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4  いざ、少女が待つカウカ島へ!

 翌日。

 荷物と装備を整えたケインは、警備兵に与えられた独身寮の自室から出て行った。制服はまだ着ていない。


 目指すはカムカ島。

 カムカ島行きの船舶(せんぱく)は中央(こう)から出る。と言うか、ほとんど中央港から他の島を目指すことになる。


 独身寮と港とは少し距離があるけど、歩いて行けなくはない距離だった。

 乗合(のりあい)馬車を使ってもいいけれど、少しでも経費削減をしたいため、歩くことにした。


 早朝に振っていた雨の影響か、少し風景がきらめいて見える。もう雨が降る気配は無さそうだ。

 雨のあがった、日和(ひより)の良い青空の下を歩くのは気持ちいい、とケインは思った。


 それから十数分後、港に到着する。

 ケインは乗船切符を買いに、販売所へと向かった。

 中央港はほとんど国内便で、隣接する各漁港や商港を除けば中型か小型の船舶(せんぱく)しかない。


 ムズリアの島々はほとんどが近くに点在していたし、海も年中、穏やかだったから、中小の船舶(せんぱく)で移動するのに困ることも心配になることもない。


 しかも、これから向かうカムカ島はムズリア島のすぐ近くで、浜辺や岸からでもその島影を見ることができたから、船旅も十数分は掛からず、すぐにカウカ島の港に到着した。


 積み石で作ったような突堤(とってい)埠頭(ふとう)へ船が入ってすぐ、乗務員らしき海の男が、船を係留するための荒縄(あらなわ)係船柱(けいせんちゅう)へ引っ掛けてから、(いかり)が降ろされる。


 それから間も無く、突堤(とってい)へ渡るための分厚く幅広な木板が船と陸のあいだに渡され、その渡り橋を、乗客であるケイン達が渡った。


 大型船ではないから板も橋の形ではなく、ただの分厚い木板で、それが逆に怖いという人もいるけれど、今回の乗客にそういう人はいなかった。


 無事に到着したケインはまず、港の盛況(せいきょう)に驚いた。

 カムカ島には特に何かあるわけではなく、従って閑静(かんせい)な場所を堪能したいとか、のんびり過ごしたいとか、そういう人だけが来る、知る人ぞ知るというような穴場であった。


 あとは釣りが好きな人達が来るくらいである。


「カムカ島にいらっしゃった方は、こちらの注意事項をお読みくださ~い!」


 島の役場の人なのか、自分と同じ警備兵なのか不明だが、初老男性が印字した注意書きの半紙を配っている。正面玄関口のところには、いつもと違って警備兵が立っていた。


 ケインはまだ警備兵の服装をしていないから、当然、半紙を渡される。


随分(ずいぶん)(にぎ)やかですね?」とケイン。

「ええ、今日は凄い歌手が歌うって言うんで」


 おそらく、感じからケインを自国民だと悟ったのか、初老の男性が続けて話し始めた。


「どこから聞きつけたのか、ファンの方がたくさんいらっしゃったんですよ、全く」

「急だったんですか?」

「急も急です」

「まぁ…… 稼ぎ時だと思うしかなさそうですね」


「それはそうなんですがね、島民はあんまり慣れてないんでね、こういうのは……」


 これからも何か催し物をしていきたいと、地区長がうそぶいていて困っていると言うから、今日は予行練習だと思ってやって行くしかないですねと、ケインは苦笑いながら答えた。


 それから港を出たケインは、すぐ近くにある警備兵用の駐在所へと向かった。


 いつもだったら暇そうな猫みたいに昼寝していたり、魚を求めて釣りをしていたりする連中が、今日ばかりはほぼ全員、出払っているようだった。

 責任者の中年男性が奥まったところに座っているのが見えるから、ケインはそこへ歩み寄って、


「おはようございます、マイヤー所長」と挨拶をした。

「おお、ケイン君か。ご苦労様」


 彼はカウカ島にある駐在所の責任者であった。


「今日はやけに混雑してますね」

「そうなんだよ」困った顔を隠さずに、マイヤーが言った。「地区長が変わって、色々と改革案を出してきてるからねぇ」


「島民らしき方が、急に演奏会が決まったとか言ってましたけど……」

「いや、三日前か四日前に決まった、限定的な催し物だよ。ほぼ関係者だけでやるような内容だったのに、なぜか外部に漏れたらしくてね」


 のんびりしている島の人間からすれば、三日前や四日前は、昨日今日の出来事に同じだ。そうでなくとも、あの男性はのんびりし始める年齢だし、つい最近だと受け取るのも分かる気がする、とケインは思った。


「なんにせよ」と、マイヤーが言った。「依頼外で君にも協力要請することがあるかもしれない。今日からよろしく頼むよ」

「こちらこそ、施設の使用許可を頂きましてありがとうございます」

「とりあえず、これが部屋の鍵だ」


 マイヤーは引き出しから鍵を取り出しつつ言って、それを机の先の方へ置いた。


「宿泊施設については、ここから少し離れた場所にある」

「えっ、駐在所とは別にあるんですか?」

「まぁな。ここは港のすぐ側にあるが、商店などの中央街は、少し北へ行ったところにあるんだ。だから、そこにある交番を宿泊施設として使ってほしい」


 ケインはなるほどと思った。

 演奏会のせいで、色々と人手が不足し、別の警備兵をこの駐在所に呼んでいるのだろう。

 ある意味、面倒がなくて良いと思ったケインは、念のためにと、


「交番って、他の連中も使う予定があったりしますか?」と尋ねた。

「日中は立ち寄ったりするかもしれんが、夜間は君一人だ。ほとんどの店は大体、早くに閉まるから気を付けてくれ」

「ええ、分かっています。何から何までありがとうございます」


 そう言って頭を下げたケインは、(うやうや)しく卓上の鍵を拾いあげた。

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