如として召喚された、3匹の魔物たち。
シセルさんの表情は、驚愕そのものだ。
「召喚しないって言ったじゃん!! ウソはダメだよ!!」
シセルさんが驚いている間に、俺はシセルさんの背後に回る。
魔物たちは囮だ。シセルさんの注意を引くために、召喚したのだ。
真の目的は、俺が不意打ちをすること。
如何に最強とはいえ、死角から攻撃されればダメージは入るだろう。
「でも……発想は素晴らしいよ!!」
背後に回り、短剣を首元に突き刺そうとした瞬間──
──"何か"が起きた。
「キドラァ……ッ!?」
「ガルゥ……ッ!?」
「ピキー……ッ!?」
シセルさんの肩越しに見えたのは、吹き飛ばされる3匹の姿。幸い、死んではいない様子だ。
お前たちの犠牲は無駄にはしない。このまま、短剣を突き刺して──
「はい、私の勝ちだね」
刹那、目の前のシセルさんが消えた。
俺の首筋に感じる、冷たい感触。
後ろから聞こえてきた、シセルさんの声。
それら全てが、現状を理解された。
「残像……ですか」
「正解♪ よくわかったね!」
シセルさんは残像ができるほどの速度で、俺の背後に回り込んだのだ。
そして今、背後から刃物を首筋に当てている、と。俺がしたかったことを、彼女は俺にしているわけだ。
「3匹が吹き飛んだ理由を聞いてもいいですか?」
「? 普通にデコピンをしただけだよ?」
デコピン……? デコピンだと!?
俺の魔物たちは……たかがデコピン如きにやられたのか!?
驚愕を通り越して……呆れるな。
「……負けを認めます」
「やった! じゃあ、パーティを組んでくれるかな?」
「喜んで」
シセルさんの方を振り向き、手を出す。
「これからよろしくね!!」
シセルさんはギュッと、俺の手を握ってきた。
……少し痛い。
「スゴかったぜ、アルガ!!」
「人類最強に対して、ここまでやれるなんて!? 思いもしなかったぜ!!」
「テイマー……もしかして、認識を改める必要があるかもな」
「もしかしたら、テイマーって……不遇職じゃないかもな。むしろ……最強職かもしれないな」
「何はともあれ、素晴らしい試合を見せてくれてありがとう!!」
「ア・ル・ガ!!」「ア・ル・ガ!!」
「ア・ル・ガ!!」「ア・ル・ガ!!」
「ア・ル・ガ!!」「ア・ル・ガ!!」
繰り返される、俺の名前のコール。
テイマーの強さについて考え直してくれる人も、どうやらいるようだ。
これで俺のことを、腰巾着だと揶揄する人はいなくなっただろう。
……この戦い、本当に価値のあるものだったな。
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