表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
謎解きばあさんと、恋する警備兵 ~推理大好きな元・歌姫おばあさんと『ヒゲ男の事件』を解決し、あの子とお近づきになりたい~  作者: 暁明音
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/93

44  裏庭の調査

 ニアの部屋から出たケインとカメリアは、そのまま裏庭の方へ行くことにした。


 玄関から出た二人は、屋敷をグルッと回るように歩いて、裏庭へ出る。

 裏庭は表の庭よりも狭く、庭を囲む木の(へい)の向こうはすぐに山肌だった。広葉樹や針葉樹の(こずえ)が風に揺られ、ザワザワとそよいでいる。


 ケインは視線を上へあげ、いつの間にかもう夕暮れ前なのかと、赤くなりつつある空を見ながら思った。


「ケインさん」


 カメリアの呼ぶ声がしたから、慌てて彼女の方を見やる。

 少し行った先にカメリアがいて、


「ここを見て下さい」と、草地を指差していた。

「何か見つけたんですか?」

「足跡なんですけれどね、たくさん付いていますよ」

「本当ですね…… これじゃあ、あまり期待できないかな?」

「でも、こっちのはあまり見ない感じの足跡ですよ、ケインさん」


「本当だ、これは男性用の」と、しゃがみ込んでケインが言った。「革靴、でしょうかね」

「ええ、一般的な革靴ね。ただ、おかしい点が一つ」

「え? どこです?」


 カメリアがケインを見やって、ニッコリと(ほほ)笑んだ。


「教えてくれないんですか?」

「謎々ですよ。何がおかしいと思います?」


 ケインは仏頂面(ぶっちょうづら)をしつつ、草地に残る足跡をジッと見つめていた。


「ヒントは、ここへ来る前にありますよ」

「意地悪せずに教えてくれませんか? 俺は謎解きは趣味じゃないんです」

「あらあら、今はご機嫌斜めですね」と苦笑うカメリア。「では、こちらへ来てください」


 と言って、カメリアが歩き出す。

 彼女は道中を戻るように歩いて、角を曲がった。

 ケインは仕方なく彼女に付いて行くと、途中で彼女が立ち止まって、地面を指差していた。


「これを見てください、ケインさん。先程と同じような足跡が、クッキリと残っているでしょう?」

「あっ、本当だ……」


 気付かなかったとケインは思いつつ、自分の足下にある足跡を見下ろしていた。


「これ、向こう側にもあるか見てくださいな」


 カメリアが、指差す方向を表の庭側へ動かしていく。

 ケインはその指をたどって、地面を見て行く。


「あれ……?」


 ハッキリ付いていたはずの足跡が無くなっていた。


「ねぇ? おかしいでしょう?」

「えっと…… すみません、途中で足跡が消えているのは分かるのですが、それは偶然、そうなっただけでは?」

「そんなことありませんよ? だって、()()()()()残っているのですからね」

「途中までは……?」


「いいですか? ケインさん。窓ガラスを悪趣味な物で割った犯人は、途中まで見慣れない革靴を履いていた、ということですよ。でも、それが途中までしかないのは……?」


「途中で履き替えたか、靴を脱いだ?」


 カメリアがうなずく。


「でも、どうしてです? 逃げなきゃいけないのに、なんで脱ぐ必要が?」

「推測ですけれどね、単純に靴の大きさが合ってなかったからだと思いますよ?」


「靴の大きさが…… え?」

「靴の大きさが合ってないと、逃げるのも難しいでしょう? だから脱いだんだと思いますよ?」


「え? ちょっと待ってください。つまり犯人は、靴が合ってない物を履いてたんですか?」

「理由は簡単。別人の靴を使うことで、疑いを晴らすか、捜査を攪乱(かくらん)することになりますからね」


「あぁ……」


 ――考えてみれば、当たり前のことだ。


「要するに、偽装工作のために革靴を履いたと?」

「ええ。とにかく、この足跡の記録も取っておいてもらいましょうかね」

「あっ、そうだ」


 ケインが急に(ひらめ)いた顔をして言うから、カメリアが首をかしげ、


「どうしたのです?」と言った。

「法定管理人の話のとき、俺の友人のことを話しましたよね?」

「ええ、聞きましたよ」

「そいつ、鑑定員なんですよ。夕方くらいにカウカ島へ来てくれる予定なんで、カメリアさんを送るついでに港に寄って、ここの現場検証をしてもらいます」


「ああ、いいですね。それは好都合ですよケインさん」

「それは良かった」と、ようやくケインの顔から笑みがこぼれる。

「他の足跡も、特徴的な物があればいいんですけれどねぇ…… 残念ながら、分かりやすい足跡は無さそうです」

「この足跡は誰の物でしょうかね?」


 そう言って、ケインが指差した。

 その足跡は、よくよく見てみなければ足跡だと分からないくらいに、草に埋もれていた。


「小さい靴のようですね」

「小さいと言うことは、女性用?」

「男性も小さい方はいますよ? マイケルさんの足は小さい方ですから」

「そうなんですか?」


「機会があったら、悟られないよう観察してみるといいですよ。くれぐれも、粗相(そそう)が無いようにね?」

「え、ええ、分かってます」と言ってから、ケインはあることに気付いて、「あの、カメリアさん」と呼び掛ける。

「なんですか?」

「ひょっとして…… ()()()そんなこと、しているんですか?」


 カメリアは不意にきびすを返し、


「さぁさぁ、とりあえず見る物は見ましたし、執務室へ行ってくれたマイヤーさんと合流しましょうか」


 と言って、歩き始める。

 ケインはどこか納得のいかない表情をしつつ、カメリアの背中を追い掛けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ