11 初めての会話(お邪魔虫付き) その1
とりあえず何か話さなければ……
ケインは、異物となっている自分が原因で、険悪な雰囲気が更に悪化しないようにと、口を開いた。
「アシュリーさん、だっけ……?」
「あ、はい」
「ひょっとして、カメリアさんのお孫さん?」
「ええ、はい。そうです……」
「お、俺のこと覚えてるかな?」
小首を傾げるアシュリー。
やっぱり覚えてないか…… そう思ったケインが、心の中で失望していると、
「あっ」と、アシュリーが声をあげた。「ひょっとして…… 昼間の警備兵さん……?」
「そ、そうですそうです! あのときの警備兵!」
失望から一転、彼の心中は喜びに変わっていた。
「いや~、まさか再会するとは全く思ってませんでしたよ」
ケインが愛想笑いしながら頭をかいて言うと、アシュリーが冷静に、
「まだお仕事中、なんですか?」と尋ねた。
「ええ、まぁ…… 依頼主がお友達にご紹介したいとかで」
「なんで? 目的は?」
ユイがひどく疑わしい顔でケインを見つめながら言った。
疑って警戒するのは当然だよなとケインは思いつつ、
「正直、俺にも分からないから、あとでカメリアさんに訊いてください」と答えるしかなかった。
「でも、あと二日は一緒にいる契約なので、歌を聞いてもらいたい一番の相手に、護衛役の自分を紹介しておこうと思うのは自然だとは思います。基本的に、一緒に行動することになるので」
ユイからは何も返事が無い。しかし、彼女は納得したとは言えない、疑念の色が浮いた顔をしている。
ただ、返事が無いと言うことは、少なくとも反発する材料は無かったと言うことだから、これはこれでいいのだろうとケインは思った。
「アシュリーさんのお婆さん、素晴らしい歌声でしたよ」
話題が消えて無くなる前にと、ケインが話し始めた。
「祖母は歌手をしていたそうですから」と、アシュリーが答えてくれる。
「君も歌うの?」
「いえ、私は人前に出るのがちょっと……」
「勿体ないね。せっかくいい声をしているのに」
「ねぇ、アシュリー」唐突にユイが言った。「この人と知り合いなの?」
お邪魔虫さえいなければと、ケインは思わずにいられなかった。
しかし、アシュリーはどうも人見知りをする性格らしいし、カメリアとは違って内向的な気がする。
だから黙って、アシュリーの返答を見守った。
「昼頃に、お祖母様から依頼書を渡された女性がいて、その方が屋台の話で急用が入ったって言うから…… 手があいていた私が持っていったの」
「それで知ってたんだ」
「うん」
またユイがジッとこちらを見つめてきた。やはり嫌疑の目をしている。
「どうして、そんな格好してるの?」
「ああ、これ?」
そう言ってケインが服をつまんで言った。
「普通、治安維持隊の制服を着るでしょ? お客さんとして参加してたの?」
「制服を着たまま、ここへ向かってたら目立つでしょ? こっちの方が孫と祖母に見えて、周りに同化するから逆に安全なんだよ」
半分はカメリアの受け売りで、そのおかげなのか分からないが、ユイはようやく納得した顔になって、
「そうかも」と言った。
「ユイさんでいいのかな?」
「何です?」
「君はこの島の出身? カメリアさんが言うに、アシュリーさんはエルエッサム出身らしいけど」
「へぇ、よく知ってるね」
ユイがチラッとアシュリーへ目をやる。彼女は特に何も反応せず、ずっと聞く体勢のままであった。
「それより…… さっきはどうしたの?」
ケインは好奇心が抑えられなくて、ついに切り出した。
「多分、お父さんだよね? さっきの男性」
「違うからッ!」
ユイがまた嫌悪感をあらわにして言った。
普通なら事件でもあったのかと疑うところだが、カメリアやアシュリーの対応を見るに、やはり親子喧嘩の類いだろう。
「まぁ、色々ありそうだし、そういうことにしておくよ」
ケインは気を揉んでいそうなアシュリーに目配せしつつそう答えた。
すると、ユイ達が出てきた家とは違う、別の家の玄関があいた。位置的に隣人の家であろう。
ランタンの明かりが、ぼんやりとこぼれているのが見える。
その明かりの持ち主が、小さな門の外へ出てきて、ケイン達の傍に寄ってきた。