設定がヤバイ男爵令嬢
私は再び意識を取り戻した。ゆっくりと目を開けると私は知らない場所で寝ていた。は?どこよ。
辺りを見回してみると中世ヨーロッパの貴族の部屋みたいな所にいた。違う。ここを私は知っている。ここはあの乙女ゲームで一度だけ見たことがあるではないか。正確には設定資料集で、だが。
「まさか、異世界転生というやつですか?」
私がいる部屋は例のモブキャラの部屋だ。たしか、男爵令嬢なのに王族と仲が良かったり、領地が広かったりと色々あるキャラだ。両親が引き起こした問題だが。
「あ、メイドのシアを呼ばなくちゃ。ここでの生活の記憶も維持されてて良かった」
ベッドの近くに置いてある小さなテーブルに寄る。そこの上には水と呼び鈴が置いてある。このキャラの性格は前世の私に近いものがあった。わざわざ演じなくて良い。このキャラ、この世界の基準で言うと、顔面偏差値は普通だ。身分も貴族の中では最低。別に家から出なければいい話。そうすれば嫌なことから皆が守ってくれる。
「姫様、おはようございます」
呼び鈴を鳴らすと茶髪の女の子が入ってくる。前世の私と同じぐらいの年齢だ。彼女は私が物心つく前から仕えてくれている。そして、この家の血筋が異常なことを知っている。この地域で知らない人はいないか。あまり広まらない話だから、貴族連中や他の地域の人は全く知らないけど。
「今日でマナーの授業は終了です」
「明日、儀式があるから?」
私が質問するとシアは優しく微笑んだ。
「今日は明日に備えて、国王陛下からいただいたドレスにしましょうか」
「大半がおじさまがくれたものだけど」
「あはは」
シアは乾いた笑い声を出した。私が貴族をやっているこの国の名前はアナラーハナタ王国という。そして、国王は私の叔父に当たる。叔父は私のことを溺愛していて、一ヶ月にワンセット、ドレスとアクセサリーを送ってくる。しかし、正式な場では会ったことがない。
明日は私の十二歳の誕生日。十二歳の誕生日に子供達は神殿でステータスを知る。このゲームはバトルものでもあった。その後、貴族の子供は王に謁見しなければならならない。
ドレッサーの前に腰かける。鏡には黄緑色の長い髪に王族の証である紫色の瞳を持った少女がうつっていた。
ここで、何故私が王族の血を引いているか説明しようと思う。父と母から十歳の時に聞かされた話だ。
父は元々公爵家の令息だった。婚約者は私の母で第一王女。二人の婚約は親が勝手に決めたことらしいが、二人は本気で愛し合っていた。二人は学園に通うことになり、今まで避けてきた貴族の相手に疲弊。卒業パーティーが終わったその日に逃亡。しかし、先代の国王にあっさり捕まえられてしまった。先代はお願いだからなんか爵位を持っていてくれないと体面が悪い。そう泣きついたため、二人は一番平民に近い暮らしをするために男爵をセレクト。しかし、領地に行ってみるとバカデカい領地や館をもらってしまった。さすがに返すと本気で怒られてしまうため、そのままありがたくもらった。
私はこの話を聞いて自分の両親の異常さを知った。貴族なら上へ上へというのが当たり前。それを全部捨ててここで暮らしている。しかも、争い事も起きないから父は三時間ほどしか仕事をしていない。
「ねえ、シア。お父様達、おかしいわよね」
シアは否定も肯定もせずに私の髪を整えていく。
私の母は、特に先代に溺愛されており、遺言状にも一部の権限を残しておけ、とあったそうだ。昔、私が迷子になってしまった時は、母が権限を使い、王国の騎士を大量に動かして、ちょっとした噂になっていたな。お父様にしごかれてた。
「はい、出来ましたよ姫様!今日は特に力作です」
シア、確かに私は姫と呼ばれてもいい立ち位置だけど、外では呼ばないでね。そう言うと、シアは大丈夫です、と謎の自信を見せられてしまった。
「さ、朝食の時間ですから行きましょう」
私はシアに言われて自分の部屋を出る。ああ、洋食か。和食がいい。でも、前世の記憶のこと言っても信じてもらえないだろうし、我慢するしかないね。
食堂に着き、父と母に挨拶をする。それから私にとっては不味い朝食をとり、父は仕事へ、私はマナーレッスンへ、母は昼寝へ。
「完璧です、お嬢様。これなら謁見も問題ないでしょう。頑張ってくださいね」
私は先生から激励の言葉をいただき、母を起こしに行く。今日はピクニックに行く日なのだ。父も仕事が終わったらしく、皆で動きやすい服に着替え、とにかく広い庭でご飯を食べたり、昼寝をしたり、遊んだりした。
「あーあ、娘を王都に行かせたくない」
お父様が突然そう言った。私はゴロゴロしながら何故か聞いてみた。
「ロウちゃんを狙う王子がいるかもしれないじゃん」
ロウ。私の今世の名前はロウ・フォン・グリーム。あと、親バカにもほどがない?
「美人でもない私をどうして狙うの?」
「ロウちゃんは可愛いよ!まあ、狙う理由はそれだけじゃない。ママ、説明してあげて」
母は座りながら、仕方ないわね、と笑い、説明してくれた。
「血筋よ。あなたは王族の血を特に濃く受け継いでいる。これはママのせいでもあるのだけど。パパの血も入っているはずなのに、紫色の瞳が現れた。本来なら現れないはずなのに。それに気付いた王子はあなたのことをなんとしてでも手に入れようとするでしょうね。国王を目指している、上昇志向の強い王子はね。第二王子は要注意よ。目も合わせないで。全力で避けなさい。あの子は身分にうるさいから。あなたが男爵家の人間だと知ったら、権力を盾にあなたをさらうはず。そして、子供を産める年齢になったら無理矢理産ませるように襲う」
母はそう言って私を脅す。確かに、それは嫌だ。無理矢理子供を産ませようとする奴は最低だ。あの世で日向に顔向け出来ない。土下座したら許してくれそうだけど、私が罪悪感で押し潰されてしまう。まだ、あの世にいるならの話とはいえ。
私はそこまで考えて顔が赤くなっていくのが分かった。これでは日向を好きだと言っているようなものじゃないか。あっちでほくそ笑んでるのが容易に想像できる。あいつ、転生後も私の記憶に存在するつりもりか!
「ま、いいけど」
父と母は熱があるのかと騒いでたけど、私は走り回って元気だと証明する。
日向、ごめんね。私、あんたを想って生きていくよ。だから、あの世でせいぜい笑って見ていて。バカな女って、僕と付き合うって言えば死なずに済んだのにって。まだ死んでないかな?とにかく、私はずっと一人で生きていくよ。大丈夫。私の周りの人は私を嫁に出したくないはずだから。待ってて、日向。あの世で返事してあげるよ。来世で再会することを祈って。
日向くんの想いは報われたのか?ミカの心に結構爪痕残したし。
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