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62  誰が金庫をあけたのか

 ケインとマイヤーは、ベルの寝室の前で彼女が出てくるのを待っていた。


 その途中、カメリアが執務室から出てくる。


「ベルは部屋の中?」

「ええ」とケイン。「出てくるのを待っています」

「少々、長い気がしますがな」


 両腕を組んだマイヤーが、辛抱できずといった表情で答えた。


「鍵は部屋に置いてあるの?」

「予備だそうです。おそらく身に付けているものと二本、あるのでしょうな」

「――ベル? 大丈夫?」


 カメリアがノックして呼び掛ける。

 すると間も無く、扉がわずかに開いてベルが顔を出す。真っ青だった。


「大変よ、カメリア……」

「金庫の鍵が無かったのね?」


 ベルがゆっくりとうなずく。


「なんてことだ」


 マイヤーがそう言って、うつむきながら頭をガシガシとかいた。


「鍵であけられたんですね? カメリアさん」


 ケインが冷静な表情で尋ねる。

 彼女はケインを見やりながら、


「そうね…… 見張りの人数が減ったとは言っても、外から屋敷に侵入するのは難しいでしょうから…… 残念だけど金庫破りは身内の犯行と言えるでしょうね」


 その場にいる全員の顔が強張(こわば)っていた。


「鍵穴の傷は偽装……」とマイヤーが(つぶや)いた。

「あとから付けたんだと思いますよ?」とカメリア。

「しかし、なぜ? 鍵を元の場所に戻さなかったら、鍵穴の偽装なんかしても無意味でしょう?」


「そうねぇ……」

「時間稼ぎ? 逃亡の?」と、せっつくマイヤー。

「鍵のある場所を事前に把握していたなら、誰でも犯行は可能だと思いますよ? あとは巡回している警備兵に見つからないかどうかだけ」


「少なくとも」ケインが言った。「自分が巡回しているあいだは不審者も家族の方も見ませんでした」

「個人的に、この謎を解く鍵は学校にいる二人だと思っていますよ」

「それって…… ユイさんとアシュリーさんが?」


 カメリアがうなずき、マイヤーを正面へ捉えるように足を動かした。


「マイヤー所長。ケインさんを借りて行ってもいいですか?」

「なんです? 今度は何をする気なんです?」

「学校へ行ってきますよ。そこで二人から話を聞きたいのです」

「まぁ、構いませんが…… そんなことで犯人が分かるのですか?」

「おそらくね」


 マイヤーは怪訝(けげん)な顔のまま、ケインを見やる。ケインはもう、カメリアを疑うような顔をしていなかった。

 彼女は明らかに、真相へ至るための道を敷き詰めつつある、そう思っていたからだ。


「俺も一緒に行きます。一応、護衛の仕事は続いているので」


 こうして、ケインはカメリアと一緒にカウカ島の港へ向かうこととなった。

 屋敷を出て坂道を下り、北突堤(とってい)を見張っている警備兵へ挨拶(あいさつ)をしてから、交番の前を過ぎると、背後から「お~い!」と、ターザリオンの声がした。

 彼は大きな手さげ(かばん)を持っていて、背負い(かばん)も身に付けている。


「な、なんだその荷物?」

「マイヤー所長から聞いたんだ、君が本島へ行くって。僕もちょうど証拠物件を持ち帰るところだったし、一緒に行ってもいいかな?」

「ああ、俺は別にいいけど……」


 ケインが隣のカメリアを見やると、彼女はニッコリ(ほほ)笑み、


「いいじゃありませんか。せっかくですし何か分かったことがあったか、じっくりお話を聞きましょう」


 と言うことになったから、三人で港を目指し、やがて船に乗り込んだ。

 以前とは違って、人通りも乗船客もほとんどいない、静かな船旅である。


「今日はいいお天気ですねぇ、お二人とも」


 カメリアがそう言って船首に近い方の、船側の欄干(らんかん)へ寄って行った。


「カメリアさん、先程の話ですが」と、ターザリオンが言った。話とは無論、金庫の件である。

「わざと金庫を傷付けた理由が時間稼ぎだったとして、そんなことをする利点がどこにあるんです?」


「利点ですか? 鍵の処分、逃亡する時間の確保、色々とあると思いますよ?」

「でも…… 話を聞いている分には、どうにも外部犯とは思えませんが」

「どうしてです?」

「警備兵の目を盗んで屋敷に侵入するなんて、今の警備状態からすると不可能かと」


「そうですねぇ…… 無関係な人間、たとえば(ひげ)男みたいな人にとっては難しいかもしれませんね」

「その言い回しだと…… なんだか内部の犯行は可能、みたいな言い方ですね?」

「そうですよ」


 ターザリオンが珍しく驚いた。そうしてケインへ視線を送った。

 彼は目を細めて、


「俺もそうじゃないかと思うようになりました。

 金庫の件はどう考えても、関係者でなければ無理だと思います。外の警備兵も、たとえばマイケルさんなんかが家から出てきたら、関係者と言うことで警戒を解きますから」


「でも、それだと証言の裏付けをしているときに分かることではありませんか? 警備兵に必ず見られるだろうし…… 変装していても、年齢敵にバレそうだし」


「だから、マイケルさん達じゃないと思います。カメリアさんはどう思ってるか分からないけど」

「私もケインさんの推測に、部分的には賛成ですよ」


 カメリアがこう言うと、ケインもターザリオンも、彼女を見やった。

 風で白い髪が流れている。

 彼女はそれを少しかきわけてから、


「内部犯でしょうね、間違いなく」


 と断言した。

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