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謎解きばあさんと、恋する警備兵 ~推理大好きな元・歌姫おばあさんと『ヒゲ男の事件』を解決し、あの子とお近づきになりたい~  作者: 暁明音
本編

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51  真実を話すとき その1

 照明でぼんやり(ほの)明るくなった広間で、ケインはみんなと夕飯を食べた。その中には無論、戻ってきたマイケルもいる。


 食事中の会話は、当たり(さわ)りの無い話題だけが選ばれていた。ユイやアシュリーの高校生活の話やマイケルの昔話が出てきては、長く続かず尻尾切れみたいに終わる。


 結局、途中からはほとんど、ケインとターザリオンにまつわる話が中心となっていた。


 気付けば、食事をほとんど終えていて、会話だけをしている。

 アシュリーがケインへ依頼書を持っていったとき、ターザリオンも実はいたという話がなされたところで、玄関からノッカーを叩く音がしてきた。


「自分が行ってきます」


 ケインが立ちあがる。


「万が一がありますし、マイケルさんに用事がある人なら、呼びに来ますよ」


 そう言って燭台(しょくだい)を一つ持ったケインが、広間から出ていった。

 ほぼ真っ暗な廊下を歩いて、玄関の前まで来たケインは、念のために「どちら様ですか?」と扉越しに尋ねた。

 すると、


「私、フランツ様から言付けを預かった、弁護士のヌイと申します」


 と、こもってはいるが聞き覚えがある声がしてきた。


「ちょっと待っていてください」


 そう言って、扉の鍵をあけるケイン。

 念のために小銃を入れたホルスターの留め金を外し、扉の取っ手を回してあけた。


「夜分に申し訳ありま――…… アレ? ケインさん?」


 ヌイがいるのは当然として、少し後ろの方には警備兵が一人、ランタンを持って立っていた。おそらく安全のため、付いて来てもらったのだろう。


「こんばんは、ヌイさん。念のため自分が応対します。――ご用件は?」

「あぁ」と苦笑うヌイ。「あなたでしたら、フランツ様本人が来ても良かったかもしれませんね」


「何かあったのですか?」

「いえ、これをご息女のユイ様へ渡して頂けませんか?」


 ヌイはそう言って、持っていた封筒を差し出してきた。


「なんです? これ」

「フランツ様が、ユイ様へ宛てた手紙です。顔を合わせると話をしてくれないから、手紙にしたためたと」

「内容は?」


「知りません。手紙を読む立場にはいませんので」

「分かりました。預かってはおきますが、本人が読むかどうかは保証しかねますので、そう伝えておいてください」

「分かりました、お願いしておきます」


 ヌイがいつも通りにキチッと一礼し、待たせていた警備兵へお礼を言いながら屋敷方向へと去って行った。

 船上では本島の宿を取ると言っていたが、フランツが残るように言ったのか、話が長引いて最終便を逃したのか、屋敷で一泊することになったらしい。


 とにかく、手紙を渡さなければならない。

 同時に、どんな内容なのかも確認しなければならない……

 そんなことを考えつつ、ケインが広間へ戻ると、三人がケインへ視線を向けた。


「おかえり」ターザリオンが言った。「誰だったの?」

「弁護士のヌイさん」

「ヌイさん?」

「誰じゃ? そ奴は」


 マイケルはヌイのことを知らない。当然の反応だった。

 ケインは、ベラーチェス出身の弁護士とだけ答えておいた。


「いったい、なんの用でリエッジ家へ?」

「フランツさんとニアさんとベルさんが、色々と協議するためです」

「協議? 何を?」

「申し訳ありませんが、立場上、自分からはこれ以上のことは…… もし気になるなら、ターザリオンと一緒に屋敷へ行って、ベルさん本人に確認を取ってはいかがでしょうか?」


「ふむ、それもそうじゃな…… ターザリオンさん、一緒に来てくれんかね?」

「ええ、構いませんが……」


 と言って、彼はケインへ目配せする。だからケインは、


「何かあったら、すぐに事態収拾に努めてくれ。カメリアさんからのお願いだし、マイヤー所長からの命令だから」


 と言った。

 それでターザリオンは、納得したような顔でマイケルを見やり、


「遅くなると逆に迷惑でしょうから、すぐに行きましょうか」と言った。

「そうじゃな。――悪いが二人とも、片付けもしておいてくれんか?」


 アシュリーとユイが、うなずきながらそれぞれ了解する。

 こうしてマイケルとターザリオンは、ランタンに火を移してから、リエッジ家の屋敷へと出掛けて行った。

 しんと静まりかえった広間で、最初に声を出したのはケインだった。


「実は、さっき言ったヌイさんから手紙を預かってね」

「手紙、ですか?」


 アシュリーの言葉に、ケインがうなずいて見せた。


「それ、マイケルさんに言わなくてもいいの?」


 ユイが怪訝(けげん)そうに言うと、ケインは首を横へ振って、


「これは君への手紙なんだ」と言った。

「あたし?」


 ケインがうなずく。

 蝋燭(ろうそく)のぼんやりした光でも分かるくらい、いつになく真剣な顔だった。


「普通なら」ケインが言った。「君に対する手紙だから、そのまま渡して終わりなんだけど…… 事情が事情だから、俺も見ておきたいんだ。むしろ、先に俺が見てから、内容を君に説明した方がいいのかもしれないと思って」


「何? 不安になるようなこと言わないでよね」

「…………」

「あ、あの」アシュリーが不意に言った。「私、先に片付けを始めます。大切なお話なら、二階が安全だと思います」


 そう言って、アシュリーが机の上にある食器を重ね始める。


「ゴメンね、アシュリーさん」


 ケインが(ほほ)笑みながら言うと、彼女は「いえ、お気になさらず」と言って、そのまま食器を持って姿を消した。

 だから、広間にはケインとユイだけが残っている。


「じゃあ」


 ユイがおもむろに言った。


「二階へ行こっか、ケインさん」

「ああ」


 二人は廊下へ出た。

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