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14  少女たちの語らい

 ケインが立ち去ってから数分が経つ。


 板間へ移動したユイが、ベッドを手で押し込みながら、


「やっぱり固いね~」と言った。

「簡易ベッドだから、仕方ないかも」とアシュリーが苦笑う。


 ユイがベッドの際へ座った。


「あのさ…… 今日はゴメンね」

「えっ?」

「せっかく泊まりに来てくれたのに、こんなことになって」


 アシュリーが、ユイの隣に座った。


「私は別に気にしてないよ? 元々は、私が無理を言ってお祖母(ばあ)様に付いて行ったのと、見通しが甘かったせいだから……」


 アシュリーは祖母のカメリアを手伝おうとカムカ島に来ていた。

 元々、宿に泊まるつもりでいたが、これほどの盛況になるとは露ほどにも思っておらず、当日に宿を探したせいで泊まる場所が無くて困っていたのだった。


「アシュリーと食後のお茶とか、楽しみにしてたんだけどね……」

「ご両親が島に戻ってきているって聞いたとき、少し嫌な予感がしていたから…… でも、本当にいきなりだったね」


「それ! アイツら、今更どうして戻ってきたのよ……! 今までさんざん、あたしとお祖母(ばあ)様のこと放ったらかしにしてきたクセに、いきなり一緒に暮らそうなんて言われても困るしッ! 他にも散々、こっちに迷惑掛けてきたのよ……?!」


「私はユイの言い分を理解してるからいいけれど、他の人達がどう判断するのか…… ちょっと不安」

「あたしは()が非でも拒否する! それだけは絶対に!」


 嫌な沈黙が流れる。


 アシュリーは両手を合わせ、「そう言えば」と言った。


「探していたっていう仕事は、どうなったの?」

「まだ探してる。あの治安維持隊の人に頼んで、管理課にでも入れてもらえないかな?」

「公務員だし、ちょっと難しいんじゃないかな?」と苦笑うアシュリー。

「そう言えば、アシュリーって調合術もできるんだよね?」

「ちょっとだけね。あまり得意ではないし、錬成術が使えなかったから……」


「でも、調合術が使えたら捜査課の鑑定員になれるじゃない。あそこ、かなり給料いいって聞くし、あたしも調合術できたらなぁ~って思ってたんだけど……」


「焦らず、しっかり吟味(ぎんみ)してから決めた方がいいと思うよ? お父さんの受け売りだけど、多少の得意不得意の仕事より、人間関係がある程度、うまくいきそうな職場の方が、結果的に長く続くそうだし」


「人間関係ねぇ~…… あたしじゃ、一番の問題点になりそう」

「どうして?」

「ほら、学校でもそうだけど…… あたしって結構ガサツでしょ? 大人とも割とぶつかるし、口喧嘩しちゃうし……」

「あなたほど真っ直ぐで素直な人、そうそういないと思う。誰とでも分け(へだ)てなく接するし…… だから、とても素敵な人よ?」


 ユイがクスクスと笑いつつ、


「あぁ~、ホント、アシュリーは癒やし系だよね。なんか(すさ)んだ心が洗われるわ~」


 ユイは冗談めかして言うけれど、アシュリーはちっとも冗談の表情にはなっていなくて、だから愛想笑いしていたユイも、恥ずかしそうに横目となっていた。


「――そういうの、絶対に外では言わないでよ?」

「私の失敗談を言おうとしたお返し」

「えぇ~? あれって失敗談? 島に来る人は大体、引っ掛かると思うけど?」

「私はそういう失敗談を人に知られて、平気でいられるような心の強さを持っていないの。だから、あれは二人だけの秘密にしてほしいと言いいますか……」


「分かった分かった。今度からは気を付ける」

「本当にお願いしますよ……?」

「まぁ、だけど、アシュリーはもう少し他の人と接する練習をしておいた方がいいとは思う」

「それは……」とまで言い、言葉を切った。

「せっかく男子からも評価高いのに、もったいないって


「男子とはほとんど話したこともないのに、どうして評価が高いの?」

「そりゃ、あいつらはまず見た目で判断するから」

「私たち女性にもそう言う部分はあるでしょ? 先日、ユイも格好いい男性がいたって話してくれたじゃないですか」


 頬をかいたユイが、続けて話した。


「え~っと、たとえばさ…… いくら顔がいいからって、気安く触られるのは嫌でしょ?」

「はい、もちろん」

「そういう感じで、あたしたち女はさ、好きになってからが本番じゃん?」

「好き、ですか……?」

「別に恋しろって言ってるわけじゃないけど…… いや、ゴメン(うそ)。やっぱりアシュリーには恋してほしいかも」


「ユイもお付き合いしてる人、いないでしょう?」

「う~ん…… 割といいかもな~って思う人はいたけどね。残念ながら先客がいたから諦めたけど……」

「そ、そうだったの? 知らなかった……」


 割と衝撃を受けているようだから、ユイが笑って、


「そんなに驚くこと?」と言った。

「だ、だって、そんな素振り、ちっとも見せなかったから……!」

「アシュリーと知り合う前の話。一学年のときかな? 確か」

「あ、そういう……」


「そうそう、そういうの。

 アシュリーは前の学校、エルエッサム学園だったんでしょ? あまりそのときの話、聞いてないし…… どうせだから聞かせてよ。超一流の学校なわけだし」


 アシュリーは視線をそむけ、


「私、こういう性格だから、話したりするのが苦手で…… それに、あの学校は受験組と一貫組の派閥(はばつ)もあって、その……」

滅茶苦茶(めちゃくちゃ)、面倒くさい学校だったってこと?」


 アシュリーは何も言わなかったが、表情は否定的ではなかった。だからユイは両腕を組み、


「やっぱり、そういう感じなんだなぁ~、あそこ」

「で、でも、素晴らしいところもあったよ? それは確か」

「本当に~?」と目を細めるユイ。「具体的には?」


「設備は申し分ないし、学部が多いから色々な人や物に触れられるし…… 最近、新しい調合術が産まれたって(うわさ)になっていたから、そのうち何か動きがあるかも……?」


「ふ~ん…… 文字通り、学業の場としては魅力的ってこと?」

「そう、なるかな。個人的に派閥(はばつ)とかが無ければ、本当にいい学校だと思う……」

「なるほどね~。確かにそういう学校だと、アシュリーの好みの人って見つかりそうにないかも」


「私のことはいいから、ユイの話を聞かせて。参考にするから」

「本当にぃ~?」と、また目を細めてアシュリーを見やる。


 アシュリーは二度ほどうなずくから、ユイは溜息(ためいき)まじりに、


「じゃあ、アシュリーの好みの男性を聞かせてよ」

「こ、好み?」と声が裏返るアシュリー。

「それくらいあるでしょ? こういう人がいいな~、みたいな。それ教えてくれたら、あたしのことも話す」


 ユイは、アシュリーが色恋にうといことを知っているようで、彼女が恥ずかしそうにモジモジしているのを、満足気に見ていた。


「たとえば、あの警備兵の人とかは?」

「えっ? あの人……?」

「あの人は無い感じ?」

「無い、というか……」と言って、少し考えてから「話をしたのも、依頼書を渡したときだけだし、全然よく分からないから好きも嫌いもないと言うか……」


「まぁ、警備兵だもんね。アシュリーとは色々と釣り合わないか……」

「そうなのかな? 自分では分からないけど……」

「あたしはそう思うってだけ。でもまぁ、確かによく分からないから、なんとも言えないよね。うん、なんかゴメン」


 そう言って苦笑うユイ。アシュリーもやっとあどけない笑顔を見せた。

 二人はその後、互いにどういう男性が理想的なのかを話し合った。

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