表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/93

43  ガラス片と裏庭の土

 扉をあけると、マイヤーが立っていた。それと……


「カメリアさん……?!」

「どうでした? ケインさん」


 演奏会場にいるはずのカメリアが、マイヤーの後ろに立っている。


「あ、あの、なんでここに?」

「どうしても気になってしまって…… マイヤーさんが部下と一緒に立ち寄ってくださったから、一緒にここへ来たんですよ」

「で、でも、演奏は……?」

「大丈夫、予行練習は済ませたし、あなたから話を伺ったあと、他の警備兵と一緒に戻りますから」


「じゃあ、応援が来ているんですね?」

「今日のところは二人だけだがね」とマイヤー。

「それよりケインさん……」


 と言うなり、カメリアが詰め寄ってきて、マイヤーの隣に立った。


「話はどうなってます?」


 不意に、ケインがハッとなった。

 それを見たカメリアが「何かあったようですね?」と言うから、ケインはうなずき、


「ええ、あったも何も…… ちょうど良かったですよ」


 そう言って彼は振り返り、窓際にいるニアを見やった。


「ニアさん、カメリアさんに部屋の様子を見せても構いませんか?」

「なんで?」と両腕を組んで、仁王立ちしていた。

「カメリアさんと俺に、犯人を見つけろって言ったのはあなたでしょう?

 カメリアさんは女性で、入室しても問題ないと思うのですが」


 しばらくニアは、ケインを見つめていた。

 ケインは表情を変えずにいたが、内心は、さっさとカメリアを入室させてくれと願っていた。

 とにかくニアとこれ以上は話をしたくない…… そう思ってやまないからだった。


「確かに」不意にニアが口を開く。口角があがっていた。

「捜査員は入れたくないけど、アンタ達だけで済むなら、別にいいかな」


 この言い方が妙に引っ掛かったケインは、


「失礼ですが、捜査員が入ると何か都合の悪いことでもあるんですか?」


 と尋ねた。


「自分の部屋を荒らされるのを好む女なんていないだけ。これ、普通のことじゃない? 捜査員なんて、泥棒みたいなものじゃない。勝手に荒らしまくって、そのまま放置して帰ろうとする(やから)でしょ? だから嫌なの」


「申し訳ありませんが、捜査員を入れない、というのは難しいと思われます。家主のベルさんが捜査してほしいと言うのなら、入って捜査することになりますので……」


「あっそ」と、溜息(ためいき)交じりにニアが言った。「じゃあ、さっさと済ませて。あと、絶対にいじった場所は正しく戻して。変に動かされてるの、嫌いなの」

「分かりました。――それでは、カメリアさんを呼びます」


 やっと彼女を入れられる……

 ケインはそう思いながら、扉の外で待たせているカメリアを呼ぼうと振り返った。


「――カメリアさん」

「ああ、ケインさん。どうでしたか?」

「あれ?」――マイヤー所長がいない?

「マイヤーさんはね」と、彼の表情から察したカメリアが言った。「ベルトフランツさんのところへ行ってもらいましたよ」


「えっ? どうして?」

「器物損壊があったのでしょう? 申し訳ないけれど、聞こえてきましてね、会話が」


 なるほど、とケインは思った。同時に、手間が省けてありがたいとも思った。


「フランツさんからも、色々と()いてほしいことがありますからね。あと、マイケルさんとベティさんも」

「え? マイケルさん達も?」

「さぁさぁ、どこが器物損壊となっているか、確認させて頂きますよ」


 そう言って半ば強引に、ケインを押しのけるようにニアの部屋へとカメリアは入った。


「ごきげんよう、ニアさん」

「ええ」と素っ気なく答えた。

「あらあら、これはまた派手に」

「使われた道具は石で、そこには食用の鳥の頭が括り付けられていました」

「えぇ? 頭が?」


「そうです。血抜きのあと放置されたものなのか、血痕が飛び散ったりはしていなかったようですが……」

「どこにあるのです?」

「ベッドの側ですが…… 大丈夫ですか?」

「貴族の人間ではありませんからね。調理の下ごしらえはたくさんしてきましたよ」


 カメリアはそう言って、ベッドの方へ移動した。

 ケインはやれやれと言う顔をしつつ、彼女を追って、


「どうですか?」と尋ねる。

「一言で言うと、悪趣味ね」

「石が投げ入れられた直後、走って逃げる例の(ひげ)男の背中を見たと、ニアさんが証言しています」

「ニアさん」と振り返るカメリア。「そこの、割れた窓から(のぞ)いたのですか?」


「じゃないと、確認なんてできないでしょ?」

「どうして(のぞ)いたのです?」

「は……?」

「窓を割ってきた人間が外にいるのに、割れた窓に近寄るなんて…… 随分(ずいぶん)と怖いことをなさる方なのね?」


「逆じゃない?」と、笑みを浮かべるニア。「こんなことしてくるヤツの顔、(おが)んでおかないと、やり逃げするでしょ?」

「じゃあ、逮捕に協力するつもりはあるのね?」

「無かったら、アンタら二人を部屋へ入れてない。特にそこの男」


「協力するつもりがあるのなら、良かったですよ。ケインさんだから良かったものの、あまりに捜査の邪魔をするなら、すぐに拘留(こうりゅう)されかねませんからね」


「程良いオモチャだったのに、変なこと吹き込まないでよね」

「行きましょうかケインさん」と、振り向きながらカメリアが言った。「あとは捜査課の人達に任せましょう」


 ケインは、もういいのかと言う思いと、あれだけ苦労したのにという思いが混ざって、


「もう大丈夫なのですか?」と尋ねてしまった。

「ええ」


 そう言ってカメリアが、ニアへ視線を送った。


「ニアさん、こういった現場は保存しておかなければなりませんから、部屋の外へ出ていなさい。マイヤー所長はケインさんと違って、聞き分けない人はすぐに留置所へ連れて行きますよ?」


「は~い」と言いながら、さっさと部屋から出て行くニア。

「あのオバサンとは、二度と話したくない……」


 ケインが溜息(ためいき)交じりに独り言を口にした。


「ご苦労様。随分(ずいぶん)、あの子を追い詰めたみたいですね」


 カメリアはケインの肩を軽く打って、彼をねぎらった。


「ひとまず、面白い物を見つけましたよ」

「面白い物……?」

「幸い、二人きりですからね。こっちへ来てくださる?」


 そう言って、カメリアが割れた窓の方へ寄った。

 ケインが側に行くと、彼女が下を指差している。


「土が見えるかしら?」

「まぁ、外は裏庭のようですから……」

「違いますよ、ケインさん。窓の真下を見てください」


 言われるがまま、ケインは真下を見やった。


「どうです? こんなにもあるでしょう?」

「ええ、まぁ……」

「石がガラスに当たったときに落ちたとしても、ちょっと量が多すぎませんか?」


「そうですかね?」

「ほら、こっちの絨毯(じゅうたん)にもたくさんの土が」

「土より、ガラス片の方が多い気がします」

「ベッドの近くにも落ちていたでしょう? 土が」

「まぁ、落ちていましたね…… ガラス片も同じくらいありましたが」


「二つ合わせたら、結構な量が石に付いていたことになりません?」

「そうだろうと思います。だから土が痕跡として残ってるわけですし」

「じゃあもう一度、石を見てくださいよ」


 ケインがベッドの側に落ちている石を見に行った。


「土が付いていたのなら、もっと湿っているだろうし、もっと汚れているはず。乾いた土だったら、ガラスのところでほとんど落ちますからね。

 なのに、その石ころは表面がツルツルしているし、土が付いていた痕跡も見当たらない…… どうしてでしょうね?」


「さぁ……?」

「これは鑑定してもらうまで分かりませんけれどね、きっと、散らばっているガラス片にも土が付いていませんよ。当然、窓のところに残っているガラスにも」


 付いていなければ何がどうおかしいのか…… ケインには全く分からなかった。

 カメリアはさらに続ける。


「おまけに(ひも)まで付いた石コロですから…… これで、どうやって土を部屋の中にバラまけるのか…… 不思議ねぇ?」

「そう、ですかね?」

「後々何か分かればいいんだけれど…… とにかく次は、裏庭へ言ってみましょうか」


 そう言ってカメリアが歩き始める。

 ケインは傾けていた首をそのまま保ちつつ、いったい何が気になっているのか検討も付かないと思って、彼女の背中を見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ