幼馴染みの告白
一部修正しました
なぜ、こんな事態になったのか説明するには、ざっと二年ほど時を遡らなければならない。
私は元々アニメや漫画、ラノベが大好きなオタク女子高生だった。ある日、ラノベでよく使われる乙女ゲームとはどんなものか知りたくて買うことにした。しかし、親にそれを言うのは恥ずかしい。だから、幼馴染みに協力してもらった。
「ね?お願い。あんたんちにゲーム機とか置いてくれない?恥ずかしいから」
「それを言われて、はいそうですか、とでも言ったらお前は何て返すんだよ」
私はしばし考え込んで一言言った。
「男が乙女ゲーやるとか少し引く」
「だろ?待て、なんで僕もやる前提なんだ?うっかり流されるところだった」
私は大きな溜め息を吐く。こいつは何を言っているんだ。そんなの地球が出来る前から決まっている。
「語り合いたいから」
「お前は僕達の噂を知らないのか」
突然、ずれた回答をしてきた。噂なんて何もないよ。私、美人じゃないから恋人だとかっていう王道の噂なんて立ちやしない。まさか、私がこいつから金を巻き上げてるとか?あり得る。即刻訂正しなければ。
「はあ、鈍すぎ。僕達が付き合ってるんじゃないかって噂だよ。クラスの皆は噂してないけど」
「当たり前でしょ」
私の幼馴染みはそれから勝手に喋り出した。女子か!いや、差別はダメだ。
「クラスの皆は僕達が付き合ってるのは当たり前。そう思い込んで、別の噂をしてるよ」
「どんな?あと、皆勘違いしてるのしってんなら訂正しとけ」
「ヘエヘエ、分かりました。話戻すよ。いつ結婚するんだ。どこで式挙げるんだ、とか」
「想像力豊かだこと。嫌じゃないの?こんな奴とそんな噂になって」
「嫌だって答えたら?」
今日はずいぶんと回りくどい言い方をする。しかも、真剣だし。
「そっか」
私は一言発する。すると、幼馴染みは突然立ち止まる。そして、振り向いて私の顔を正面から見つめる。夕方だから顔が少しがかげっている。もしくは本当に暗い表情なのか。
「ものすごく嬉しい。そう答えたら?」
そう言った彼の顔はあまりにも美しかった。こいつは昔からモテていた。小学生の頃からの付き合いだが、この顔は私にしか見せない。これを見たら誰もが倒れてしまうと分かっているからだ。今は人通りが少ない場所にいる。そして、この顔は、彼の人生に関わるぐらい大切な話をする時にしか見せない顔。
「私は、嫌、だなあ」
私は、そう答えた。答えてしまった。彼が、何を私に求めているのか分かってしまったから。
「そっか。じゃあ、もっと僕がお前に嫌われることを今から言うね。絶対、逃げないで。最後まで聴いてね」
私はその場から決して動かないようにした。
「僕、ミカのことが好きだ。出会った時から好きだった。いつか、気付いてくれると思ったけど。ずいぶん鈍感だね」
彼の笑顔はあまりにも寂しかった。いつものように抱き付いて、大丈夫。守ってあげる。心配しないで。そう言ってあげたかった。でも、今は。
私がいつまでも答えないと、彼は再び話し始めた。
「ねえ、覚えてるかな?僕達が出会って数ヵ月の頃、僕が告白されたの」
ああ、そんなこともあった。小学一年生の頃だ。それがどうしたのだろう。
「僕さ、君に質問したよね。告白の返事を相談する振りをして」
私は当時の思い出を引っ張ってくる。
『ミカちゃん。ぼく、告白されちゃった。どうしよう』
『すごいね!さすが日向くん!』
『ミ、ミカちゃんはさあ、もしぼくに告白されたら何て答える?』
あの時、私は何て答えたんだっけ?その後、日向は告白を断ったと噂で聞いた。さすがに本人に聞くのははばかられたから。そうだ。あの時、実質告白されたも同然だったのではないか。私は。
「僕ね。言ったんだ。『好きな人がいる』って」
ダメ。これ以上この場にいたら、なんでも話せる幼馴染みじゃなくなる。
「返事、聞かせてくれる?時間あげたから」
私は、全力で逃げ出す。日向は追ってこない。私はとにかく乙女ゲーを適当に買い、家に帰る。明日が土曜日で良かった。二日は会わずに済む。
私はそれから二日、乙女ゲーに没頭した。このゲームはどうやらモブキャラ目線で進むらしい。このモブキャラは設定の面で色々複雑だが、どうでも良い。ヒロインは天使のような子だった。一番最初の攻略対象は製作の悪意を感じるくらいクズだった。だから、捨てました。それから続々と出てくる攻略対象を攻略していき、あっという間に二日が過ぎた。
インターホンが鳴らされる。自分の部屋の窓から玄関を見ると、日向がいた。はっきり言って、会いたくない。お母さんに言って、上手く追い払う。教室では席が隣同士ではあるけど、必要最低限話さないようにする。
「教室に着いてしまった・・・」
私は仕方なく教室に入る。皆が明るく挨拶をしてくれる。私もなるべく明るく返した。席に近付くと日向が挨拶してきた。私は声を低くして挨拶し、席に座る。このままでは話しかけられるから本を読む。気分じゃないけど仕方ない。
日向は何か言いたげだったが、私の話しかけるなオーラを察知し、眠ってしまう。そんな私達をクラスメイトはどう思ったのだろう。
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昨日の帰り、僕は幼馴染みのミカに告白した。ミカは結局逃げてしまい、返事は聞けなかった。朝もいつも通り迎えに行ったが追い払われてしまった。教室で挨拶してもぶっきらぼうに返され、読書を開始。僕も仕方ないから眠りにつく。
理科室に移動していると、友達から話しかけられた。
「おい、嫁さんと何かあったのか?喧嘩か?」
「嫁、ねえ。本当に彼女になってくれるのやら」
「は?どういう意味だよ」
「昨日の帰り、告白したんだよ。でも、逃げられちゃった」
友達はずいぶん驚いた顔をした。なんだよ。お前達が噂してたんだから望みを叶えてやったんだぞ。そろそろ告白しようと思ってたのも事実だったし。
「大胆だなあ。日向は。尊敬するよ。で?何て言って告白したんだ?」
「出会った時から好きでした」
「え、マジ?じゃあ、お前は九年間も片想いだったのか」
「そうだよ。悪い?」
僕は友達を睨む。友達は若干引きながら言った。
「お前の愛は、重そうだな。独占欲というか束縛系の彼氏になりそう」
「どういう意味だよ」
「そのままの意味だよ。ずっと家の中に閉じ込めておきそう」
「時々出してあげるよ」
「否定しろよ」
ミカが可愛いのが悪い。
僕はとにかくミカに話しかけようと必死だった。どうしても避けられてしまった。まるで鬼ごっこのよう。ここで、僕は諦めてしまった。明日、何が起こるかも知らずに。
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私はその日は逃げ続けた。帰りも一人で帰ることにした。今はトボトボ歩いていた。告白の返事、どうしよう。そんなことを考えていると私の体が突然軽くなり、直後に硬いアスファルトに打ち付けられる。車に轢かれたようだ。私を轢いた車はそのまま逃げる。その後、私の意識は完全に途切れた。
『ミカの遺体は翌朝発見された。発見者は幼馴染みの日向だった』
重い!最初から重い!自分で書いてて気分が暗くなりました。いや、日向の想いはどうなる。