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プロローグ

大きなシャンデリアがホールを明るく照らす。ドレスや宝石をこれでもかと身に付けた令嬢やスーツを着た令息が楽しそうに談笑している。私はそんな人達から離れたところで黙々と軽食として用意されたものを食べる。うーん、実家だと私が前世の記憶があることを領地の民や家族、召使いとかも知っているから私の食事は和食中心になる。どうしても洋食は慣れない。日本人の味覚に合うように作られたものじゃないからね。


「まあ、見てくださいまし。あの子の格好、地味過ぎではありませんこと?男爵令嬢風情ではあの程度のドレスしか用意できなかったのね。お可哀想!」


私は自分のドレスを見下ろす。父と母から受け継いだストレートの長い黄緑色の髪、王族の血を引いている者に現れると言う紫色の瞳に合わせ、黄緑を基調としたドレスに、アメジストで統一したアクセサリー。

彼女達は地味と言うが、これは叔父である国王が用意してくれたものだ。それを地味と言うのか。私が一言報告すれば、あの子達の家は取り潰される。だって、私が王族の一員だと知らないのは仕方ないにしても国王の用意したものを批判したのだ。つまり、捉えようによっては国王を侮辱したと言われても仕方がない。


「この世界の貴族の九割の人が死んだ方がいい」

私の呟きは誰にも聞こえない。いや、聞こえない方がいい。叔父に知られたら本当にそうしてしまう。私を溺愛しているのもあるけど、私の言葉は国王の発言より優先される。何でかはここで話すと長くなるから後々。


「第二王子がいらっしゃったぞ」

誰かがそう言った途端、各々が礼をしていく。礼の仕方は国によって異なるため、どんな礼をしても無礼には当たらない。だって、この学園には様々な国の貴族が集まっている。そんなのでいちいち処罰してたらきりがないし、外交問題にも発展してしまう。


シャンデリアの光を受けて光り輝く金色の髪、王族の証である紫色の瞳の持ち主の第二王子、サナマ・フォン・アナラーハナタ。彼は隣の少女と腕を組んで歩いてくる。私も適当に彼に対して礼をする。彼には婚約者がいたはずなのに。めっちゃ可愛い天使のような儚く可憐で守りたくなるような令嬢がさあ。私の親友ですけどねえ。


私はクソ王子の隣でうっとりとしているクソ女を見る。明らかに私より美人である。それはこの世界に来てから常々思うことであり、大抵の人は私より美人だから、一種の美術品、と言うか私は傍観者に徹し生きていくと決めているから何とも思わない。元々この世界の住人ではないのだから。ただし、親友が関わらなければ、という注意書を添えて。


クソ女はこの世界では珍しい黒髪黒目の持ち主。詳しく描写すると反吐が出そうだから美人ということだけ分かればいい。


傍観者らしく二人を見つめながら、食べ物を口に詰め込んでいく。私はクソ女からちょっとしたいじめを受けており、まともに食事が取れない時が度々ある。その時は、私は従者に和食を作らせ、夜な夜な食べている。従者には夜中に食べるな、と言われているが、腹が空いてしまうのだから、と言い訳。学園は全寮制で、実家には長期休みにしか帰れない。和食も食べれない。だから、彼女には何だかんだ言って、感謝している。親友をいじめていなければ。


腕を組んで入ってきた二人を批判する声が所々から聞こえてくる。しかし、王子が少しガンを飛ばしたため、黙り込んだ。私は特に気にしない。物語通りに進めばいいの。あの子が私を頼って、一緒に暮らせればいいの。あの子には少しだけ絶望を味わってもらうことになるけど、必要な行為だと割り切る。ごめん。心の中で謝る。後で、全て教えてあげるから。私の秘密も。


王子達はホールの中心で立ち止まる。皆、何事かと戸惑っていた。私を除いて。ん?何人か王子達を睨んでいる。どこかで見たことあるわね。あ、叔父が遣わした貴族の子供だ。あの子達はまともな貴族だから私の護衛と言ったところか。


「クロベル・フォン・ラズベル、出てこい!」

そう言われて新たに少女が王子の前に出てきて、礼をする。彼女はクソ女を見て僅かに目を見開くが、すぐに王子を見つめ直す。さて、どうなるかな。

「殿下、婚約者として忠告致します。はしたないですよ。王族としてあるまじき行為だと思われます。婚約者以外の方と腕を組むのは殿下のためにもなりません」


彼女は私が実家に連れ帰ろうとしている少女であり、私の親友であり、クソ王子の婚約者の公爵令嬢だ。はあ、何でこんな良い子を手放そうとするのやら。私が仕組んだことでもあるため、王子だけのせいではなく、私にも非があるから大それたことは言えないが、彼女のことを本当に愛しているならこんな罠には引っ掛からないはずだ。


「女は男に素直に従っていればいいんだ。シルを見習え」

王子はシルという黒髪の少女の肩を抱き、引き寄せる。クロベルに見せつけるようにわざとやっていることは明白で、既に王子の評判はがた落ち。いいぞ、そのまま落ちるところまで落ちてしまえ。


「殿下、わたくしは殿下のためを思って・・・」

「うるさいわよ、悪役令嬢が」

シルが突然話し始めた。おいおい、礼儀知らずにもほどがあるだろ。お前はただの伯爵令嬢、クロベルは公爵家よ。遮っちゃダメでしょ。


私は呆れてしまう。クズしかいない。乙女ゲーの世界とはいえ、ひどすぎる。このせいで私は何度テレビとゲーム機を壊してお母さんにしごかれたことやら。


「シル。もういい。クロベル、貴様との婚約は白紙に戻す。国王である父上の許可も得ている」

クロベルは国王の許可も得ていると聞き、顔を青ざめさせていく。はーい、知ってまーす。その許可、正確には神の使いとして私が出しましたから。これで、神の承認を得たも同然。彼らは何があろうとよりを戻すことはできない。ざまぁみろ。どっちが不幸か、皆気付いている。パッと見クロベルが不幸だが、本当は王子達が不幸だ。だって、王家と家の婚約を破ったのだから。王子の王位継承権は剥奪、王族としての権力も封印。シルも勘当。二人揃って平民落ち。私がシルだったら余裕で平民として生活できるから王子を捨てて冒険者として暮らしていく。前世、平民だし。現代日本人ですが。


クロベルはそれに気付いたから青ざめている。確実に二人は飢え死にする。ちなみに、クロベルは平民に落ちても生活できる。なぜかって?私が鍛えたから。生きていく術を一年で叩き込んであげた。これから男爵の家で過ごす。念には念を、だ。まあ、うちの場合、公爵家と同じ生活ができるけど。リアクションを知りたいから上手く誤魔化してる。でもなあ、察しが良いから気付いてそう。私の秘密含め諸々。


「ふん、今さら懇願しても遅いぞ。平民の生活がお前に耐えられるかな?」

余裕です。むしろ今より生き生きと生活できるかも。貴族の皆さんは勘違いしてるみたいだけど、平民の生活の方が健康的だ。別に建物だって、生活できるぐらいにはきれいに整っている。国王のお陰でね。貴族は基本、平民を見下して、訪ねたりなんかしない。うちの領地がおかしいけど、それは今は関係ない。そろそろ私の出番だ。


「分かり、ました。では、実家の方に連絡しておきます。今まで、ありがとうございました。贈り物に関しては誕生日プレゼント以外は返却致します。殿下個人がご用意してくれましたので。わたくしからのプレゼントは花束だけなので、返却できないと思います。ですので結構」

深々とクロベルは頭を下げる。しっかりしてる。見習わねば。


「そう言えば、貴様はシルのことをいじめていたな。公爵家の人間だからと威張っていたと聞いている。よって、貴様を牢に入れてやろう。騎士団、入れ!」

王子は叫ぶ。よし!


「その必要はありませんよ、クソ王子!」

私は腹の底から声を出してやる。皆驚いてる。そうそう。私に注目して。

「お前らが牢にぶちこまれるんだよ」

私は長い髪を軽く払って、ホールの中央にヒールの靴の音をこれでもかと響かせて歩く。

「き、貴様。この僕を誰と心得て・・・」

「第二王子?だから何?あんたは私より下の身分でしょうが。鑑定の能力使って私のステータス、見てみなさいよ」


この王子は珍しいことに鑑定の能力を持っている。私は神の使いの能力のお陰で鑑定できたり、妨害したりできる。つまり、私がこいつの鑑定を妨害できたら、それは神に準ずるものだと証明できる。鑑定させてもいいけど癪にさわる。

「鑑定」

王子は鑑定をした。しかし、直後に無機質な声が響き渡る。ホールの人間に聞こえるぐらいの声が。誰の声でもない、しかし、皆聞いたことのある声が。

『鑑定の能力を感知。神の使いの称号により、この鑑定を妨害致します』


「鑑定の、妨害、だと・・・?」

王子はそれを言ったきり、黙ってしまう。シルなんて座り込んじゃったよ。神の使い、この世界が私をそう呼んだ。つまるところ、この中で一番権力があるのはこの私。ドレスが地味だと言った子を見ると震えている。

「はあ、だる。騎士団、こいつらを着替えさせて。いや、王族の金で買ったものだけひっぺがせばいいや。さすがに無一文で放り出すのは可哀想ね。これから平民になるのに」


王子達は「意味が分からない!」とか「男爵令嬢のくせに」とか騒いでいたけどしーらない。勝手に死んでいけ。目障りだ。奴隷にしなかっただけありがたいと思え。時間の問題だが。


私は悪役令嬢の如く手を振り、次はとびきりの笑顔で振り向く。あるはずの顔がなくて探すと下に合った。

「えっと、クロちゃん。何してんの」

土下座してた。いやいや、なぜに?

「申し訳ありませんでしたー!神の使い様だと知らずにタメ口きいたりしてしまい。どんな処罰でも甘んじて受けますので、どうか、家族だけは見逃してください」


あーこれは大変や。誤解解くの。

十話ぐらいで終わるかな?

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