神なんていなければよかった
強い光を放ち続ける像に神殿の人達は大慌て。私は呆然としてしまいその場から動けない。神殿の人達は他の子供達や保護者を外に出し、私の父と母を守るように取り囲んだ。
私のことは守ってくれないの?そんな疑問を抱いたが、これを引き起こしている本人が私なのだから仕方ない。
『システムへの干渉を確認。システムノートにのっとり、処罰を━━』
無機質な声が儀式の間に響き渡るが、中途半端に声が途切れた。後ろを見ると皆にも聞こえていたらしい。首を傾げている。
『制作者のシステムへの干渉を確認。処罰対象への干渉を許可。世界の門を開門』
再び声が聞こえたかと思うと、私のいる場所から数メートル離れたところに金色の扉が出現した。
「まさか、神々が降りてくるのか・・・?」
神殿の人がぼそりと呟く。私はこの世界の住人とは違う緊張感を持っていた。だって、あの人達が降りてくるなら、前世の世界の情報を手に入れる機会があるのだ。日向のことを聞けるかもしれない。
「こんな時まで日向って。私も大概だな」
神々しく光る扉がゆっくりと開かれる。中からは六人の男女が出てきた。シルエットだけだからよく分からない。
「久しぶりにこっちに来たわね」
「ずっとゲームの開発させられてたからな」
「この後も仕事あるわよぉ」
「あたし、こっちで暮らしたーい!」
「崇められ続けるぞ」
「あの子が転生者か?」
口々に喋り出した。全員が出てくると、扉は閉じていき、光りも収まる。
私は彼らを見て、口が半開きになってしまった。だって、だって━━
「制作チームの人達・・・」
この世界では見たことがない、パーカーやジャージを着込んだ人達で、私がやっていた乙女ゲームの制作チームの人だったから。
私の体は小刻みに震えていく。あの格好を見たら懐かしいと思わずにはいられない。懐かしさから涙まで出てきちゃったよ。
「え、ちょ、な、なんで泣いてるの?」
「痛いところでもあるのか?治してやるぞ」
私が泣き出してしまったから制作チームの人達が慌て始める。私は涙を拭き、横に首を振る。
「皆さんが、この世界を作ったんですよね?」
私がそう言うと制作チームの皆さんは少し照れた様子で頷いた。でも、ゲームの開発させられてるって言ってたよね。
「皆さんは神ではないんですか」
男の人が前に出てきて私の前にしゃがみこむ。私の目線に合わせたようだ。
「地球とこの世界がある宇宙とは違う宇宙で神をやっている。暇潰しに地球に来て、ゲームクリエイターとして働いているんだ。君がやっていた乙女ゲームのことね。この世界はそれを元にこの世界をこの宇宙の神と相談して作らせてもらった。この世界を作った理由は、プレイヤーが死亡した場合にこの世界に記憶を維持したまま転生させ、どこまで発展させるか実験するためだ」
「全部しゃべっちゃダメじゃない。神々の一部しか知らないのに」
女性が呆れながら文句を言う。そんな重大な秘密をしゃべられても困るよ。
「仕方ないだろ。この子は俺達のミスで予定より百年ぐらい、早く送ってしまったんだから。説明責任を果たすんだよ」
私はどうやら神のミスでこの世界に転生してしまったらしい。迷惑な話だ。
「他に知りたいことはあるかな?」
男の人が優しく聞いてくる。私が聞きたいことは一つだけ。
「日向、私の幼馴染みの佐藤日向はどうしてますか」
男の人はニヤニヤと笑った後、悲しげな顔になった。何その反応。気になるんですけど。
「あーと、結構残酷だけど、それでも聞く?」
「なおさら気になるんですけど」
六人は顔を見合わせた後、溜め息を吐き、真剣な顔をして私を見てきた。
「君の幼馴染みの日向くんは、後追い自殺したよ」
「は?」
「君の後を追って、君の部屋で首を切って自殺。相当君のことを愛していたみたいだね」
あの日向がまさか自殺?いや、そんな馬鹿な話、信じられるわけないじゃない。
「信じられない?残念ながら事実だよ。でも、君が死んだのも彼が死んだのも全て俺達のせいなんだ。君を轢き殺したのはこの俺だ。好きなだけ恨んで良い。ただ、これだけは言わせてくれ。彼のことはこちらの世界に転生させた。そこそこ良い身分にね」
「そうですか。ご丁寧にどうも」
私の声は随分と冷めていたことだろう。私はのろのろと立ち上がり、男の人を見下ろす形になる。そして、腕を頭より上にあげ、一気に振り下ろす。刹那、破裂音が鳴る。
「最低。なんで、私を助けなかったのよ。あんたら、神様なんだろ?世界を作れるぐらいの力があるくせに、何でそのままにしたんだよ。お前らのせいで!日向は死んだ!私は、望んでいなかったのに!なんで、なんで・・・」
私が大声で泣き始めると、今度は父と母が駆け寄ってきて、私のことを抱き締めてくれた。
「その件に関しては、本当に申し訳ないと思ってる。すまない。ただ、地球にいる限り、俺達は神の力が使えない。だから、君のことを救えなかった。せめてもの償いとして、この世界に転生させた。しかも、君は告白の返事を悩んでいただろ?良い機会じゃないか。彼に出会うまでじっくり悩め。彼の記憶は封印してある。時が来たら君を救う。そのとき、記憶は解き放たれる」
こいつらは、どこまでいっても神だった。人間なんて、どうでも良いんだ。そうか。
「ミカさん。あなたに私達の力の一端を授けましょう。どうか、今世こそ最後まで生きて」
私の体は淡く金色に光る。憎き神々を見ると、体が薄くなっていた。どうやら、恨みつらみを言う時間はないみたい。
『システムへの干渉を確認。個体名、ロウ・フォン・グリームを神の使いとして登録。完了しました。制作者の帰還を確認しました』
そして、神々は地球へ帰還した。私には、逃げ帰ったようにしか見えなかった。
まさかの日向くん、後追い自殺!愛が重いですねえ。いずれ日向くん目線で書こうかと思います。ブックマーク、ありがとうございます!