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13  初めての会話(お邪魔虫付き) その3

 ベル達への挨拶(あいさつ)はあとでするとして、ひとまず、ユイとアシュリーを交番へ案内するために、ケインは二人を連れて坂を下っていた。


 カメリアはユイの祖母…… 名前をベルと言うらしいが、その人にマイヤー所長への手紙を書いてもらうからと、また家の方へと戻っていた。

 だから、ケインの後ろにはユイとアシュリーの二人だけがいる。


「ゴメンね、アシュリー」


 ユイの声だけ、背後からしてきた。


「うん、私は大丈夫だよ。それより……」


 少し間があいてから、またアシュリーの声がした。


「ベルおば様だけ残してきてるけど、大丈夫なのかな……」

「カメリアさんにマイケルおじさんもいるし、大丈夫だと思う」

「あのお(じい)さんとは結構、親密な付き合いがあるの?」


 ケインは横顔を見せながら、気になっていたことを尋ねた。


「家にあがり込んで行ったとき、君が何も言わなかったから黙って見過ごしたけれど」

「大丈夫です、あの人はあたしのお祖父(じい)ちゃんだから」

「お祖父(じい)ちゃん?」

「そう思ってる人ってことです」

「なるほどね」


 深追いするとまたゴネ始めそうだから、ケインは追及せずに会話を終わらせた。そして、


「そう言えば」と話題を変える。「二人とも、学校は?」

「明日までは休みだから、明後日から」

「ムズリア高校? それともベラーチェス高校? ベラーチェスなら早めに起きないとダメだよな?」


「二人ともムズリアなんで、気にしなくても大丈夫です」

「なるほど。じゃあ、俺の後輩(こうはい)になるわけか」

「警備兵さんもムズリア?」

「この島の産まれなら、ほとんどあそこだよ。頭のいいヤツは大陸の方へ行くけど」


「そうですよね。

 あっ、そう言えばさ、アシュリーはどうしてベラーチェス高校に行かなかったの? 実はずっと気になってたんだよね」


「船が苦手で…… それに、島内の高校の方が色々と都合が良かったの」

「へぇ、それは初耳」と、ちょっと明るい声音(こわね)でユイが言った。

「アシュリーさんは」とケイン。「カメリアさんと一緒にムズリアへ来たみたいだけど、移住してきてもう長いの?」


「いえ、まだ一年も経ってません」

「じゃあ、二人は同学年だから友達になったって感じかな?」

「ちょっと違う」とユイ。「結構、前の話だけど――」

「ユ、ユイ! やめてよ……!」と、アシュリーが焦った声で言う。


 ケインは当然、かなり気になったから、


「何? どうしたの?」と、口角があがるのを(こら)えながら言った。

「別になんでもないです……!」

「いいじゃない、別に」とユイ。「恥ずかしいことでもないのに」

「私にとっては恥ずかしい出来事なんです、だから秘密に……!」

「しょ~がないなぁ~」と、ようやくユイが笑顔を見せた。


 最初の出会いのせいで、敵を作るようなキツイ性格の、いけ好かない少女かと思ったが、普段は気前の良い明るい性格らしい。

 逆に言うと、あそこまで荒れるほど両親を嫌っていると言うことになるわけだが…… なぜ嫌っているのか、ますますケインは気になってしまった。


「警備兵さん」


 ユイの呼び掛けで我に返ったケインが、「な、何?」と尋ねる。


「名前、なんて言うんです?」

「名前? ケインだよ」

「年は?」

「今年で21歳だね」

「あっ、三つ違いなんだ」

「すると…… 君達は18ってこと?」

「うん、今年で18」


 あまり離れていなくて良かったとケインは思った。

 それから適当な雑談をしているうちに、交番の前にたどり着く。

 交番はもうすっかり暗くなっていて、誰一人いないことが分かるほど静かであった。


 (ふところ)から鍵を取り出したケインが、交番の扉を開き、その中にあるもう一つの扉の(じょう)も外した。


「カメリアさんも言ってたけど、錠は俺が閉めて行くから、くれぐれもあけて外へ出て行ったりしないように」

「は~い」

「分かりました」


 ケインが扉をあけて、中へ入って行くと、後ろ二人の少女も付いて入ってくる。


「見ての通り、ベッドはあそこ。水場はそこで、あの扉は~……」


 と言うなり、ケインが扉の方へ移動した。そうして中を確認し、


(かわや)だ」と答え、扉を閉めた。「ランタンは水場のところに置いておくから、注意してくれ」

「なんか…… 思ったよりも質素なんだね」


 薄暗い部屋の周囲を見渡しながら、ユイが言った。


「そりゃ、寝泊まりするだけの場所だからな。とにかく明日の朝、迎えに来るから、それまでは絶対に外へ出たりしないように」

「夕飯は~?」


 言い方が冗談めかしていたから、


「我慢するしかないよ」と返事をしておいた。「代わりに早朝、迎えに来るから、商店街で朝食を食べようか」


「え? いいの?」

「ずっと食べずにいられるか?」

「いや~、無理です」と苦笑うニア。

「あの」今度はアシュリーが言った。「無理を通してくださって、ありがとうございました」


 一礼するアシュリーに、ケインはどこか嬉しさを感じつつ、


「気にしなくてもいいよ。困ったことがあったら言ってくれ」と言った。

「あたしも、凄く感謝してる。ありがとうございます、ケイン先輩♪」


 また冗談めかして言っていたから、


「本当に感謝してるか?」と尋ねると、

「もちろん。本気の本気で、感謝してるよ。こんなに我が(まま)を聞いてもらったの、始めてかも」


 と、始めて笑みを浮かべて言ってきた。しかし、どこか空虚(くうきょ)な笑みにも思えた。

 最初は少々、不貞不貞(ふてぶて)しい態度の少女に思えたが、心の中では自分の我が(まま)を反省してはいるのかもしれない。


「まぁ、冬でもないから冷えるとは思わないけど、暖かくして寝るようにね」

「うん」

「アシュリーさんも、おやすみ」

「はい、ありがとうございます。おやすみなさい、ケインさん」


 ケインは自然と、笑みをこぼしていた。

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